表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仙華頌籟 -A fateful reunion beyond a millennium-  作者: 織葉りんご
第一部 第一章 往時の記憶と復讐の紅血
30/159

30話 切れた糸、怒れる仙人

「どうせあんたは私に勝てないし、教えても問題なさそうだから教えてあげる。これはただの攻撃術の応用。攻撃術で生成された物質は任意のタイミング、ある程度の衝撃で液体になるの。衝撃によって液体になった場合は再構築が不可能だけど、自分で液体にしたのなら別。まぁ、できるかどうかはあれとしてもその応用自体は皆基本知っている。本当に塗着術のことしか知らないんだね」


 シャン無鏡ウージンは言い終わると、くるりと方向を変えた。その行動に、チウハーは疑問を抱く。


「あ?俺に背中向けてどないなつもりや」

「何回も言ってるでしょ。あんたは私に勝てない。だから、今最も優先するべきものは、あの黒い柱を何とかすること。訓練でも稽古でもないんだし、弱い奴に構ってる時間はないの。何をしても、あんたじゃ私を止められないから」


 攻撃術の応用を知らず、彼等に対して行ったすり抜ける斬撃も繰り出す前に屠られる。いくら体が頑丈と言えど、攻撃を受け続ければ死に至る。

 現状、チウハーシャン無鏡ウージンを攻略する兆しが全く見えない。これ以上続けなくても訪れる限界、今際の際、場所と相まって崖っぷち。そう判断した。

 シャン無鏡ウージンは足を崖の方へ出す。


「おいおい、折角会うたんやさかいもっとお話ししていかへんか?そう急がんでもええやん」


 舌を回す。

 されど、彼女の歩みは止まらず。


「復讐せんでええの?妖鬼遣わしてあの(ミンチー)刺したんやで?」


 されど、彼女の歩みは止まらず。


(魏君)二人(と木煙)は俺が斬った」


 されど、彼女の歩みは止まらず。


北源ベイユエンは俺が殺した」

「───────────」


 刹那。歩みは、止まった。

 狡猾な舌は歩む彼女を止めた。


「なん、だって───────?」

 さらに舌が回る。


「あ?聞こえへんかったん?せやから北源ベイユエンは俺が殺したって言うたんや。ピーピーやかましいし邪魔ばっかしてくるさかいムカついて殺したわ。なんやこっち見て。はよう行ったらええやん。あれ止めるのんが先なんやろ?ほらはよう行けや。天国で見てる北源ベイユエンもそう思ってるで。もしかしたら、地獄から見上げてるかもなぁ。ギャハハ!」



 突如、シャン無鏡ウージンの何かがプツンと切れた。解れていた糸が限界を迎えたのではなく、何の余興も無く鋏で切られたように。

 崖の下で流れる川の音も、揺れる葉の音も、何も耳には届かなくなった。


「なんやこっちみて。はよう行ったらええやん。あれ止めるのんが先なんやろ?はよう行けや」


 もちろん、チウハーの言葉ももう届いていない。

 あるのは怒り、絶殺のみ。

 瞬間。


「───────は?」


 先ほどまで崖際に居たシャン無鏡ウージンが、一瞬にしてこちらに来た。

 視界は黒。正体は彼女の掌。ガッとシャン無鏡ウージンチウハーの顔面を鷲掴みにする。


 なんやと。術色纏えへん。いや、纏うてる。纏うてるが、纏う前に触れられたせいで、コイツも一緒に纏うてるんや。


 そう、チウハーが術色を纏う速度より、シャン無鏡ウージンが顔面を掴む方が速かったのだ。彼女に触れられた状態で塗着術を発動したが故に、シャン無鏡ウージンも一緒に術式を纏ってしまった。本来であればあり得ないが、規格外な塗着術であったが故の弊害。

