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死にたい不老不死と恋する吸血鬼  作者: マスラ


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3/3

3話

 広間にアッシュノルドを連れていくと、椅子に座っていたリゼがこちらに気づく。


「やぁリゼ殿。ごきげんよう。元気そうだね」


 アッシュノルドは、リゼに対してマントの裾を払い、右手を胸に当てて優雅に一礼した。

 その立ち振る舞いは身分にふさわしい品格を醸しだす。


 なぜ俺以外の時だけ礼儀正しくしているのかわからない。こちらにも似た対応をできないのか?

 先ほどまでの情けない姿を知っているだけに文句が止まらない。


「あなたは……誰だっけ?」


 リゼはじっとアッシュノルドの顔を見つめて問う。


「覚えていないのか。これでも皇帝なんだけど」


「リゼとはそんなに会ってないんだから、そんなもんだろ」


 フォローのつもりで口を挟むと、アッシュノルドは傷ついた顔をした。

 栄えあるエルドラン帝国の皇帝は、自分を忘れられることに慣れていないらしい。


「待ってね。今思い出すから。えっと確か……ア」


 リゼは眉間にしわを寄せ、顎に指を当てて考え込む。


「おぉ。アは合ってます」


 もう一度名乗れば済む話だと思うのだが、本人は真剣そうだった。


「アー」


「頑張って」


 アッシュノルドは彼女の口から名前が出てくるのを、固唾をのんで見守っている。


「マッシュポテト!」


 アはどこへ行った、と心の中でツッコんでしまう。

 アッシュノルドは一瞬固まり、がっくりと肩を落とした。


「マッシュポテトは食べ物ですよ。私はアッシュノルドです」


「似たようなもんだろ」


 適当に流して、アッシュノルドと共に席に着いた。


 三人もいるのに、なぜか静寂が部屋を支配する。

 この静けさは、目の前の皇帝の緊張から生まれたものだろう。


 その面持ちを見て、やはり門前払いをするべきだったと後悔する。

 できれば話を聞きたくない。だが、彼の問題を放っておくと由々しき事態に発展しかねない。それこそ周りにとんでもない被害を出しかねないほどに。


「で、皇帝様が庶民である俺に助けてほしいってどういうことだよ」


「実は……」


 アッシュノルドは両手を強く握り悔しそうにしていた。


「盗賊に宝具を盗られてしまったんだ」


「宝具を?」


「あぁ。輸送中に襲撃されて……このままだと不味いことになりかねない。だから頼む。取り返してくれ」


 机に両手と頭をつける姿から、本気の誠意が伝わってくる。


 正直、拍子抜けをしてしまった。

 わざわざ俺に頼むことのほどではないと思ったからだ。


「ねぇ。宝具ってなに?」


 唐突なリゼの質問に俺たちは黙ってしまう。

 宝具という存在がかなり有名なものだから面食らってしまった。


 宝具のことを知らないで話を進めるとややこしいので、リゼに説明する。


「宝具っていうのはダンジョンで手に入る、特別な力を持つ道具のことだ」


 ダンジョンは世界中で自然発生する特殊な場所だ。

 地下だったり、森だったり、時には城だったりなど、様々な形で発生する。

 ダンジョンで共通するのは強力な魔物や侵入者を排除する罠などの存在だ。

 とても足を踏み込もうとは思えない危険な場所だが、最奥にはこの世のものとは思えない財宝が眠っている。

 その財宝のうちの一つが、宝具だ。


「宝具は特殊な能力を有しているのが特徴で、物によって能力は千差万別。有用な能力を持つ宝具なら高値で取引されたりするんだ」


「へえ。すごそうだね」


「ちなみに、そこの皇帝のマントも宝具だ」


「そうなの?」


 一般の道具と見分ける方法があるわけではないが、長く生きた末の目利きというやつだ。あのマントには特殊な力が宿っていると直感が働いた。


「さすがは我が親友。一瞬で宝具と見抜くとは」


 アッシュノルドは立ち上がり、マントを翻す。その下で金の装飾が光に反射して輝いていた。

 自慢をされているようで、腹が立ってくる。


「どうせそのマントの力でここまで来たんだろ」


 彼一人でグアータ森林を潜り抜けられるとは思えない。だとしたら、宝具の力に違いないはずだ。


