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第十二話

 ライオネルとリリアの二人が国境の検問所から領地の屋敷へと運ばれた。看病をされているところへ、王都からキースが戻ってきたのだった。

 キースはエドモンドから報告を受け、ライオネルを心配し、リリアに呆れたのだった。


「あのバカ女!敵の人質になるなんて、どこまで迷惑かけるんだ。そのまま敵と共に死んでくれたらよかったのに!」


 エドモンドは怒るキースを(いさ)める。


「キース様、リリア様をレオが助けるようにと……」


 怒りが収まらないキースはぷりぷり怒っている。


「君も立場があるんだろうが、リリア様なんて言わずにあのバカ女で十分だと思うよ。それにしてもレオもあんな女ほっときゃよかったのに甘い!!」

「レオの性格なら見捨てる事はできないかと思います」

「そうだよなぁ。そこがレオのいい所だと思う。可愛いやっちゃ」


 キースがライオネルを思いだしたのか、ニャッとする。


「キース様、レオを可愛いと言っても良いのは俺だけです」

「意外と焼きもち焼き?レオは君しか見てないのにね」


 呆れたようにキースは話すのだった。



 ライオネルはなかなか意識を取り戻さず、エドモンドの付きっ切りの看病を受けていた。ライオネルは左腕を骨折し、顔の右側に大きな傷が残り、右目が見えるかどうか分からない状態だった。


 リリアの方はと言うと、けがもなく疲れから爆睡をしているだけだったので、時折侍女が様子を見に来ていた。二日もすれば完全に復活し、食事をしっかり取っているようだった。


 リリアの体調が戻りかけたのを確認したキースは客室にいたリリアに告げる。


「お前、自分のしたことがわかっているのか、ばかすか飯を食いやがって!!」

「リリア怖くてご飯食べられなかったんです~栄養付けないと~」


 丁度、部屋で昼食を取っていたリリアはそう言いながら、食事を口に入れるのだった。その様子にイライラするキース。


「体にばっかり栄養をつけないで脳みそに栄養補充をしろ!お前のせいでレオは死にかけたんだ」

「リリア、何もしてないもん」

「『もん』ってお前いくつだ。いい歳して『もん』とか気持ち悪いわ。それにお前が敵の人質に取られていなかったら、うちの私兵団の実力から言っても、おそらくけが人が出ずに戦いは終わってたんだ。お前、どう責任取る?」