 チウハーも既に理解している。塗着したままでも、塗着を解除しても、結果は──────


「ンガッ─────!」


 シャン無鏡ウージンはその勢いのまま、後方にある木にチウハーの頭を打ちつけた。


「カ、ハ─────」


 何度も。


「あが──────…」


 何度も。何度も。


「ぃ───………」


 何度も。何度も。何度も。


「───────」


 何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。


「───────」


 何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。


「───────」


 頭を打ちつけている木はだんだんとへこんでいく。後頭部はただの肉細工と化し、狡猾な舌すら回らなくなるほど。

 無意識に、もうこの木では耐えられないと判断したのだろう。チウハーを上に放り投げる。力が入っていないので体は宙をくるくると回る。

 先ほど仕舞っていた弓を再度取り出す。さらにもう片方の手には術色で剣を生成する。けれど先ほどとは異なり、刃の部分は円錐状となっている。

 狙いを定める。目標は心の臓。故に、


「死ね───────」


 天空目掛け、赤く燃える剣は放たれた。そして2秒も経たずして、上空で大爆発が起こった。夜を、崖を。そして彼女を照らす。

 鬼将の呪いで死んでいた方がマシだったなんて思いもしなかった。あなたを救えなかったことを許してほしい。もう遅いかもしれないが、今はどうか、ゆっくりと眠って。


「───────」


 天空の大爆発を以って、チウハーとの決着はついた。冷静を取り戻し、状況を確認する。

 闇は依然。黒い柱の下へは誰も行っていない。辺りを見回すと、バンシン陳湛チェンジャンが数体の妖鬼と戦っているのが目に入る。私一人でも止められるだろうけど、相当の時間と体力を必要とする。故に複数人で処理した方が良いと考えた。

 急いで加勢しなければ。そう判断し、シャン無鏡ウージンは崖を飛び降りた。



                  ◆



「ハァ……ハァ…────ク、カカッ。ツメが甘いんじゃクソアマァ…」


 路地裏にて、傷だらけの男が地を這っている。息を荒げながら誰も居ない虚空へと小言を吐く。


「アホが…俺から手ぇ離したのんが間違いやったなぁ……このまま街に出て住民の血ィ吸って回復や…まだや、今度こそあいつを──────」


 時が止まる。地を這うための腕が動かない。困惑しながらも顔を下に向ける。

 凍っていた。感覚が麻痺していたため気付かなかった。そして耳に知っている声が届いてきた。


「よくやった柳燃リューラン。これで簡単に殺せる」


 奥の角から二つの影が現れた。曜血鬼と柳燃リューランだ。目線を上に、チウハーは睨む。されど、


「ガ──────」


 ドスッと音を立て、曜血鬼はチウハーの心臓を掴んで引きちぎる。滴る血に目もくれず、心臓を眺めている。


「おい、そんなことしてないで早く殺せ!そういう約束だろ」

 瞬刻。

「──────な」


 曜血鬼はその心臓を柳燃リューランの体に埋めたのだ。

「本当にお前は何も学習していないようだな。お前が皆に迷惑を掛けない最高の方法は、ただ黙っているだけだというのに…俺とて同じ気持ちだがチウハー、お前の計画にはつくづく呆れていた。その死に体で、俺の完璧な計画でも見ているんだな」

「僕を…どうするつも、りだ──────」


 曜血鬼は黒く伸びた光を見ながら言った。

「あれはただ力が漏れているだけだ。そして今から、あの場所にその力に耐えうる器を設置する。そうすることで、この国諸共晄導仙華を殺せると言うわけだ。焔血鬼の存在をあれから未だに感じ取れないのが心配だが、それも時間の問題だ」


 言い終わると、曜血鬼はその黒い柱の方へ飛んで行った。


「────く、ハハ……ギャハハハハ!」


 一人残されたチウハーは、狂ったように高く笑い声を上げた。


「そかそか。ハハ、ええで。ええで。けどな、所詮何も守れない隊長よ…俺が先にこの国ぶっ壊したるわ──────!」


 体をぐらりと大きく揺らしながらなんとか立ち上がり、ある場所へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