9.色々教えてもらう
「なっ、ヴァン、無時、なのか?」
「ん?なんで俺の朝の目覚めにリヒトが同行してんの?」
「ぶ、無時なのだな?」
「いや、無時か無事じゃないかって、は?え、いや、なんの話してんの?俺今起きたばかりよ?」
「先生ー!先生はいますかー!」
え、急に大声出してどったの?え、リヒト、遂に狂ったのか?イケメンでいる事に嫌気が差したのか?イケメンは俺が代わるぞ。
「ちょっとリヒト君、ここ、病院ですよ?大声はよしてくださいよ。いくら君のお友達が寝たきりになってるとは言え、常識で物事を考えてよ。それに医者や私達看護師を呼びたいなら、ナースコールを使えば良いでしょ」
へー。リヒトのお友達が寝たきりになってんだー。……え、俺の知り合い?ちょっとこんな場所でゆっくり寝てる暇ないじゃん!お見舞い、なにかお見舞いの品を用意しないといけないじゃん!お金ないよ!
って、病院?ここ、病院なの?なんで?なんで俺、病院で目覚めてるの?
「それどころじゃないんですよ!ヴァンが、ヴァンが目を覚ましたんです!」
「またまた、冗談を。疲れ切ってるんじゃないですか?確かに目を覚まさない確率が99%だからって、あれは医者がご家族の方に最後の希望を与えるようなもので、実質100%、起きないって事ですよ?」
ほー。それはまた大変な症状、ん?俺が目を覚ました?ん?んんんんんん?なんで俺が目を覚ましてこんな興奮してんの?え、俺の子供でも誕生した?いやそんなはずないよな。
じゃあなんでこんな騒いでるの?
「良いから、病室に来てください」
「はいはい、……。え。ちょっとせんせー!速く来てください!至急患者の様子を見てください!」
……。
冷静に考えて、だ。病院で目覚めるのって、なんかおかしくない?というか絶対におかしい。だって病院で朝を迎えると言う事は、なんらかの事情で病院で寝泊まりする、つまりは入院してるって事になるんじゃ。
え、じゃあ俺は、入院していた、って事になるのか?なんでまた。そんなことに。
「ほ、本当に目覚めてる。どういう事だ?2日間も脳へ酸素が送られていなかったんだぞ」
「あの、俺って何があったんです?」
「お前さん、自分が何者かわかってるか?」
「は?いやどんな質問ですか」
「良いから答えろ」
「え、ええ。俺はヴァン。今年16になる、発展途上の冒険者見習い」
「記憶の混濁もなさそう、と。本当にあれだけのことがあって、無時に生命活動を再開するなんて、ありえるのか?」
一体このおじさんは何を言っているんだ?俺はただ寝て、起きただけじゃないか。あいや、入院してたのか。だから病院にいるんだもんな。
「と、とにかく。私からは、無時でよかったと伝えておこう」
「は、はぁ」
「だが最低でも、あと1週間は入院するように」
「へ、なんで?」
「直前の記憶がない?確かにそれならあり得るな。怪我も怪我だ。アドレナリンドバドバでその時は動いていたが、今はその時の記憶がなくなった。ない訳ではない」
「あ、あの」
「とにかく!1週間は絶対安静。以上」
え、あのおじさん、言いたい事言ってどっか行ったよ。俺の質問に答えろよ。医者なんだろ?患者の質問にぐらい答えろよ。
「わ、私は、見舞いに来てくれた人達に連絡をするわね」
「お願いします」
「それと、フォーセちゃんにも無事だったって伝えないと」
「え、フォーセさんもここにいんの?」
「当たり前だろ。ヴァンの事を心配してくれてたんだ」
「そりゃあ嬉しいけど、え、俺に何があったの?」
「本当に憶えていないのか?」
「いや、憶えてる憶えてないとかじゃなくて、え?俺、普通に寝ただけなはずなんだけど」
「これは一から説明して、記憶を取り戻してもらうしかないな」
いやぁ。なんか周りが騒いでるだけで、俺が置いて行かれてたんだよ、さっきまでの出来事。なんで俺が起きただけでそんなに騒いだのかもわからんし、そもそも俺が入院しなくちゃいけない原因も意味不明だし。
「まあいい。ボクが話すより、一緒に行動していたフォーセさんから話をしてもらった方が良いだろ」
「え、俺フォーセさんと二人で行動なんてしてたの?マジ?それでよく発情しなかったな」
「そういう状況じゃなかったんだ。まあ話を聞けばどういう状況だったかわかるはずだ」
そーなの?話を聞いただけで、状況が分かったりするもんなの?この現状を理解するには、話だけでどうにかできちゃうの?まー、理解できるのならなんでもいいや。
だいたい3分経過。
「本当に、目が覚めてる。よかったぁ」
「え、そんな腰抜かす事だったの?」
「ああ。まずはそこから説明しよう。ヴァン、病院で起きる直前の記憶はどうなっている?」
「え?どーって言われても、うーん?」
「ボク達は、学園主催の遠征で、ダンジョン探索をしていた」
「あー! やった、やってたそんな事!ほとんど憶えてないけど、フーコがバテバテだったことだけは憶えてるぞ」
「それで色々とあって、お前は1週間目を覚まさなかった」
「え、話飛びすぎじゃない?確かに目が覚めただけで腰抜かす事か、って言う答えは言われてるのかもしれないけど、もっとこう、その1週間寝込む事になった事情とかをさ。話しても良いじゃん」
まさかダンジョンに入ってた、1週間寝込んだ、って言われても、話を結び付けるには些か飛躍した内容じゃない?
