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水上保安庁(龍焔の機械神002)  作者: いちにちごう
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第一話 4

「はぁはぁ……」

「ぜぃ、はぁ……やっぱり生身で攻撃当てるだけじゃなかなか倒れんな」


 息を吐いている龍雅の隣りで、ダイゴがいまだ倒れない水の魔物を見て呟く。


 お互い百発以上は蹴りと拳は当て、相手の体も相当数契り飛ばした。その結果、周りには水の魔物の一部だったものが散乱している。


 水の魔物本体もかなり小さくはなっているので、これを繰り返していけば相手を倒すことは可能なのだろうが、体力勝負の単純作業にダイゴは飽きが来ていた。


「リュウガ、なんかお前さんはあれを一発で倒せそうな必殺技とか無いのか?」


 息は吐いているがまだまだやれそうな彼女に、ダイゴがなんとなく訊いてみる。


「まだないです」

「……まだってことは、これから習得予定なのか?」

「水上保安庁に入ったらそういうのも教えてくれるのかと思ってました」

「……あそこってそんな組織だったっけか?」


 あの組織はかつての仲間の一人が立ち上げたものなのだが、創設15年目にしていつの間にかヒーロー養成所になっていたのかとダイゴは頭を抱える。隣りの異次元な腕っ節を見せる彼女がこれから入隊するわけだからそれもあながち間違っていないのかも知れない。


「まぁ仕方ねぇ、このまま続けていたら日が暮れちまうからな。いつものヤツで仕留めるか」


 とはいってもこのままでは時間がかかりすぎるのも確かだ。多分お互いの合計で千発は叩き込まなければあれは小さくしぼんではくれないだろう。


「いつもの?」


 ダイゴはその龍雅の問いに答えないまま、ポケットの中へと手を突っ込んだ。


 どうせいつも暇なので、今日はこのまま生身のまま倒すのも良いかなとはダイゴも思っていたのだが、隣の彼女も実はこれから就職先の者が迎えに来るという何気に重要な案件を抱えていることだしと、いつもの方法に切り替えることにした。


 そうしてポケットから一つのアイテムを取り出そうとしたその時


『二人とも! 離れて!』


 海上から拡声器で増幅された女性の声が聞こえた。


「!」


 二人が同時に振り向くと、海上の方から一艇の小型艇が近づいてきていた。モーターボートを少しだけ大きくしたような小柄な艇体に単装砲塔が載っている。


 その小型艇は二人の見ている目の前で、主砲から発砲した。


 発射された砲弾は水の魔物の右肩に当たり、バチン! という何万本という輪ゴムを一気に引き伸ばして離したような直撃音と共に、相手を横転させる。


 水の魔物に直撃した砲弾は白いぐねぐねとした粘性の物であり、それが付着した勢いで魔物の右肩周辺を大きくこそげ取っていた。


「トリモチ弾だ」


 その白いぐねぐねに絡みつかれた水の魔物だった一部を不思議そうに見ている龍雅にダイゴが説明する。ポケットから出そうとしていたものは出さずに元に戻していた。


「とりもち、だん?」

「水保の戦車の標準装備だよ」


 ダイゴがそう説明するのと同時に、小型艇が埠頭にぶつかるような勢いで接近してくる。埠頭として整備された護岸の一部には、小型船の乗降の為に海の中に通じる階段状に成形されている場所があり、小型艇はそこに向かっている。そして小型艇はそこに衝突する。


 しかしそれで擱座することはなく、波に持っていかれないように頑丈に作られた階段を小型艇そのものが登ってきた。小型船の乗り降りの為の階段を、人ではなく小型艇そのものが乗り上げてくる。


 階段を全て登りきり小型艇が二人と魔物が入る桟橋へと登ってきた。艇体……いや車体の下には二本の履帯キャタピラ。海水を滴らせてきらめく車体側面には水上保安庁の五文字が勇ましく刻まれていた。


 突然現れた水保所属の水陸両用戦車は、車体を停止させ砲塔を水の魔物へと向けると、先ほどダイゴが説明したトリモチ弾を再び魔物へと放った。そして連射につぐ連射。五発ほど撃ち込んだところで相手は体を維持できなくなるほどに細かく分断された。


「さすが戦車砲の一撃は威力があるな」


 瞬く間に殲滅してしまった水保の戦車に向かって、面倒くさいと思っていた作業を一気に片付けてくれた風に言う。


 龍雅が千切れ跳んで散乱した水の魔物だったものを見ると、徐々に溶け出して水溜りがいくつも出来ていた。自分の体が維持できなくなるとこのようになるらしい。


 自分達の仕事を代わりに済ませてくれた戦車の方を見ると、砲等脇のハッチが開いて中から女性が顔を出したところだった。


「村雨さんお待たせー、迎えに来たよ」


 たった今砲撃戦を終了させたとは思えないようなのんびりとした口調で言いながら、車体から這い出して護岸の上に降り立った。


 ダークブルーをメインに白のアクセントカラーの制服に身を包んだ人物。小柄な女性だ。長身の龍雅は元より、男性の平均身長よりは上だろうダイゴよりも更に低い。150センチ前後くらいだろうか。


