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仙華頌籟 -A fateful reunion beyond a millennium-  作者: 織葉りんご
第一部 第一章 往時の記憶と復讐の紅血
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28話 嵐の前、妖の彫像

 翌日の昼過ぎ。シャン無鏡ウージンが昼までに確認できたことは三つ。

 一つは、バンシン陳湛チェンジャンが無事に模造品を届けることができたこと。模造品に傷が無いのを見て、街で起こった戦いを知っていた銀裂インリエは大変喜んでいたそうだ。

 もう一つは、ムーイェンが目を覚ましたことと、ウェイジュン明萋ミンチーはまだ眠っていることだ。ウェイジュンの傷は深かったし、明萋歌ミンチーガもショックが大きかったはずだ、無理もない。

 最後は、チウハーは匠歩国に居たチウハー本人で間違いないと目撃した陳湛チェンジャンが言った。彼は匠歩国の民で晄導仙華をとても信仰していた。自分の考えが合っているなら、もしかして──────


「もう大分良くなりまし…イテテ」

「無理しないでください。あなたはまだ完全には治っていませんから」

「そうだよ。安静にしてなきゃ」


 起きようとするムーイェンを二人が止めた。すると、入り口の方から柳燃リューランの声が聞こえてきた。


「おはようございます。僕これから果物を買いに行くんですけど、何か要りますか?」

「私は特に…」

「あ、じゃあ私濃茶欲しいかも」

「わかりました。行ってきます」


 そう言って柳燃リューランは買い出しに出かけて行った。見送った後、シャン無鏡ウージンムーイェンに尋ねた。


「それで、チウハーとの戦いはどうだったの?」

 ムーイェンは息を吐き、横になったままあの戦況を話した。


「まるで、一つ一つの攻撃が無駄の様でした。彼の塗着術は異常、自身の体と術色を一体化することができる」

「術色と、一体化……」

「妖鬼の身が故に、際限なく技を強化できるという訳ですか…」

「彼の口からもそれが出てきました。斬撃はすり抜け、彼の斬撃もこちらの防御をする抜けてくる。隙を突いたと思ったんですが奴の武器を見誤りました」


 目元を掌で覆い隠す。

チウハーの武器は何だったの?」

「始めは茂みからの投擲、対峙した際は短剣でした。しかし、彼はもう一つ短剣を取り出したんです」

「双剣だったのね」

「しかもそれだけでなく、柄頭同士を結合させて両剣にもしていました」


 シャン無鏡ウージンはそれを聞いて考え込む。こちらの攻撃はすり抜けて無効化、あちらの攻撃は防御をすり抜けて当ててくる。


「でも双剣で入る隙が無かっただけで明確な弱点はあります。やはり塗着術の限度は越えど域を出ることまではできない。武器を塗着する時は体に術色を纏えないんです」

「でもそれをもう一つの剣で防がれてしまった…と」

「その通りです」


 なるほど。それならまだ勝算はありそうだ。そして、もう一つ気になることがある。


「まるで水の怪物と戦っているようだった…斬っても斬っても再生して…」

 そう、私も聞いていて煙というより水に近いと感じた。もしチウハーの塗着術が水を参考にしていた場合、アレが通用するかもしれない。水であれば必ず起こるものがある。

 そしてチウハーはよく宮廷の池を眺めていた。もしかしてそこから──────


「仙華様?」

 と陳湛チェンジャンがこちらの様子を伺ってきた。考え事に集中し過ぎていたらしい。

「ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事してて…」

 とはいえ試すだけ価値がある。


「情報ありがとうムーイェン。あとは私に任せて。あれ、そういえばバンシンは?」

「知りません」

 即答。

 いつまでいがみ合ってるんだこいつ等は……。


                  ◆


「ほう、まさか太陽が沈む前に来るとはな」


 日は傾きつつある。あの展望台に再びやってきた。夕方に来た時とはまた違った景色が目前に広がる。


「俺に協力してくれる、ということでいいな?」

「──────ああ。ただ、条件が一つある」

 黒い妖鬼は鼻で笑い、尋ねる。

「ほう?なんだ?」

