33話 剣才の集い、宝刃戯派
確かに、それは考えもしなかった。冰有国の武弁達は戦っていたが、肝心の氷茁閣側の動きは何一つ不明なまま。
「まさか──────」
「確定じゃない。でも十分にあり得る話だ。あの武弁は氷茁閣で見た武弁とは服や装備が違う。氷茁閣から出てきたものではなく、門番や見回りなどだろう」
戦力的には見回りなどの武弁より、国主に仕えている武弁の方が明らかに強いだろう。なのに何故。何か事情があったのか、それとも──────
「とりあえず、氷茁閣に行こう。何かわかるかもしれない」
「ここから少し距離があります。飛んでいきましょう」
陳湛は扇を急いで取り出し、勢いよく腕を振って風を起こし我々は氷茁閣へと向かって行った。
◇
陳湛の術色によって、氷茁閣に到着する。本当に、ある程度の距離を移動する際に熟練の翠使いが居ると助かると心底感じさせられる。
辺りは暗く、音も一切なし。この静けさが、不気味さを増す。三人は目を合わせて頷き、扉を開ける。
すると、
「!──────」
目の前に広がっていた光景は想像を絶するものだった。なんと、氷茁閣で働いている者や武弁達が皆血を流して床に倒れていたのだ。
「捜索はお二方に任せます。私は急いで人を呼んできます」
と陳湛は慌てながら氷茁閣から出て行った。外に出る様子を見た後に振り返ると、崩星は倒れている人の首に手を当てていた。
「何が、どうなっているの…?」
「一応この人の脈はまだある。他全員があるかどうかはわからないけど、皆死んでいるわけではないらしい」
瞬間。
「あら。結構早かったのね」
上の方から女性の声が聞こえてきた。声のする方へ顔を向けると、そこには亜麻色の髪をした緑色の瞳を持つ者が立っていた。
「誰!」
するとその女は笑った。崩星が後に続く。
「質問に答えてもらおうか。こんな気味の悪いものを見せられて気分が良くないんだ。君は何者だ──────」
彼女は机に上り手摺に上がる。そして、こう答えた。
「宝刃戯派──────四将軍よりも上の存在である「神」を信仰し、卑劣な仙人の束縛から人類を解放せんとする者よ」
そして彼女は、鞘から剣を取り出して撫でる。尚無鏡にはそれが何であるかは知らない。だが気配だけは知っている。
魔剣だ。かつて私が所持していた秘剣より高い装位である『極』の剣。知る限りでは将軍と一部幕下しか持ち合わせないもの。何故、そんなものが──────
「私の名前は承影。魔剣を持つことを許された、剣神の子」
剣神、の子──────?
聞いたこともない概念だ。だが、彼女は魔剣を持つことを許されている。多分、とんでもなく強い。そう思考が過ると同時に承影は振り向いてどこかへ行こうとする。
「待って!」
止まった彼女は微笑んでこう言った。
「すぐにまた会えるわよ。無事に国主の部屋に来れたらね」
そう言って、彼女は去って行ってしまった。
「──────」
「阿鏡、行こう」
崩星が背中を押してくれる。宝刃戯派だか何だか知らないけど、何を目的としてこんなことをしたのか暴くためにも、今はこの空間を進むしかない。
歩く。灯りは一切なく、あるのは倒れている人のみ。奇妙な雰囲気が漂う。
「一体何があったの…」
「わからない。でも何か、また大きな事が起ころうとしているのがわかる。でも厄介な妖血歩団を倒した僕等ならへっちゃらだよね」
「ふふっ、そうだね」
この重苦しい空気に押される私を和らげようとしているのだろう。彼なりの気遣いに心が少し落ち着く。だが、そんな時間を許さなかった。
「─────危ない!」
崩星は叫んで尚無鏡を後ろに押した。何が起こったのかわからない。だがそれはすぐに──────
「──────崩星!」
前方に翡翠色の線が何個も光るのが確認できた。そしてすぐにその光は、斬撃となって崩星を襲った。彼の血が一滴、尚無鏡の頬に付着する。
「崩星…大丈夫────?」
「ああ、別に深い傷じゃない。僕は全然平気だ」
「私がもっと注意していれば…」
「いや、これは突然現れた。一体何だ、この罠は…翡翠色の光、翠の術色?でも型は…形は攻撃術のようにも見えた」
傷を抑えながら崩星は考察する。無事に来れたら、とはこういうことだったのか。何が目的なんだ。承影。宝刃戯派。
崩星の背中に手を当てながらしばらく歩く。先ほどのようなことは起こることなく国主の部屋の前に辿り着いた。
二人は見合わせて扉を開く。刹那、開けたと同時に目撃する。倒れている国主・銀裂の姿を。
「国主!」
意識があったのか、尚無鏡の叫びにすぐ応答した。
「────よかった、来てくれたのね…ごめんなさい。国主として……恥ずかしい失態だわ。まさか、何も守れないなんて…不甲斐ないわ」
「国主は悪くありません。貴方様を傷つけた、奴等です──────」
目前を睨む。
全開の大窓の前に五つの影が確認できる。大人の男が一人、大人の女性が二人、子供の男女が一人ずつ。
「よくここまで来れたわね。一人は脱落するものだと思っていたけれど」
「黙って。あんた達の目的は何?何故こんなことを…!」
すると男の子供が口を開いた。
「こんなこともクソも無いね!俺達が欲しいのは宝剣、それだけなんだぜ!」
見ると彼の手元には『宝剣・沈帥』が握られていた。あれは崩星が任務で持ってきた模造品ではなく、本物の宝剣。
「我々宝刃戯派は、仙界の将軍よりも上の存在である「神」を信仰し、卑劣なる仙人共のくびきから人々を解放する者。お前達の信仰している仙人は我々を束縛する人類の敵だ」
「私達はあらゆる国の宝剣を集めて、世界を変える」
世界を、変えるだって──────!?
すると彼等は、大窓からどんどん飛び降りて行った。
「それじゃあね。またどこかで会いましょう」
逃がさない、あんただけは。と、手に炎の剣を生成し、承影に斬りかかる。しかし、その炎の攻撃は彼女の魔剣によってそれは防がれてしまった。尚無鏡が睨むことに対して、彼女は微笑んでこう言った。
「良いこと教えてあげる。私達が求める宝剣はあと三本。もし本気で止めたいのなら、より見聞を広げて追いつくことね。それじゃ、バイバイ」
炎の剣を容易く砕き、後ろの窓へ入って行く。急いで下を覗きこんだが、そこにはもう誰も居なかった。
「くそ……」
その直後、氷茁閣へ行くための階段から声がする。確認、正体は陳湛等だ。彼女が応援を呼んできてくれた。これでここに倒れている人達を救える。お願い、皆生きていて──────
◆
陳湛が応援を呼んできたおかげで、氷茁閣で倒れていた者全員は運び込まれた。重症の者も居たが命に別条はなかった。
私もそのついでに柳燃の様子も見てきた。近くには明萋歌も居たが、今は何故妖血歩団を裏切ったのか聞く余裕はなかった。
魏君も無事に目を覚ました。開口一番「申し訳ございませんでした」だったが、別に怒っているわけでもないので「いいよ。無事で何より」と返した。
外の空気を吸う。妖血歩団を片付けて、輝月祭を思いっきり楽しめると思っていたが、どうやらそんな余裕は無いらしい。
既に誰も居ないところで思子宗と通筆書で会話を済ませた。近い内に報酬が渡されることもだが、彼女は奴等の動向を調べてくれるそうなので次の目的地は彼女次第と言ったところだ。一体何者なんだ…
「宝刃戯派……」




