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「そういえばさ、やばいことに巻き込まれたっていう話はどうなったの?」
ホテルのアフタヌーンティーに舌鼓を打ちつつも、友人である里帆は少し前に私が騒いでいた出来事が気になるらしい。
「一応は落ち着いた」
「いや、詳細を教えてくれ。
私の名前が使われたんでしょ?」
「そうじゃなくて同姓同名の別人だった」
「すぐ気がつかなかったの?」
「あーうん。
これは最初から話たほうがわかりやすいかもしれないから初めから話してもいい?」
「いーよ」
軽い調子で答える里帆。
私は紅茶を一口飲んで、ある出来事について話し始めるのだった。
ある日、私が勤める写真スタジオに撮影の依頼をしたのになんの音沙汰もないのはどういうことなのか、というクレームが入った。
その時はなんかやべークレームが入ってきたなという感想しかなかった。
驚いたのは、その撮影の依頼を受けたのが私ということになっていたの。
これはクレームの電話を受けていた事務員も驚いてた。
私は雇われのカメラマン。
スタジオを通しての仕事を受けることがあっても、個人で仕事を受けてそれをスタジオで撮影する。何も相談もなしに。ということはしない。というかスタジオとの契約でそういったことはできないことになっている。しようとも思わなかったんだけど。
しかも、以前やっていた企画での撮影を受けたということになっているみたいだった。
その企画は私が発案して、実施したものでかなり好評だったため第二弾もやってみようかという話が出ているものなの。
これにはなんで外でそんなこと言うのか、と上司に言われた。
でも、私は外でそんなことを言った覚えはなくて。
電話口で“なかざわりほ”さんにもしっかり連絡を取ってもらっている!といわれたみたいで。
なかざわりほ?
思い当たるのは大学時代から付き合いのある貴女。
でも、その一週間前に会ったばかりなのにそんな話は一切しなかったし。
念のために確認したら「なんのこと?」って言っていたあれ。
もう、私に心あたりはなかった。
えー、なんでそんなこと言われてるのー。
内心ビビりながらも、電話では解決しないとその一団がスタジオの事務所に直談判しにくる日になってしまった。
クレーム対応に慣れている事務員も一団の剣幕には驚いていた。
小声で「本当に心あたりないの?」と聞いてくるが本当にない。
「なかざわりほさんにも確認をとりましたけど、きちんと連絡したと言っています!
どうして私たちの依頼を一度受けたのにそのまま音信不通になって逃げるようなことをしたんですか!
中学時代からの同級生なんでしょう!!」
ん?
「中学時代の?
なかざわりほは大学からの付き合いですが」
「は?」
ここであちらの人たちも何言ってんだ?
みたいになってきた。
一人がスマホを取り出してある人物の写真を見せてきた。
「この人がなかざわりほさんです」
確かにその人物は見覚えがあった。
「この人の苗字、なかざわでしたっけ。
加藤、では?」
「加藤はこの人の旧姓のはずです。
…結婚したことは知らなかったんですか?」
「いや、結婚したことは知っていたんですがその後の苗字は知らなかったです」
式は挙げていなかったはず。多分。
「最近連絡をとったことは?」
「ありません。
2年ほど前に機種変更しまして、トラブルで連絡先が消えてしまいまして。
確認してみますか?」
かなり怪しんでいたが、スマホの電話帳も連絡先がなく、SNSでもつながっていないことを確認し、私とそのなかざわりほが連絡を取り合っていないことがようやく確信を持ってわかってくれたようだった。
どうもすみませんでした。
きた時の勢いはどこへやら意気消沈してその一団は帰って行った。
まあ、でもそうだろう。
彼女たちを騙していたのはおそらくそのなかざわりほだったのだろう。
騙して金をと、考えていたんじゃないかと考えられる。
多分ね。
悪いのは私だと言っておけば自分の責任から逃れることができるし。
いや、なんとも短絡的な行動だけど。
彼女たちの話を聞いただけで真相はわからないし。
「それで?そのなかざわりほから謝罪とかはなかったの?」
「なかった。なかざわりほに騙されたママ友たちからは謝罪と菓子折りをいただいた」
「でも、なんでそんなすぐにバレるようなことしたのかね?」
「いやぁ、わからないけどさ。
なんて言うのかな。
流されやすいっていうか、長い物には巻かれるって言うか」
「自分の考えがない?」
「そんなところかな。
そして、目先のことしか見てない、考えていないって言うか。
勝手な想像だけれど、ちゃんとした動機とかないんじゃないかな」
あくまで中学校での付き合いしかなかった知人で地元で会っても挨拶程度の会話するくらい。
そんな付き合いしかしてこなかったのに今更になってどうして私の名前を出してきたのか。
「連絡先って本当に知らないの?」
「うん。機種変の時の不手際で消えちゃった。SNSも知らないし」
彼女との連絡手段はメッセージアプリのみだった、はずだ。
同窓会でのノリで交換した連絡先。
実際に使うことはなかった。
「ふーん。
でもよかったね、それで連絡先なんてあったらサギにしていたことになったかもしれないよね」
「あんまり考えたくないな。
金銭の受け渡しがなかったのがホントに救いでしかない」
「まあ、サギしていたことになっていたなんてなかなかない経験だよ」
「もう二度としなくていい」
そう言ってぬるくなった紅茶を飲み干して新しい紅茶をもらうためにサービスの人を呼んだ。
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