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水上保安庁(龍焔の機械神002)  作者: いちにちごう
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第一話 出会い

「なんかもっと濃く濁ってるイメージがあったけどすっごく綺麗な海の水ですね」


 芝浦埠頭に着いた村雨龍雅むらさめりゅうがは桟橋の先に広がる東京湾を見てそんな風に独り語ちた。


 本日早朝地元を出発した龍雅は中央線で新宿まで行き、山手線に乗り換えて田町駅で下車、そこからは歩いてここまで来た。田町に着いた時には「東京駅まで出て逆周りの山手線に乗った方が早かったですかね?」と思ったが、始めて乗る路線で一端戻るという少し複雑な道程はなんだか不安になるので、これで良かったのだと思うことにした。


 本日は特に礼服でなくとも私服で構わないということだったので、おしゃれと動きやすさを考慮してデニム地の巻きミニスカートを中心として同じデニムの上着のコーディネートにした。スカートの中はオーバーパンツでしっかりガードしているが、下着の露出よりも寒さ対策への防御の方が大きいような気もする。だったら短いスカートなんか穿かなければとは思うが、女の子はミニスカートを穿きたいものなのです。


 ただミニスカートで脚の露出が大きくなりすぎると、自分の長身(180cm)が否が応にも目立つのを増長させるので、オーバーニーソックスで脚の方は隠している。実はそれが彼女に程よい凛々しさを与えているのだが、彼女はどこまでそれに気付いているのだろうか。


 この服の組み合わせもいつも着ている服装と言ってしまえばそれまでなのだが、デニム系統の衣服は特に身長など関係なく誰が来ても大体は似合うので、長身な彼女には重宝する素材。


 今日は最初から礼服でなくとも良いという指定だったのではあるが、それでもほんのちょっと前であったら中学校の制服で行くつもりだった。だがあいにくと昨日卒業式だったので「さすがにもう中学生でないのに着るのは恥ずかしい」と止めた。


 下ろすとふくらはぎまで届く長い黒髪をいつものポニーテイルでまとめ、地元にいる時とあまり変わらない普段着にスポーツバッグ一つを担いで、龍雅はこの指定された待ち合わせ場所までやって来た。


 駅の改札を出て目的の桟橋までの到着にはかなりの距離があったが、その道中に何度か町中を走る戦車と遭遇した。地元の山の中だけでしか見なかったものがちゃんと都心でも走っているの見て、少し感動してしまう。


(これからその都心近くの海で戦車に乗ろうって言うのにね)


 今日から自分がお世話になる場所でのことを改めて考えると、都心部を走っている戦車を見ただけで感動してしまった自分に苦笑する。


 鉄車帝国とチャリオットスコードロンの戦いの後、それまでではありえなかった光景がこの国では見られるようになったが、町中を戦車が走っているのもその一つ。


 二つの組織の戦いが終わってしばらくして、この国有数の重工業組織の一つである疾風弾はやてひき重工が、非戦闘用戦車というものを販売し始めた。殆どの車両がWW2初期の頃に活躍していた小型の戦車(豆戦車と呼ばれる場合も多い)のレプリカ販売となっている。さすがに装甲素材や動力などは現代で通用するものに置き換えられているが、意匠としてはほぼそのままだ。


 なぜそんなものが販売されるようになったのかと言えば、元々が戦車の生い立ちとは突撃する兵士の盾となるために考案されたのがそもそもの始まりなのだ。だから、いざという時に民間人を守る移動式防御壁となれるようにと、国からの許可を得て販売に踏み切った。


 当時は工事現場作業員がパワーショベル等の重機を操って、チャリオットスコードロンが到着するまで、他の市民を守るために鉄車帝国兵へ応戦していた事例も多かった。だからこそ、普段の町中にも突然の脅威にもっと頑丈な対抗できる装備をと。


 販売用戦車は最初から武装は降ろされているし、一般の人間は購入できるのは小型のものに限られるが(中型以上の車両は特別な許可が必要であるし、そもそも一般の人間に変えるような値段ではない)、それでもそれで得られる安心は大きい。この国はそれだけの脅威の中にあったのだから。


 もちろん戦車であるから、舗装が万全の都市部では個人での運用は困難であるが、地方の方では履帯式トラクターの一種として使われていた。アタッチメントをつければパワーショベルやブルドーザー、農耕機械として使えるので、重宝されている地域も多い。


 龍雅が芝浦の町中で見たのはやはり都市内であるので、個人所有のものは殆ど見かけず、その全てが陸上保安庁の巡回用戦車だった。鉄車帝国は一応滅んだのだが、その残党がいつまた現れるかは分からないのでパトロールは欠かせないのである。帝国が繰り出す怪人や戦闘員に対抗するには、やはり最低でも戦車並みの砲力がないと足止めにもならないし、一般の人間にも武装を降ろした移動する盾としての戦車が販売されているのである。


 龍雅が歩きながら陸保所属戦車の履帯の部分を見てみると、ゴムを張って道路を傷めないようにしているのが分かった。


 都心部での運用にはこのような処置が必要であり、更には戦車の重量に長期間は耐えられず、走行するたびにヒビが入って剥がれてくるのでこまめなメンテナンスが必須である。


(都心の人は大変ですね)