「その通り。凄いことにこのマント、羽織った人間を透明にする力があるんだ」


 アッシュノルドはマントを大きく動かし、立ったまま一回転する。

 次の瞬間、その姿は幻のように溶けて消えていく。


 気配や臭いなど、目の前にいた男の放つ存在そのものが感じ取れなくなった。


「わぁ! 本当に消えた。すごーい」


 リゼは楽しそうにパチパチと拍手をしている。


 透明化するマントとは珍しい。

 多くの宝具は、これどこで使うの? と感じるようなものばかりだ。アッシュノルドの纏うマントはかなり有用な宝具と言える。


「話を戻すぞ。どんな宝具を盗られたんだ?」


「あぁ。そうだった」


 アッシュノルドは一回転しながら現れ、席に着く。


「町を一つ壊滅させた宝具だ」


「……ん?」


「わぁ」


 リゼだけが無邪気に感心している。


「悪い。もう一度言ってくれない?」


 アッシュノルドの説明は端的で、聞き間違いようがない。だからこそ、頭が理解を拒んでいた。

 血の気の引くような恐ろしい話をされた気がする。


「町を一つ壊滅させた宝具だ」


 俺は机を乗り越えて、アッシュノルドの頭に蹴りを入れる。


「お前バカか!? そんなやばい宝具を盗賊に盗られた!? 何してんだよ!」


「だから不味いんだ! 頼む! 力を貸してくれ!」


 頭を押さえたアッシュノルドが、涙目で顔を上げる。


 一国の主とは思えない発言に頭を悩ませてしまう。

 アッシュノルドは時折、理解不能なことをするが、これでも皇帝だ。普段は国を運営する仕事をきちんとこなしているので、最低限の体裁は保てていた。

 だが今は、過去一で軽蔑している。


「護衛は何をしてたんだよ。輸送中に盗られるとかあり得ないだろ」


 本来、宝具のような高価なものを輸送する場合は護衛が付く。危険な宝具なら尚更に。

 皇帝なら大勢の護衛を雇うことができるはずだ。それなのに盗賊の襲撃を成功させてしまうとは。


「いやーそれが……国には内緒で買ったから、こちらから護衛とか付けられなくて……商人の馬車に秘密裏で運んでもらっていたんだ」


 あまりの理由に唖然とする。

 この男が本当に皇帝か怪しくなってきた。


「こんなことを知られたら、どれだけ怒られるかわからん。宰相に知られたらと考えるだけで恐ろしい……その前にどうか! 宝具を回収してくれ!」


 今度は土下座でアッシュノルドは頼んできた。


 俺は何も言えず、時間だけが過ぎていく。

 頭の整理が追い付かない。


 もしかしてアッシュノルドが一人で館に来たのは、周りにバレたくなかったから? 自分のミスを隠すために俺へ頼んでいる?


 彼の言動の答えが見えてくると、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。


「頼れるのがセフラだけなんだよ」


「お前のところに騎士だったりがいるだろ。そいつらに頼めよ」


「騎士に頼んだらバレるだろ」


「いやバレろ。そして怒られろ」


「いーやーだー」


 泣きながら足元にしがみつくアッシュノルド。

 あまりの見苦しさに蹴りを入れて引き剥がそうとするが、なかなか離れない。


「ねぇセフラ。なんだか可哀そうだし助けてあげていいんじゃない?」


「リゼ殿。なんとお優しい」


 アッシュノルドは顔を輝かせ、リゼに向かって両手を合わせた。


「リゼ。こいつを甘やかすな」


「でも、危険な宝具なんでしょ。それならセフラが動いたほうがよくない?」


「それは……」


 悔しいがリゼの言う通りかもしれない。

 町一つを壊す宝具。そんなものを放置するのは論外だし、万が一のことがあっても、対処するのが不老不死の俺なら被害を抑えられるかもしれない。


 だとしても……このバカ皇帝の不始末を収めることになってしまうのが腹立たしい。


「親友だろー頼むよー」


「けっこう楽しそうじゃない? 一緒に行こうよ」


 アッシュノルドのすがるような目と、リゼの期待に満ちた目。

 二方向から見つめられ、俺には逃げ場がなかった。


「はぁ」


 盛大にため息をつく。

 アッシュノルドが来ると、最後には断れずにこうなるのだ。

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