二章〜夢の現実〜4
時間がこえた。
ん。
時間がこえたとはなんだ。
さあ。
普通は時間がたった。というだろう。だけど、時間がこえたと認識してしまう。
で。
何を対象として時間がこえたのか。
無駄な考えで思考の遊びをしている。
時間の概念とはなにか。
概念とはなんだ。
そんな無意味な思考で遊びながら目の前の現実を直視するしかなかった。
逃避したいけど肌に感じる風。風が運んでくる匂い。鼻を突き刺すような腐臭とか。
足から感じるものさえ現実からの逃亡を許さない。
確実に踏みしめている地面の硬さと伝わる振動。
一歩はない。
踏み進むという道はなく。
あるのは数え切れない動くことのない絨毯。
躊躇いに抗う。
戸惑いは命を削る。
だから大きな一歩を踏み込んだ。
吹き飛んだ。
突然の事で受け身さえできず顔を強打し頬や顎に傷を負いながら転がり衣服の所々に穴が空いて大小の傷がつくられる。
痛みはある。
起き上がれない。
絨毯の材料の一つに成っていた。見上げる空には黒い大きな鳥と尻から燃える糞を大量にばら撒いている。
ああ。此処で終わるんだと目を閉じて待っていると。寸前の爆発がなく目を開けると何処までも続く空が視界を埋め尽くした。
これが噂に聞くというものだろうか。
そう考えていたが着ている衣服は先程と変わらず穴が空いて傷もある。
痛みはまあ少しか。
空に雲はなく一色。
はて此処は何処か。
とこれ以上の言葉が出てこないので取りあえず起きてみる。
しかし目に入るのは。
黒の地面と。
殺意の込められた無機質な物体の群れ。
怒りだけではなく恐れや戸惑い。混乱に憐れみも含まれていた。
後ろは見えていないが感じる死角でさえ並々連連と向けられる悪意に逃げ場などない。
溜息。
何故か。
溜息が出た。全周囲まれているな。と思いながら口から無意識に出た言葉は。
またか。
傾げる。
またかとはなんだろう。初めての光景であるはずだ。
だのに、またか。と口から出た。
出たからといって考えるという余裕はない。
悪意が迫ってこようとしているからだ。
迫る『群れ』とでも表現しようか。
全周囲に存在する無機質な物体は乱れることなく進行してくる。
試しに一部を削ぎ砕くも速度や感情に変化はなかった。
砕いたモノを観察しているとやはり生物的な部分はなく、無機質なつまりは金属的人工的。簡単に言うなら機械兵士とでも言う方が適切だろう。
しかし兵士というには問題がある。
兵士とは殺戮のために訓練されたもの。
だが周囲にいる機械兵士はその殺戮の類が内包されていない。
これは削ぎ砕いたモノを観察して解った事だった。
それに進行してくる速度も変わらないのであるなら簡単な事。
でも問題が一つ。
この群れとした機械兵士は何処まで続いているのだろうか。という簡単な問題がある。
見える範囲でも百以上はあるだろう。
一点突破するとして先の見えない現状では無謀であり馬鹿な考えだ。ではどうするか。
向かってくるモノの個体差というのがある。
少しの挙動だったり速度だったりだ。
一糸乱れること無いというのは機械でなら簡単だろう。
しかし全てが同じ時間同じ場所で起動をしたのか。と聞かれたら答えは否定しかない。
可能であったとしても確率的に何体かは起動しない可能性もある。
だとしてこの状況でその微々たる差を見つけるのは不可能。
ではその思考がどうなのか。
それも難しい。見た目が同じだとして意識が統一されているのかというのは別問題だ。
でも統一されている。
全てでなくともある程度はありえる。
その可能性に賭けるか。
いやしない。
否定していたのに身体は不都合も不自然もなく近くの一つを貫いて心臓部に触れると同時に内部を把握し機能を読み取り理解し分解し構築し拡げる。
すると全てではなかったが目に見える範囲は動作が不自然に動き一つの命令を出した。
立ちながら深いため息を空に向かって吐き出す。
