◆ 心配性な白獅子
「派手にやられたって?」
チャプラは袖に隠されたペトラの手に視線を向けながら口を開いた。
ペトラ達が自分達の商会に戻るとすぐ、彼女から呼び出しをうけた。
三人が調査結果を報告する前、開口一番、言われた言葉。
「姉ちゃん…もう知ってるのか…?」
「…蒐集家どもがな……。
ご丁寧に、わざわざ報告しに来たよ」
「ああ…見られてたのか」
「偶然居合わせたらしい……偶然な…」
チャプラは頬杖をつきながら溜息を漏らした。
東部教会で起きた、ペトラ達とスラム中央組織との争いの様子は、キビシュの私設部隊『蒐集家』によって既に把握され、報告されていた。
「ルブラム家を調べていた俺達に何が起きるかを、安全な所から覗き見てたのか…」
ペトラは爪を噛みながら、吐き捨てる様に言う。
「東部地区でも順調に巣を拡げているみたいだね。
アタシ達を踏み付けながらな…」
「……俺達は捨て駒ってか…本当に嫌な奴等だ」
眉間にシワを寄せるチャプラと、小声で蒐集家を罵倒するペトラ。
「だ…だったら…、見てたなら、助けてくれれば…!
へ…下手すればペトラ…殺されてたのに…!」
シャラは目に涙をためながら憤った。
「…アマビリスと青い剣士が監視の捜索をしていて、意識してペトラ達に視線を向ける事すら難しかった。
二人ともそれなりの手練れだ。我々に手を出せる隙は無かった…だ、そうだ」
チャプラは蒐集家の口真似をしてみせる。
「手を出すとは言ったが、手助けするとは、終始言わなかったよ」
「元より、俺達の助けに入る様な連中じゃない。
俺達以外を当てにするなよ。シャラ…」
ペトラはシャラの瞳をじっとみつめながら囁く様に言う。
「わ…私たち、キビシュの仲間じゃないの?
キビシュの家族じゃないの?」
シャラが周りを見渡しチャプラ達を見る。
皆沈黙し、誰も彼女の問いには答えなかった。
◆
チャプラは改めて姿勢を正し、静かにペトラの瞳を覗き込んだ。
自らの口で、教会であった事を報告しろ…との意味。
ペトラは少し黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「…グリがな…」
彼が『グリ』の名前を出した途端、ドロシーが会話に割り込み、吠えた。
「あのクソ変態ヤロー!
このアタシを蹴り飛ばしやがったのよ!」
彼女は、いきなり足元のタイルを蹴り飛ばした。
「アタシのお気に入りのドレス!
ここよ!…あのヤロウの足跡が!ほら!
酷くねぇ?女のドレスをクソ踏んだ汚え足でよ!
このアタシを足蹴にしやがった!殺してやる!」
自分の腹部を指差して猛る。
「奴のニヤケ顔をグチャグチャに踏み潰してやりてぇ!」
彼女は怒り狂い、何度も床をヒールで踏み叩いた。
「…そういう事を聞いているのではないのだがな。
少し黙ってくれないか?ドロシー…」
チャプラは静かに、だが、強い視線でドロシーの瞳をじっと覗き込んだ。
「え…あ…。…ああ、すまねぇ…少し血が上った」
彼女は言葉を止め、気圧された様に息を呑む。
そして小さく謝罪した後、口を閉じた。
チャプラはドロシーから目を逸らして、再度ペトラの目を見つめる。
ペトラは真剣な表情で正面から彼女を見つめ、静かに頷いた。
「ああ…かなり危険な奴だ…った。あれは傷付く事を恐怖しない。
…うん…まぁ…変態というのは確かだ。ナイフを刺されて喜んでいたくらいのな…」
「本当に噂通りだったか…厄介だな。
普通の奴なら、反射的に身体が強張るものなんだがな…。
ペトラのナイフに腕を貫かれたのに、喜ぶのか…」
そう言って身震いした。
やはり、一撃で行動不能にでもしない限り止められないか…とチャプラは呟いた。
ペトラは悔しそうに口を開く。
「奴は体術も高レベルだった。
俺のナイフが急所に刺さるまで、大人しく待つ様な事はしないだろうな。
あの三人が固まっている限り不意打ちも難しい。
避けられない、防御出来ない様な一撃が……俺にはない…」
ペトラは静かに息を吐いた。
己の力不足に対して、静かに憤っていた。
チャプラは頭をガシガシと掻き、少し逡巡した後、静かに机の引き出しの鍵を開けた。
