10.入院患者
こ、この人って、まさか!
「彼がヴァンを助けてくれた人だ」
「いや、彼って、冒険者で一番を競う冒険者だぞ!?」
「なっ、」
「いやぁ。自己紹介が遅れたな。おじさんはアーベルトって言うんだ。まあ冒険者の中じゃ、最強って呼ばれたりしてる。最強って訳じゃないからな」
俺の憧れの人だよ、この人!この人に憧れて冒険者を目指したんだから!
「で、でも、なんで一番強いとされてるあなたが、そんな上層にいたんです?あなたぐらいの実力があれば、下層の探索を任されるんじゃ」
「いやー。良くも悪くも、この学園が所有しているダンジョンは、学園所有なだけあって、あまり詳しく探索されてないんだよ。だから上層でも、結構未探索領域ってのがある訳よ。そしてまー、おじさん、おじさんだからねぇ。もうそろそろ現役引退も考えるぐらいにはおじさんなのよ」
「そんな、アーベルトさんはまだまだ現役じゃないですか!実際、まだ冒険者一って称号はあなたのものだ」
「まー、そーだな。称号なんてどうでも良いさ。おじさんが辞めるって言ったら、いくら冒険者協会と言えど止める事はできないからね。いわゆる個人の尊重ってあれさ。まー、おじさんも無職になるには貯金が少ないから、こうして体の負担が少ない仕事を選んでたのね」
そ、そんな。アーベルトさんが、引退だなんて。とんだスキャンダルじゃないか!せ、せめて、俺が冒険者になるまで冒険者でいてくれないかな?俺は彼の魅力に惹かれて冒険者を目指して、彼がどれぐらい凄いのかを体感したいから、冒険者を目指したと言っても過言じゃないんだ。
だからせめて、彼の凄さを体感するまでは、冒険者で居て欲しい。俺の願望。
「まー、とんだ災難だったよ。おじさんと前途ある若者とでは、災難としてのレベルが違うだろうけどね。っと、自己語りが長くなった。本題だ」
えー。もっとアーベルトさんの事について聞きたかった。
「まー、おじさんが駆け付けた時には、既にヴァン君もミノタウロスも満身創痍だったんだよ」
「え?」
「本当なのですか?確かにヴァンには底知れない実力があると思いますが、中層、それもかなり強い部類に当たる、あのミノタウロスを追い詰めていたと?」
「そ。まあ2m近い鉈を振り回すには、上層は狭すぎるから。攻撃の大半が壁に阻まれたんじゃないの?おじさんが付いてすぐに決着がついてよく知らないけど」
「じゃああなたがヴァンをミノタウロスから助けてくれたのですね?」
「いや、勘違いしちゃいけない。あくまでおじさんは背後からミノタウロスの胴体を一刺ししただけで、トドメを刺したのはヴァン君本人だ。おじさんじゃない」
あー。アーベルトさんに名前を呼んでもらえてる。フォーセさんに呼ばれるのとはまた違う興奮がある。憧れの人が自分の事を認めてる感じがして、最高に嬉しい。
「え、ヴァンが、ミノタウロスにトドメまで刺したのか」
「まあ結果はお察しの通りさ。腕に風穴、は別か。脇腹を抉られたり、その他体に切り傷や骨折、その他色々、様々な怪我をして、あげく植物状態になってた訳だけど」
「え、俺ってそんな怪我してんの?痛くないんだけど」
「ああ、怪我が多すぎて、痛覚が麻痺してるんだろ。それにまだ起きてから1時間と経ってないんだ。普通に感覚が目を覚ましてないだけだろう」
「そ、そうですか」
怪我をしてたんだ。……ほんまや。腕に包帯が巻き付けられてる。それも血付き。かなり赤い。いや黒い?
でも全く痛くない。不思議だ。
「とにかく、ヴァン君がミノタウロスを倒したんだ。誇れ。これは偉業だぞ」
「そ、そうは言っても」
「まー、おじさんはこれ以外にも用事があるから、これで失礼するわ。せいぜい、ガールフレンドを大切にな」
「なっ、」
行ってしまった。
果たして、誰の事をガールフレンドと呼んだのか。フーコか?やっぱフーコか?フーコとは仲良いもんなぁ。……まあそんな場面、アーベルトさんに見られてないはずだけど。
「とにかく、無時でよかった」
「う、うん」
「じゃ、ボクはこれ、おい。手を放せ。安静にしろと言われてただろ」
「いや、安静にするのは一切動かすなって意味じゃない。それに今この場をお前に離れられたら、俺がどうしていいのかわからん。マジでどっかいかないで」
「いや、ボクも二人の時間に割り込んでは悪いかと」
「それは良いから!頼むからおいてかないで」
いやマジで。恥ずかしいとか言っても、安静にしろって事は、ベッドから移動しない方がいいんだろ?じゃあこの場所から逃げ出したくても無理じゃん。
「ほ、ほんまに目覚めてる」
「フーコも来た」
「うちを心配させやがって!本当に、本当に無事でよかった、うわああああああ」
「じゃ、ボクはこれで」
「え、この状況で?」
「あっと、ボクはトイレに行きたい。我慢できない。それじゃ」
逃げた。え、逃げたよ。フーコが泣いてるそばから逃げたよ。
「ま、まあフーコ。お互い無事でよかったじゃねえか。俺がフーコを助けたところは一切思い出せてないけど」
「ほんまに無事?」
「いやまあ、無時と言うには俺は怪我しまくりらしいけど。とりあえず生きてて五体満足って点から言えば、俺は無事だな。怪我は酷いっぽいけど」
「よかった、よかったよぉ」
「いや、マジ、泣かれると俺がどうしたらいいのかわからないから。うん。すまんかたって」
「謝るのはうちの方や。うちが軽率に宝箱に走ったりしたから、こうなったんや」
「う、うん。そうなんだ。なにも憶えてないからどうでも良いし、責める事もないけど」
というか、やっぱり泣かれたらそうせざるを得ないと言うか。
まあ俺は過ぎた事をぐちぐち言うほど、器の狭い男じゃない。許すもんは許す。それだけ。
「えっと、フォーセさん、これ、どうにかなる?」
「……」
「お、おーい。この泣いて親の服で鼻をかんでる感じのフーコをどうにかできない?」
「よかったね、可愛い女の子に抱き着かれて」
「あ、あれ~?俺が話しかけた内容とあまりにも乖離しているぞ~?」
俺が聞きたかったのは、フーコをどうやってどかすか、なんだけど。
「フーコちゃんがそうなったら、本人の気が済むまで離れないと思うよ」
「まじか」
「じゃ、私はリンゴでも買ってくるよ」
「まさか、俺の為に!?」
「そう。他にも欲しいものある?」
「うちメロンパン」
「私はフーコちゃんのパシリじゃない」
「えーやんえーやん、買ってきてよ。お金は出すから」
「え、俺金ないよ?払えるかわかんないよ?」
「いいよ、病人からとったりしない」
「ありがたや。でもまあ、流石にフォーセさんに甘えすぎる訳にはいかないから、リンゴをありがたーく、頂きます」
「わかった。元気になったのなら、フーコちゃんも一緒に来て」
「ぶーぶー」
とかなんとか言っても、結局ついていく辺り、仲が良いんだろうなぁ。ああいう友情、羨ましいよなぁー。俺とリヒトも、こんぐらい仲が良いと思われてるのかなぁ~?
本当なら事情聴取でヴァン君から色々とミノタウロス戦について語ってもらう予定でしたが、なんか気が付いたら記憶を無くしてました。
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