 キースから責任と言う言葉が出たことにリリアはびっくりして目を丸くする。


「せ、責任?リリア、ライオネル様に会いたくて、知らない所に来て怖かったから、だから、親切そうなおじさんに付いて行っただけだもん」


 アホな行動をそうして当然とばかりに話すリリアに、キースは呆れかえって冷たい視線を送る。


「王都にいたらこんなことにならんかっただろうが。親切なおじさんってお子様でも付いていかんわ」

「だって~え~ん」


 意識の戻らないライオネルを心配するものばかりの屋敷で、その原因となった大泣きするリリアを助けるものは誰もいない。キースはイラっとした顔をした。


「泣きたいのはこっちだ。お前にはそれ相応の責任を取ってもらおう」

「せ、責任?どうやって?」


 責任を取るように言われたリリアは焦っていた。キースはリリアに構わずに話を進めるのだった。


「この領地には何代か前のやらかした公爵夫人の住まいがある。お前にはそこに行ってもらおう」

「こっちに住めるの?」


 公爵の目が光る自由の無い王都ではなく、公爵領に住めると聞いて、リリアは嬉しそうにした。キースは冷たい表情のまま話を続ける。


「住めるが、お前が再び逃げないように周りを固めさせてもらう」

「ライオネル様と……」


 期待を込めてライオネルの名前を上げるリリアの言葉をキースは遮った。


「レオには二度と会わせない」


 会わせないと言われたリリアは焦って確認する。


「二度と?」

「お前はレオには害だからな。レオは元通りになるかどうかわからん。お前はレオの人生に影響を与えすぎた。俺は許せない!!」

「貴方に許してもらわなくてもいいです~ライオネル様に許してもらいます~」


 そう言って、リリアは子供のように頬を膨らませるのだった。


「二度と会わせないと言っているだろうが。お前の事は義父(ちち)上より任されている。食べる元気があるなら住まいを移動してもらおう」


 キースに捕まえられたリリアは引きずられるように連れられて行かれるのだった。これ以降、リリアは社交界で病気が治らないため領地にて療養中とされたのだった。


◇◇◇◇


 それから二週間、フロナディア王国はベルンハルト国との戦いの後処理に追われていた。


 そして、デルヴィーニュ公爵領の領都の屋敷で、ライオネルが意識不明のまま眠り続けているのだった。


しかし、エドモンドの必死の看病のお陰か意識の戻らなかったライオネルが意識を回復し、ゆっくりと目を開けた。片時も離れずにいたエドモンドがそれに気が付くのだった。


「レオ、レオ」


 喜びのあまり名前を呼ぶことしかできないエドモンドをライオネルはしっかりと見つめる。一粒、一粒と知らないうちに瞳から涙がぽろぽろとこぼれるままのエドモントはベッドで横になったままのライオネルを見つめ、ライオネルの意識が回復した喜びににっこり微笑みかけた。


「……エ、エド……」


 声を出し辛そうにエドモンドの名前を呼んだライオネルは傍にいたエドモンドの腕をつかんだ。するとエドモンドは引っ張られるように、ライオネルの寝ている横のベッドの端に腰を降ろすのだった。そして、ライオネルを抱き起こすようにしっかりと抱き締める。


「エド、痛いよ」

「レオ、起こしてゴメン」


 痛がるライオネルにエドモンドは慌てて力を抜いた。


「レオ、気がついて良かった。このまま目を覚まさないかと思った……」


 エドモンドは泣きながらライオネルの左の頬にキスをする。


「エド、僕、どれぐらい寝てた?」

「二週間だ」

「!!」


 ライオネルは思ったより長く意識がなかったことにビックリしたのだった。


「レオ、目を覚ましてくれてよかった。好き……いや、愛してる。この二週間、もう言えないのかと……こんなに愛しているのに……あまり伝えられていないのに……伝えられないまま、永遠の別れになるんじゃあないかと思った」


 エドモンドは辛かった二週間を思い出して顔をしかめた。ライオネルはエドモンドに微笑みかけるのだった。


「勝手に殺さないでよ」

「レオの出血の量が多すぎて、死んでいてもおかしくなかったんだ。生きてくれてよかった」


 ライオネルが生きていたことがうれしいのか微笑むエドモンド。

 抱きしめられたままのライオネルは自分の体のあちこちを見回す。


「体が痛い」


 ボソッとつぶやくライオネルにエドモンドが痛々しそうな顔をしながら説明する。


「そりゃあいろいろ怪我しているから痛いと思う。左腕の骨折と全身打撲と切り傷と、それから……顔、怪我してる」

「どんな風?」


 聞かれたエドモンドは、手鏡を取りに行く。鏡を取ったエドモンドは戻ってきて、ベッドの端に座り、見せずらそうにライオネルに鏡を渡す 。すでに包帯が取れた顔を見たライオネルは言葉を無くす。


「……す、すごい怪我」


 ライオネルは一言言ったかと思うと無言のまま、鏡で自分の右頬の大きな傷を確認するように、そして、何か考えるようにじっと眺めるのだった。



 自分の顔を何も言わず眺めるライオネルを見守るエドモンドはライオネルの目から静かに涙がこぼれ落ちるのに気付くのだった。


「レオ、痛むか?」


 何も言わず、首を振って否定するライオネル。

 涙を流すライオネルを包み込むようにエドモンドは抱きしめる。

 ライオネルは静かに涙を流していたが、感情が溢れて抑えきれないのか声を上げて泣き始める。

 エドモンドは強くライオネルを抱きしめた。涙を流したままライオネルはエドモンドを見上げる。


「エド、僕、こんな顔になってしまった……こんな僕じゃあ、エドと一緒にいられない……」


 ライオネルは言い終わるとエドモンドから離れようとしたのだが、エドモンドは離そうとはしなかった。


「何言ってるんだ。確かに顔も好きだったかもしれないが、レオの何もかもが好きなんだ!!レオがレオならそれでいいんだ!!」


 ライオネルに彼自身の好きなところを叫ぶように言ってしまって、なんだか恥ずかしくなり、迫力のある顔を赤くするエドモンドだった。


「エド、ありがとう」


 いつも冷静なエドモンドのいつもと違う可愛い様子にライオネルは嬉しそうに微笑んで礼を述べた。そして、ライオネルはエドモンドに自分の体重をかけるようにもたれ掛かり、全身でエドモンドの体温を感じるのだった。

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