チャプラは、引き出しから重そうなモノを二つ取り出し、三人の目の前に置いた。
「…これは?魔道銃か?」
三人は机に置かれた『モノ』をじっと見つめた。
◆
魔道銃。
銃口装填式の単発銃だが、火薬等は使わない。
鉄の玉でも小石でも弾丸に出来る銃。
威力は、使用者の圧縮魔術式の精度に比例する。
魔道銃後方にある熱圧縮発動部の中に、高密度になる位に魔素を集める。
そして圧縮魔術式を正確に作図・発動する。
その二つが出来る者ならば誰でも、強烈な弾丸を発射することができる。
威力の大きさは、チャンバー内に溜まる魔素密度の大きさと、術師の魔力の強さに比例する。
熟練の術師が鋼弾を使用すると、数十メートル先の鉄板を撃ち抜く程の威力にもなるといわれている一撃必殺の武器。
逆に、魔力の少ない者・作図の下手な者にとっては無用の品。
子供の小石投擲程の威力も出ない。
所持・使用は貴族等の身分の高い者、使用許可を受けた富豪や護衛に限られ、もし奴隷が所持していれば、奴隷の所有者もろとも逮捕される。
どのみち、貴族並みの魔力と正確な式の作図能力、そして、圧縮魔術式の才能が無いと発動すら出来ないので、持ち歩く奴隷などは、まず居ない。
◆
「脅しや刃物は効かないが、流石に腹でも撃ち抜けば止まるだろう?」
チャプラは腕組みしながら三人の様子を見た。
目の前に置かれた2丁の魔道銃を見て、三人とも眉をしかめている。
「姉ちゃん…俺が魔力無しなの知ってるだろ?
そりゃあ、火点け程度は出来るけどさ…」
「アタシは波形魔術式専門だから、圧縮魔術式は使わないわよ?
使えないんじゃなくて、使わないのよ」
「わ…わたし…も、式の作図が下手で…。
それにちょっと……怖いかも…」
三人はお互いに顔を見合わせて、銃に手を伸ばさない。
三人とも躊躇しているのを見て、チャプラが口を開いた。
「これは昨日、キビシュの商会から流れて来たモノだ」
「商会流れ…って…まさか!?」
ペトラは身を強張らせる。
「勘違いするなよ?
もちろん、正規のキビシュルートからの正式な取引だ。当然密輸品だがな…」
そう言って、チャプラはふっ…と笑う。
それを聞いて、ペトラ達は胸を撫で下ろした。
「勿論、ただの魔道銃なんて、いちいち裏ルートから仕入れない。
これはな…『魔道銃』ではなく、『魔導銃』というモノらしい」
そう言って、銃の側面に取り付けられた、小指の先くらいの大きさの魔石を指差した。
「此処の魔石に魔力を充填しておくと、1〜2発程度だがな、一切の魔術式の使用無しで発砲出来るタイプの魔道銃…なのだそうだ」
説明を聞いて、三人は目を丸くした。
「は…?何だ、それ?」
「どういう事なの?え…?まさか…」
「…つ…つまり…、圧縮魔術式を使用出来ない人でも、魔道銃を撃てる…って…意味ですか?」
チャプラは黙って頷いた。
「何それ!?スゲェ!」
ドロシーが目を輝かせながら叫んだ。
すぐに手に取り、舐め回すように魔導銃を観察しだした。
「これがあれば、アタシでもバァン!ってやれるって事じゃねぇか!
アイツの腹ぶち抜けるってことかぁ!?」
チャプラは静かに頷く。
「一丁はお前が持て。
それで…もう一丁はどうする?」
腕を組みながら、彼女はペトラとシャラを交互に見た。
ペトラはシャラと顔を見合わせた後、魔導銃を手に取った。
「ほら…お前が持て」
そう言って、シャラに手渡す。
「え…え…?お…重い…!
わ…わたし?…なんで?」
「俺にはナイフがある。
相手も俺のナイフを警戒する。
一見無害なお前が、いきなり発砲する方が効果的だろう?」
「わたしがやるの…!?
…魔導銃をわたしが…?」
「それに…俺は外国人奴隷侍従役だ。
こんなモノ持ってる所を見られたら、通報されちまう」
「で…でも、こんな重いモノを…」
「そこは…練習と慣れで克服してくれ」
ペトラとシャラの間で銃の押し付け合いがあったが、結局はシャラが折れて受け取った。
「お前がそう判断したなら良いさ…
さて、本題に入ろうか。
お前達が調べてきた、ルブラム家について…教えてくれ」
「ああ…一筋縄ではいかなそうだ…なぜなら…」
四人の話し合いは深夜まで続いた。