だって、遠征で入れるダンジョンの階層って、3階までだろ?で、学園がそこまで行って良いよって許可出すって事は、俺達じゃ苦戦はすれど大怪我をするような事はないと踏んでのことだろ?こんな場所で冒険者人生を終わらせたら、学園の評価が落ちかねないじゃん。
なのに1週間も寝込んでましたよ、って言われてもな。話を繋げろ、って方が無理あるぞ、これ。
「詳しい事は私じゃないと話せない」
「ほー。俺とフォーセさんは、詳しい内容を共有しあった仲だったと」
「……」
「え、今のは場を和ませるジョークと言うか、そーゆーあれだったんだけど。何故に涙目になられるのです?とてもいたたまれないと言うか、女子を泣かせた男子と言う最悪なレッテルを張られる事になるんだけど」
「ヴァン、君な。もう少し、空気を読もう」
「いやそうは言われても、実際に何が起きたのかわかってないからなぁ」
「じゃあ黙ってるとかさ。不必要に嫌な思い出を掘り返さなくても」
「え?」
い、嫌な、思い出?俺、フォーセさんになにか不味い事でもしたの?え、嫌われてないよね?俺の青春はこれからだッ!っつて、学園生活幕引き、なんて俺嫌よ?
「まず、宝箱を見つけたと思ったら、それがトラップだった」
「ほー。学園も随分手の込ん、いや無理か。ダンジョンにトラップを用意するならできても、ダンジョンの加工はできないもんな」
「で、ヴァン君のおかげで、一緒に落ちそうになってたフーコは助かったけど、私達二人が、27階まで落ちた」
「27階!?は、ちょ、は!?なんでフォーセさん生きてるの!?」
「ヴァン君のおかげ」
……。。。、? !、……? ん?
「なんか、思い出せそうなんだけどなー。俺、恥ずかしい事とか言って無かった?」
「大丈夫。ヴァン君が思い出せなかったら、私だけの大切な思い出となるから」
「それは大丈夫じゃないかな~!? で、俺のおかげで助かったってどういう意味?」
俺、こういうのは言いたくないけど、多分フォーセさんよか弱いよ?守りながらエスコートできるような階層でもないし、一体なにを言っているんだ?
「まず、ヴァン君の能力のおかげで、高い場所から落ちた時、潰れなくて済んだ」
「お、おう、確かに3階ぐらいから一気に27階まで落ちたとなると、どんぐらい?大体1階で3.5mで、天井の厚さが1mぐらいあるから、一つ下の階層に行くだけで4.5m分ぐらい。それを大体20階分落ちたって事は、81mぐらいの紐無しバンジーをしたと。確かに普通じゃ助からない高さだな。で、俺の能力で助かった、と。ん?俺の能力ってなんなの?」
「2回も使えたから、多分風だね」
「ほー。でもまあ、使った記憶ねえけど」
まあフォーセさんと二人きりのダンジョン探索の記憶もないんだから、もちろん俺が能力を使った記憶なんてのはない。けど、この歳になっても発現しなかったものが発現したって聞けたのは、なかなかにでかい事なのではないだろうか。無能力者として蔑まれる日々を送らなくて済むようになる。
「とにかく、それで一度助けられた。そのあとはお互いに守りあう感じで上の階層を目指してた」
「本当に守りあったの?自慢じゃないけど、俺はフォーセさんどころか、リヒトにも劣るような気がするんだけど」
「お互いがいないと、今、私達はここにいない」
な、なんか照れる事言ってくれるじゃないか。嬉しいです。こう、お互いがいないとダメ、みたいなセリフは、彼彼女に依存しないと生きてけない、みたいな感じがして、良きです。なんか危険な発言してない?
「で、二回目だけど」
「うん」
「ミノタウロスが現れたの」
「え?それって30階より下に出るって言われてる、あの?」
「そう。で、私を逃がす為に、ヴァン君が囮になったの」
あー。なんとなく、わかる気はする。好きな人を生かす為に、自分が犠牲になる。自己犠牲の精神なんて褒められたものじゃないけど、それでもまあ、二人とも死ぬぐらいなら、どっちかが犠牲になって片方は生きられるって選択を選びたいよね。
「で、色々あって、私は逃げれた」
「でも俺も生きてる。囮になったのに?なんで生きてんの?」
「ヴァン、それを自分で言うか?自分の命を軽く見過ぎじゃないのか?」
「いやでも正論じゃね?ミノタウロスになんか勝てる道理がないじゃん」
「そこは、おじさんが話をしよう」
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