「ずいぶんと派手な挨拶だな」


 目の前にやって来た小柄な女性を見下ろしながらダイゴが苦笑しながら言う。


「すみません派手な挨拶で。ついでにダイゴさんの仕事まで取ってしまって」

「それはいい。怪人を駆逐するのが今のおまえたちの仕事だ。俺の仕事じゃない」

「すみません」


 そう言いながら一体何が起こっているのかまったくわからない顔になっている龍雅の方を見上げる。


「村雨龍雅候補生を迎えに来ました水上保安庁戦車隊一番隊のプロキシムム・カトルデキムです。これからよろしくね」


 プロキシムム・カトルデキムは自己紹介しながら軽く敬礼を見せた


「は、はい、よろしくおねがいします」


 龍雅はまだ入隊前なので軍隊式の挨拶作法はわからないのでとりあえず頭を下げた。


「わたしのフルネームは言いにくいからムムでいいよ」


 相手がすごい名前なので自分はどう呼んでいいのか龍雅が分別がつかないようにしていると、ムムの方から呼び方を説明した。この国以外の場所では名づけられた名前に既にあだ名が決まっているという場合も多いので、彼女の場合あだ名の説明は自己紹介とワンセットのようなものなのだろう。


「わたしはこれからあなたと先輩後輩の間柄になるんでリュウガって呼ばせてもらうね」

「はい、よろしくおねがいします……ムムさん?」

「うん、わたしのことはムムさんでもムム先輩でもムム隊長でもなんでもいいよ。もっとも公の場ではちゃんした呼び方をしてもらうけどね」

「ついにムムムも先輩か。俺も年取るわけだ」


 龍雅がどんな敬称で呼べばいいのかと困っていると、ムムがそんな風に説明し、ダイゴがそんな風に茶化す。


「ムが一個多いっての!」

「でもお前のフルネームにはムが三個入ってるだろう」

「ダイゴさん、いつの日か戦車砲でそのどてっぱらに風穴開けますからね」

「おぅいつでもきやがれ、俺様の腹筋で弾き返してやらぁ」

「……お二人はどんな関係なんですか?」

「まぁ……茶飲み友達?」

「おぅ、そんなところにしとくか」


 仲が良さそうにしている二人に、どういう間柄なのだろうと龍雅が訊くと、二人はそんな風に答えた。何かもっと複雑な関係ではありそうだが、今はまだ秘密ということなのだろうか。


「それはそうとお前ら二人似てねえか? 顔つきっつーか、雰囲気っつーか、姉妹みたいな感じだな」


 自分の前に立つ女性二人を見比べてダイゴはそんな感想を持ったらしい。身長といい名前といいてんでんばらばらなのだが、そう指摘されると、なんか妙に似てないこともない。


「そういわれると年下のお姉ちゃんって感じかな、リュウガは」


 ムムも自分に似たような雰囲気を感じたのか、長身の15歳の少女をそんな風に見る。


「わたしもなんか失礼かもしれませんけど、年上の妹ができたみたいでなんだか嬉しいです」


 龍雅の方も同じように感じたのか、今日始めて会った自分の先輩となる女性がそんな風に見えた。


「まぁ姉妹っぽいうんぬんは置いといてだ、あの水の魔物はお前が追ってたのか?」


 もうほとんど水溜りとなってしまった魔物の痕跡を見やりながらダイゴが訊く。


「そうですよ。待ち合わせ時間に送れちゃうからまいったなーって思ってたら、その待ち合わせ場所に上陸して、待ち合わせてる人物と茶飲み友達が戦ってるという」


 戦車備え付けのスコープで確認したら、そんな愉快な事態になっていたので、ムムも慌てて急行した次第だった。そして一か八かの民間人(といっていいのか問題だが)が近くにいる状況での揺れる水上からの発砲だったが、何とか成功させた。


「あのトリモチ弾がもし俺らに当たっていたらどうなっていたんだ?」

「多分気絶くらいですみますよ、柔らかい方の弾種で撃ちましたから」

「それでも気絶確定なのかよ」

「元々が鉄車怪人の動きを止めるための弾頭ですからね」


 柔らかい方というなら破壊力の高い硬い弾頭の方もあり、そちらで撃ってもし二人に当たっていたらどうなっていたんだろうとムムは思ったが、水の魔物に素手で戦いを挑んでいる二人の姿を思い出して「まぁだいじょうぶでしょ」とそれ以上考えないことにした。