腰に手を宛てながら一仕事を終えた気分に浸りたい。
目線を下に移す。
周囲には跪く機械兵士。
貫き把握し改竄し命令を実行させた。
一つの命令。
近くの存在を掌握せよ。
それは即席で組んだ一つの侵食装置。
触れた瞬間に装置は内部の奥へ走り防壁を無効化し病の様に感染する。
最後は一つの統一意思により自分を主と認識する。
今は機械兵士を前に一仕事を終えたような気分を吐き出すためのため息を吐いて近くの一つに質問する。
質問内容は。
その答えが呆れるほどに怒りと呆れが湧いてこない。
感情は止まっている。
ふっ。と息を吐き出して命令する。
総勢数百万もの兵士。
新しくあれ古くあれ個体差はあれど何時かは限界が来る。使えなくなるなら統合する。
そう合体だ。
勘違いしてはならない事があるとするならそれは、この合体が強化ではなく補強という形の延長線にあると言うこと。
耐用年数差がどれ程かは知りたいとは思わないが数万もの機体の中の見える範囲だけでも相当な数が廃棄寸前だろうか。
いや。自分が何かをしたから廃棄寸前ではない。
多分だが現れる度に数の暴力により駆逐していたのだろう。
何を。と聞かれるなら、それは。
視線を足下に移す。
地面に黒とはなんだ。
それは幾万もの遠い数の血の変色による地面の汚染。
それは奪われた命の数だけ染み負い重なり永遠とも思える世界というこの枷を繰り返していた。
結果。投入された機体の数。は幾つなのだろう。
とにかくか。
これ程の数と大量の血を流して染み込んで簡単に終わると思うだろうか。
最終的には数に圧されて命は地面に染み込んだ。無抵抗で。いや無い。
抵抗はあったのだろう。
それでも無意味な様に絶望の中で命は散っていった。
ああ。なんと。
話が変わっている。
あぁそうだ機械兵士の耐用年数と見える範囲の破損状況の違いか。
そう数の暴力に屈して命は散らされるが反抗するだろう。
何かを悟ったなら話は違ってくるだろうけど。
簡単に命を無駄にしたくないし生き永らえたい。というのが本能だろ。
だから反抗に会うということは機体に少しの傷やらが蓄積されていく。ということで積み重なれば機体の動作に影響が及び動きも思考と齟齬が発生して最後は廃棄。
そして数々の散らされた命は飛沫を撒き散らして地面に染み渡る。
何時かからは地面は汚染され変色し黒く染まり切る。
ははなんとも。
物思いに耽りすぎた。
動かず傅いたまま何かを待っている。
知ってはいる。
最初に繋げた機体の記録を読み奥に仕舞われていた本当なら最後の指令となる命令。
巨体の足元には残骸。
破片も散らばっている。
見上げる程の大きさで頭部が見えないし心配事がある。
命令が届くのか。
その懸念は杞憂だった。
原理は知らないが動けと言う命令に従った。
では改め、て。
咳払い数回。
最後にある本当の目的の為の命令を実行させる。
言葉を間違えないよう確実に。
その言葉一つでどうなるのか結果が見れないのが非常に残念だが仕方ない。
と、もう召喚先に行ったのか。
この結果が何をもたらすのか正直、気にならないのは嘘だけど知らない方が身のためだと理解している。
あの巨体だ。
何に対して使用されるのかは限定される。
創造か破壊。その何方でもない場合も考えられるが普通に考えても後者だろうか。
やった事に責任を持つつもりはないし何処に行ったのかもそれは検討価値もないし時間もない。
おや本当に時間切れのようだ。
視界は黒く染まり。思考は朧に浸かって。全身の感覚は麻痺したように無くなり。自分という存在さえも希薄に成っていく。
目覚めるのだろうか。
という疑問を残して。この世界に別れを告げることなく消滅した。
荒涼とした箱庭と残るのは使われなくなった残骸の山と小さな点滅が次第に速くなり最後は地面から空を巻き込む爆発を起こして世界は一掃された。




