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第七話:昔の夢は今のため

私は何をやりたいと思っていたのだろうか?


 私は手をこめかみに当て、記憶を揺さぶり出すように人差し指でトントンと頭を刺激しながら記憶をたどっていた。今思えば、やりたいと思っていた事は沢山あったような気がするのだが。どうにも思い出せない。


ここ数年は休みの日は寝てばかりいたのが災いしたようだ。何もする気にならなかったとは言え、なにかしらやっておくべきだったか。私は今さらながら後悔した。


ため息をつきつつ、気持ちを切り替える為に自分の部屋を見渡してみた。


正面にある部屋の入り口の両サイドには左側に勉強机が置いてあり、右側には本棚が壁を覆っている。右側の壁には収納スペースが有り、右側半分は本棚になってしまっている。後ろはベランダへ出る引き戸と洋服タンス。左側は窓が一つあり、窓の外で虫が飛び交っている。


窓に視線を移してカーテンを閉めていない事に気が付いた私は横着をして足を伸ばして足の指でカーテンを摘まんで閉めようとした。そんな横着をした罰が当たったのだろう。私は


「!! っーーーーくぁっ!」


足をつった。


直ぐ様足を伸ばし、爪先を手前に引き伸ばす。指先までしっかりと伸ばすと痛みは大体は収まる。中学時代に柔道をしていた時に顧問の先生から教わった対処法だ。この方法は世間的に普通なのだろうか? それともあまり知られていないのだろうか? 知らない人は実践してみてほしい。ものの数秒で痛みだけは治まる。しっかり直したいなら、塩分を補給して、マッサージをしつつ体を休めてもらいたい。仕事中にそんな余裕は無い? ごもっともだ。私も同意である。ならば我慢しなさい。


 数秒程足つり対処法を続けていたら痛みは和らいだ。もう横着はしない。立ち上がって普通に手で閉めよう。私は手をついて立ち上がろうとした。その時、勉強机の下にプラスチックの箱が置いてあるのに気が付いた。箱の中には何かが入っているようで、上部から何かが覗いていた。


私はカーテンの事はすっかり忘れ、箱の中身を確認すべく勉強机の下から箱を引っ張り出した。中には『色鉛筆』、『色紙』、あと『真っ白なノート』が入っていた。


 あぁ、懐かしいなぁ。


箱の中身を見て思い出した。私は絵を描く事が昔は好きだったのだ。思い返せば警察を辞めた後、小学校の連絡員の仕事をしていた時は沢山絵を描いて子ども達にあげたものだった。思い返せば色々な絵を描いては子ども達にあげていた。


妖怪アニメのネコであったり、モンスターハンティングゲームのモンスターだったり、時には卒業生の似顔絵を描いた事もあったか。子ども達が次から次に絵を欲しがるものだから順番に何枚も何枚も書き続けていた。これらの道具はその時の物だ。しかし……、


私は『真っ白なノート』に視線を移した。『真っ白なノート』と表現したが、中身が書いていないという意味ではない。文字通り、外見からして真っ白なのだ。とりあえず中を開いてみる。やはり、なにも書いてはいない。文字通りの『真っ白なノート』だ。


いくら眺めても何も分からなかったため、とりあえず私は箱の中に色鉛筆や色紙を戻そうとした。


「ん?」


よくよく箱の底を見てみたら色紙の他にも紙が入っていた。大きさからしてA4サイズのコピー用紙だろう。絵を描く時に手の下に敷いて描いていたのだろうか。私は箱の中にあるコピー用紙を手に取った。そして裏面に何かが書いてあるのに気が付く。特に何も考えずコピー用紙を裏返して確認すると、