「さてと、そろそろいこっか」


 日が暮れてきそうだったので、ムムが龍雅へ帰還を促す。夜の海の警戒も仕事の内なので慣れてはいるが、やはり日のある時間に帰りたいのは確かだ。


「ダイゴさんもうちの候補生の相手をしていてくれてありがとうございました」

「ありがとうございました」

「いいってことよ、どうせ暇だしな」


 二人が礼を告げて戦車の方に向かうと、ダイゴはそんな風にぶっきらぼうに返す。


「リュウガはキューポラの方から入って、わたしは操縦席の方に入るから」

「はい」


 ムムが先に車体に上がってキューポラ上のハッチの開閉の仕方を説明すると、リュウガは開いたハッチから大きな体をすぼめて中に入った。リュウガが座席に収まるのを確認してからムムは操縦手用ハッチを開いて中に入った。


「どう、狭いでしょ?」


 操縦席に収まったムムがエンジンを始動させながら言う。


「いえ、なんとか」


 と、言いつつも、頭や肩にぶつかりそうな突起をさりげなく確認している龍雅。


「まぁ地元でも戦車に乗ってたんだもんね、だいじょうぶか」


 ムムはそう言いながら開いたままのハッチから顔を出した。


「じゃあダイゴさんまたでーす!」

「お世話になりました」


 龍雅もそれに習って顔を出してダイゴに別れを告げた。


「おぅ」


 ダイゴは既に歩き去る途中で、背中を向けたまま手を振ってそれだけ告げて歩いて行ってしまった。


「さて、行きますか」


 ムムがそう言いながらハッチを閉め、龍雅も教えられたようにハッチを閉めて席に着いた。


 水陸両用戦車が体を震わせ走り出す。その場で超信地旋回(左右の履帯を逆転)させて車体を背後に向けると、登ってきた階段を下り始めた。車体が完全に水に浮いたところでスクリューを回し海上を進み始める。


「あのお茶のみ友達のダイゴさんはどういう人なんですか?」


 静かに湾内を進む静かになった車内で、龍雅が隣りのムムに尋ねた。どう見ても一般人には見えないあの身のこなしを、不思議に思わない者はいないだろう。しかもムムはそのダイゴと茶飲み友達であると言っているのだし。


「元チャリオットスコードロンの大鉄輪大吾だいてつりんだいごだって言ったらどうする?」

「え!?」


 そのムムから帰ってきた答えに思わず驚きの声を上げてしまう龍雅。


「大鉄輪大吾さんは国土海兵隊の長官をしてるって言われてますけど?」


 15年前に水上保安庁と同時期に創設された国土海兵隊は、創設当時からその長官は元チャリオットスコードロンのリーダーだった大鉄輪大吾が勤めていると言われている。そんな高官が何故あんな場所でブラブラしているのか。


「まぁダイゴなんて名前の人この国にはもっと他にもいるから、他人の空似なのかもね」

「水の魔物に素手で立ち向かっていくダイゴさんは早々いないと思いますけど」


 水の魔物に素手で立ち向かっていった自分のことは棚に上げて、龍雅がそんな風に言う。


「フフ、自分で調べてみなさいな。そしてあなたはそんな秘密を多く知るようになる仕事に今日から就くことになるのだから」

「……」


 龍雅は、今まで自分がいた埠頭の方向であろう方角へ顔を向けた。戦車の中はほとんど視界が無いので外は見えないが、ついさっきまで一緒にいた男性の後姿をそこへ想像した。


 彼は一体何者なのだろう。本当に一人が軍ひとつと同戦力と言われたチャリオットスコードロンの元隊員なんだろうか。


 自分もこれからは東京湾で働くことになるのだから、また再び謎だけを残していった彼とも会う機会もあるのだろうか。


「……」

「船酔いなんかはだいじょうぶ? 基地に戻るまでまだまだあるからね」


 龍雅がこれからのことを考えているとムムにそう訊かれた。


 この芝浦埠頭から第参東京海堡まで直線距離にして50キロほどであるが、東京湾に入港してくる船舶をかわしながらの横断であるので、水陸両用戦車の巡航速度で一時間半~二時間といったところである。


「ハッチ開けて外の風に当たってても良いし」

「いえ、まだだいじょうぶです」

「そう? いまだに船酔いでげーげー言ってる隊員も多いけどね」

「そうなんですか?」

「船酔いに強い人が水保の隊員になるわけじゃないからね」


 水上保安庁への入隊志願も基本的には戦車乗りになりたくてやってくる者が殆どであり、船酔いへの強さはまた別の問題である。それで諦めて水保を辞めていく者も多いとは聞く。


「じゃあお言葉に甘えて」

「うん」


 龍雅はそう言うと体を伸ばしてハッチを開いて外へ上半身を出した。気分が悪くなったわけでもないのだが、水上からの海を見たかったからだ。


「……」


 陸の方へを目を向けると、自分がいた埠頭はもうかなり遠くなっていた。あの青年の姿をもちろん見えない。


「……」


 今度は戦車の進む海面の方に目を向ける。


 海の上から見た東京湾はまた別の印象だった。透き通った蒼が、海底へとどこまでも続いている。


(わたしはこれからこの海の青さも守ることになるんですね)


 きらめく波飛沫を淡く浴びながら、少しずつ近づいて行く、これから自分の新しく帰る場所へと、龍雅は想いを馳せた。

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