 龍雅の地元も道路は舗装されているが、私有地内はその限りではないので、土面であれば鉄の履帯そのままである。


 そんな風にして軽く都心見物をしながら歩いていると、芝浦埠頭に着いていた。


 そうして目の前に広がる湾内の海を目の当たりにしたのである。


 目の前に広がっていたのは、一千万人以上の市民を抱える超過密都市の庭先とは思えないほどに美しく透き通っている海水。


 元々は大都市の港湾らしく濁っていたのかもしれない。しかし今のこの透明さは、世界の多くの様事を変えてしまった鉄車帝国とチャリオットスコードロンが残したものの一つだったりするのだろう。強烈な水質浄化をもってしなければ消滅できないなにかがこの海にはあったのか。それを消した反動でこれだけの綺麗さが得られたのならば、あの戦いもいくつかの恩恵を残してくれたことになる。


「……あ、地図」


 埠頭に面した道路に東京湾の立て看板型の案内図を発見した龍雅はそこへ行ってみた。


「ここですね」


 東京湾を上から見た港湾図を目で辿っていくと、木更津沖に細長い島が見つかる。


 東京湾内にある島の一つ、第三東京海堡。今から目指す場所であり、これから住み込みで働くことになる場所でもある。


「えーと?」


 龍雅は待ち合わせ場所に指定されたこの場所をキョロキョロと見回してみた。


 ここは東京湾フェリー系の人員用桟橋ではなく、ほぼ完全に荷物のみの取り扱い埠頭である。屋形船は何隻か浮かんでいるが、まさかそのような類の船で行くとも思えない。


 迎えの船らしきものがまったく見当たらない。時間や日付を間違ったかと思ったがそういう訳でもない。


「どうした嬢ちゃん、迷子か?」


 さてどうしたものかと困っていると後ろから声をかけられた。


「はい?」


 龍雅がクルリと振り向くと、目線の少し下に相手の顔があった。彼女は長身なので男でも女でも大概の相手は彼女より目線は下になる。


 青年が一人立っていた。くたびれたような服装に身を包んでいるが不潔な印象は無い。旅人のような印象もあるが手ぶらなのでそういう訳でもないらしい。


 見た目は二十歳前後の容姿をしている。だが全体から醸し出される雰囲気は百歳を越えた老人のようなものを感じる。若そうに見える彼の顔にはそれだけの人生経験が刻まれているのだろう。龍雅はかすかだがそれを感じ取った。


「あらためて目の前に立つとでっけーなお前」

「はぁ、まぁ」


 物凄く失礼な言葉を堂々と青年が口にする。


 彼女くらいの大きさの女性を相手にする場合、気を使って身長にはあまり触れない者が多いが、龍雅は青年のそんなあけすけな態度に軽く驚いてしまった。


 しかも嫌な気分がまったくしてこない。それは多くの痛みや悲しみを負った者に許された息吹。龍雅はそれも感じたのだった。


「いつもは違う場所で同じ海を見ているんだが、今日は遠くまで散歩に行ったら良いことがあるって言われてな。どうせ暇だから遠出してみたんだが、こんなでっけー迷子を拾うとはな」

「多分迷子ではないと思います」

「そうなのか?」

「ここを待ち合わせの場所に指定されたんです」

「なんだそうなのか、わりぃわりぃ」


 龍雅の場合は小旅行に行くような格好なので、こんな倉庫しかないような場所をウロウロしていたら普通は迷子だと思われるのは仕方ないだろうとは龍雅自身も思った。なぜこの場所が待ち合わせ場所なのだろう?


「わたし、この島へ行きたいんで、船を待ってるんですけど」


 龍雅が立て看板に記されている第三東京海堡の位置を指す。


「あそこは水保の管轄の島だぞ? なんで嬢ちゃんみたいのが?」

「わたし……恥ずかしながら、今日からあそこで働くことになってまして……」

「おお、そいつは失礼したな、わりぃわりぃ」


 龍雅の長身ははっきりと指摘するのに、そういった行動の部分は素直に謝る。不思議な人だなと龍雅は思った。


「おまえはいっぱしの水上保安庁保安員だったのか、なんだかっけぇじゃねえか」

「なんかそんな風に言われると照れますね……」

「夢を目指して夢を叶えたヤツはみんなかっけえのさ。おまえだってそのためにここへ来たんだろ?」

「はぁ……まぁ」

「つーか、第三東京海堡へ行く定期便ならもう出ちまったぞ?」

「えええぇえっ!?」


 少し褒められて照れているといきなり説明をされて龍雅は思いっきり大きな声を出してしまった。


 この芝浦埠頭からも第三東京海堡へ物資などを運ぶ船は出ている。


 もしそれに乗って水上保安庁の根拠地まで来いということであったならば、既に手遅れだ。


「それに日付的には今日は出航しない日じゃねえのか」


 しかもその定期便は毎日出ている訳でもないらしい。更には本日はその休航日らしい。


「泳いで行けってことなんですかね?」


 困りかねた龍雅は思わずそんなことを言い、それを聞いた青年は思いっきり吹き出してしまう。


「お前いくら内湾だからって東京湾なめんじゃねえぞ、あそこまで10キロ以上はあるんだぞ」

「まぁそうなんですけど、なんとか泳いでいけない距離でもないですし……浮き輪でもあれば」


 青年はそれを聞いて「ぶわっははははは!」と思いきり笑い出した。


「なんとなくお前さんみたいのが水上保安庁に採用された理由が分ったよ」


 思わず出た涙を拭いながら青年が言う。


「……そうですか?」

「まぁお前なら泳いでも行けねえ距離でもないんだろうが、この時間に来いって言われたんだろ?」

「はいそうです」

「じゃあ向こうの方から迎えに来てくれるんじゃねえのか?」

「は、はぁ……」

「それまで時間あんだろ。まぁここであったのもなんかの縁だ、ちったぁ付き合えよ、コーヒーくらい奢るぜ、缶だけどな」

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