◆号外 ラザフォード氏は何処へ?
◆号外記事
昨日深夜未明、東区の貴族街にあるルブラム商会所有の邸宅から火災が発生。
火は二階部分より突如発生し、瞬く間に燃え拡がった模様。
今朝方まで燃え続け、建物中央の屋根が崩落。
二階部分の大半が崩れ落ち、一階から地階西側の部屋を巻き込み、建物は半壊。
近隣に避難が呼び掛けられ、一時騒然となった。
明け方から降り始めた雨によって鎮火。
現在、行方不明者五名。
◆兵長への独自取材
我々は、火災発生当時に何があったかを知る為、ルブラム邸の警備を担当していた警備兵長に取材を行った。
彼が夜警前の配置報告に向かった際、屋内には、使用人を含めて五人の人間が居たとのこと。
家長のラザフォード=ルブラム氏(52)。
孫娘のイスカ=ルブラム氏(12)。
他、使用人の女性三名。
一階応接室で警備簿引き継ぎを行った際に、五名を現認。
警護対象が五名のみである事を、直接、ラザフォード氏より通達されたとのこと。
深夜警備を開始してから数時間後、正面玄関前で立哨中の三名が何かの破裂音を耳にした。
音のした方を振り返って探したところ、二階の窓硝子が破損しており、室内から火が出ているのを確認。
彼らは急ぎ屋内に入り、護衛対象である家人、及び使用人を捜索。
既に二階には煙が充満しており、人が居たかどうかを確認する事は出来なかったと話している。
まだ火の手が回ってない一階の部屋、及び地階の使用人室、物置まで含めた全部屋を確認。
だが、屋内からは誰も発見出来なかったとのこと。
火の手が一階まで回ってきた為に、三名は地階の裏口から急いで退避。
その際に、裏口の警備を担当していた同僚二名が裏庭中央付近で倒れているのを発見した。
後頭部に打撲裂傷、気絶してはいたが命に別状はなかった。
現在、治療中である。
鎮火後、消防団による犠牲者の捜索が行われた。
だが瓦礫の下からは誰も発見されなかった。
立哨していた警備兵長含む三名の証言に拠れば、当日夜に正面玄関からの人の出入りは無かったとのこと。
現在も、ラザフォード氏を含めた五名の行方は不明である。
余談ではあるが、ラザフォード氏の飼っていた犬三頭も、家人と同様に行方不明である。
◆ルブラム邸火災に関しての続報
公安捜査部が動き出す
正教国公安捜査部は、東部貴族街で起こった今回の火災を重く見て、事件・事故、及びテロの可能性ありとして、捜査を行うと緊急発表。
中央から捜査官数名が派遣され、即時、捜査が開始された。
早速、裏庭で倒れていた二名の警備兵に対して事情聴取が行われた。
気絶していた理由を尋ねたところ、不審者に襲われた事を述べた。
以下 捜査官発表、警備兵の証言。
昨夜、彼等が地階裏口前で立哨していた時、裏口横の木の陰に潜む不審者を発見。
武器を構え、姿を現す様に警告を発したところ、突然二人は背後から別の者に殴られて意識を喪失。
この時の不審者が、火災、及びルブラム邸の家人五名の失踪に何かしらの関わりがあると捜査部は判断。
火災原因を放火と断定。
現在、当該不審者の行方を追っている。
〇〇新報 東部地区支部
◆
「いや〜、まさか…少し留守にしている間に、いきなり火付けされるとはねぇ」
燃え盛る建物を路地裏の影から眺めながら、赤髪の少女は呟いた。
「も…申し訳ございません。お嬢様…」
寝間着のままの初老の男性が、申し訳なさそうに頭を下げる。
寝所から直接連れ出された様で、生地の薄い下着にナイトガウン、そして裸足のままというあられもない姿。
寒さのせいか、少し震えている。
「貴方のせいじゃないでしょう?
それよりも、良く無事に逃げ出せたわね?」
「か…彼女達がいち早く火災に気付いて、ワタクシを助けて下さいました」
背後に立っていた女中姿の三人の女性が、少女に向かって静かに頭を下げた。
「『ラザフォード』、貴方は数日間身を隠しなさい。
その後、何食わぬ顔で帰って来なさい」
「…『ラザフォード』が無事である事は、早めに知らせた方が良いのではありませんか?」
男は、不在が商会の運営に影響する事を心配した。
「商会自体は会長不在でも回せる。問題ないわ」
少女は横目で男を見て、すぐに視線を戻した。
「これを機に、この国のネズミ達がどの様に動くのか…少し観察したいのよ」
彼女は遠くで燃え盛る火を見つめながら、独り言ちる。
時折、赤く照らされる彼女の顔は、小さく笑っているように見えた。
「せっかく手掛かりを掴んだ事だし、少し自由に動きたいの。
私も暫く行方不明になるから、アンタも少し休みなさいな」
男は少女の言葉を聞いて、コクコクと頷いた。
「成る程…。
でしたらワタクシも一度中央へ戻ります。
店に戻り、裏の情報を纏めて精査して参ります」
「…変装は解いて行ってね?」
勿論です、と男は応えた。
男は少し考え込み、おもむろに顔を上げた。
「お嬢様は…変わられましたね」
男の言葉の意味が分からず、キョトンとする少女。
「あ…悪い意味ではございません。
以前の貴女様と今の貴女様…考え方に少し差異を感じたものでして…」
「ああ…」
少女は夜空を見上げて、ふっと笑った。
「性格が悪くなったでしょう?」
少女は振り返り、男に向けてニヤリと微笑した。
「いえいえいえ…!」
男は慌てて否定する。
目を見開き、少し震えている。
「そ…そういう意味ではなく…!」
「わかってるわよ、冗談よ。
…今は遠くに居るあの子の考え方を真似てるのよ…」
燃え盛る館を見つめながらも、少女の視線は遥か遠くへと向けられていた。
「お話中、失礼致します。イスカお嬢様…」
二人の会話を黙って見ていた三人の女性。
その真ん中に立っていた女性が前に出て、少女に耳打ちをした。
「…ん?」
少女は軽く振り返り、少し首を傾げる。
「館自体は二束三文で手に入れた安物ですが、中の家具類はキベレ侯爵閣下からの貸与品です」
少女は目を見開きながら、あ…と呟く。
「恐らく、全て焼失したかと思われますが…。
どの様に弁償して頂けますか?」
感情の無い瞳で少女の顔をじっと見つめながら、淡々と詰め寄る女性。
「……エレノア様と相談して弁済致します…」
少女はガックリと項垂れた。
誰も近寄らない陰鬱とした路地裏の陰の中。
立ち昇る炎を見つめ続ける少女の赤髪だけが、その熱を帯びて光輝いていた。
それはまるで、緋色の宝石。
闇の中から群像を覗き見る、緋色の瞳の様だった。
一週間程お休みします。
…そろそろ本編も更新しないとなぁ…