チウハーを殺したら、君達も死んでくれ」


 よほど可笑しかったのか、それを聞いた曜血鬼は腹を抱えて笑う。

「クハハハハハハハハハハ!実に面白い提案だ!なるほど、確かにお前からすれば俺等は脅威だからな。いいだろう。その提案に乗ろうではないか」


 表情は変えず、柳燃リューランは目前に尋ねる。

「焔血鬼はどこだ?」

「ここには居ない。あいつは今周りを偵察している。チウハーを殺す時に邪魔が入っては困るからな」

「わかった。一応信じよう」

「それはありがたい。では行くとしようか」


 驚愕する。

「は?どこに?」

「いいからついて来い。チウハーを殺すのにしなければならない準備がある」

 そう言いながら曜血鬼は柳燃リューランの服を掴んで飛んでいく。


                  ◇


「死ぬかと思った…………」

「慣れているものだと思っていたが」


 切らした息を整えながら、前方に聳え立つ何かを見上げる。柳燃リューランは曜血鬼に問いかける。


「これは、なんだ?」


 目に入ったそれは、とても歪な形をしているスタチューだった。黒く、禍々しく、だがそれが美しいのか、柳燃リューランにはそれが判らなかった。


「これはただの彫像だ。別に芸術品ではない。チウハーを殺すためにはとても必要なものだ」

「一体どうやって使うんだ?」

「妖鬼の力を注ぎこみ、邪悪の波動を生み出す。俺は既にチウハーに『これを利用してあいつらを誘き寄せる。あなたは向かっているシャン無鏡ウージンの邪魔をすればいい』と言っている」


 返ってきた言葉に驚く。


「邪悪の波動だって!?そんな物を使うのなら協力は認められない!」

「まぁ落ち着け。俺は彼等を信じているからこの計画を練ったのだ。邪悪の波動自体は確かに危険だが、力を慣らすには時間が必要だ。ましてや、俺程度の力だと慣らすのには数時間必要。それよりも速くこの彫像を破壊してしまえば良いわけだ。彼等なら簡単だろう?」


 ウェイジュンさんはまだ眠っている。ムーイェンさんは動けるかどうか。チウハーの相手をシャン無鏡ウージンさんがするとなれば、動ける人物は陳湛チェンジャンさんとバンシンさんとなる。

 陳湛チェンジャンさんの実力は信用できるし高速で移動する手段もある。バンシンさんも謎に実力がある。この二人であれば問題は無いか。


「僕も彼等を疑っているわけではない……わかった、それで行こう」

「決行は日が山に沈み切った時だ。それまでお前は自由だ、好きにしていろ。ただ、覚悟の準備はしておけよ」


 そう言って黒い煙を出し、黒い妖鬼は姿を消した。

 とりあえず、用事は済ませた。あとは外に出る口実を作るために言った買い出しだ。買い出しに行く前に曜血鬼が居る展望台に寄ったので、これから急いで行かなければならない。

 日はだんだんと西に向かっている。作戦決行まで時間はあまりない。今のうちに休んでおかなければいざという時に失敗してしまうかもしれない。

 ──────秘策も、用意しておかないと。



                  ◆



 日が山に沈む。

 現在の状況。シャン無鏡ウージン陳湛チェンジャンは、ウェイジュンムーイェンが居る病室に、買い出しから帰ってきた柳燃リューラン明萋ミンチーの病室に居る。


「もう夜になるねぇ」

「昨日が異常だった、というのもありますが今日は静かですね」

 ガラっと戸を開けて病室に入ってきたバンシンが話に加わる。


「静かと言っても、街の方は準備で賑わっているけどね」

「静かと言ったのは何事もなく平和という意味で言ったのです」

「ギスギスしない!」

「警戒するのは当然です。こんな身分の知らない男なぞ、簡単には信用できません」

「見つけた瞬間にアージンの体を触ろうとしていた変態には言われたくないね」

「二人ともやめ──────」


 刹那。

 地が揺れた。そして、もの凄い邪気をこの場に居る全員が感じ取られた。


「な、なに…!?」

「外に出てみよう!」


 三人は急いで外に出て現状を確認する。

 目の前に広がる光景は、闇そのものと言ってもいいほどだった。遠くから紫色の何かが、天に向かって伸びている。それは、まさに──────


「黒い、柱……」

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