「あ。あーーー思いだした! これ、『絵本のノート』か!」


コピー用紙を見るなり、私は『真っ白なノート』がなんだったのかを思いだした。コピー用紙にはこう書いてあった。


『童話の世界に幸せを』


それは私が小学校に務めていた頃、子ども達に描いてプレゼントしようと考えていた童話のストーリーの題名だった。


そうだった、私は物語を想像するのが好きだったのだ。絵本のストーリーを考えた事もあった。ゲームのストーリーを考えた事もあった。漫画のストーリーを考えた事もあった。小説のストーリーを考えた事もあった。


私には一つ夢があった。『自分でストーリーを考えて、自分で絵を描いて、自分で作曲して、いつか自分が想像する最高のゲームや絵本を作る』事だった。こんな夢を抱いていたのはいつ頃だっただろうか。中学生の頃にはストーリーを考えて、学習ノートをストーリーの妄想ノートに変えていたものだった。夜中の二時頃までストーリーを考えて、いつも授業中に居眠りをしていた。


そこで私はもう一つ思い出した。私は足早に勉強机の引き出しを開けて一番下のノートを取り出した。


『ゲームのシナリオ』


ノートの表紙にそう書いてあった。ノートを開いて中身を見ていく。


「っ!っーーーーーーーっ!」


中身を見るなり顔が火照ってきた。開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったようだ。あまりにも中二病丸出しなストーリーに十数年越しにクリティカルヒットを受けてしまった。恨むぞ、中学時代の自分……。中身について語るつもりもない。黒歴史は闇に葬るべきなのだ。


私はパンドラノートを勉強机の一番下に素早く戻し、箱の中に入っていた『童話の世界に幸せを』と書かれたコピー用紙に目を移した。


「そういえばこんなの書いてたねぇ……」


先ほどの黒歴史ノートに比べれば何千倍もマシである。一応、子ども達の教育を踏まえて考えた絵本のシナリオだ。面白いかどうかはともかくとして、そこまで酷くはないように思う。


私はふと部屋の本棚に目線を移した。


基本は漫画がメインだが、小説や自己啓発本も混ざっている。その中で一冊、ボロボロになっている水色の本があった。私はおもむろにボロボロの本を手に取る。中学時代に夢中になって読んでいたファンタジー小説だ。


 主人公は田舎の村に住む蝋燭職人の息子。ある日、首都から主人公の地域を根城にするブラックドラゴンを討伐するべく討伐隊が派遣された。討伐隊のリーダーはホワイトドラゴンに跨がる小さな少年。討伐隊と村の自警団はブラックドラゴンを討伐するべく出兵するが全滅してしまい、生き残った者達は人質にされてしまう。主人公と村の仲間達は捕らわれの身になった者たちを救うべく首都の国王へ嘆願しにゆくのだが、国を揺るがす大事件に巻き込まれてしまう。


 ざっとこのような物語だったはずだ。全部で十二巻。当時の私にはかなり高価な本ではあったが、発売日には喜び勇んで書店に走ったものだ。私は懐かしさを感じながら手元のボロボロの本を本棚に戻し、近くの自己啓発本を手に取った。プログラミングの本である。


いつの日かゲームを作りたいと買っていたのだが、その後直ぐに警察官試験が始まり、仕事が始まりと手を付ける時間が無かったため積み本となっていた。


当時は時間が無いのもあり、やろうと思ってもやる事が出来なかったゲーム作成。プログラミングの本があった場所の横には他にもゲーム関係であろう本が数冊ならんでいた。ドット絵についての本、作曲の本、ゲームエンジンに関する本もあった。結構本気でやりたかった事を思い出した。


私はプログラミングの本も本棚の元の位置に戻した。ちらりと腕時計の時間を見てみる。午前二時過ぎだ。そろそろ眠らないと明日も伐採の仕事だ。体力が持たない。


私は布団の中に潜り込み目を閉じる。


今日は色々と発見もあったし、やりたかった事も思い出す事が出来た。物書きか、ゲーム作りか。

どちらかを趣味としてやってみよう。さて、どちらにするべきか。


悩む頭とは裏腹に意識は段々と薄れていき私は眠りに落ちた。

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