55 転生したら勇者ってキャラ属性獲得しました
―――何年か後。
城はたくさんの子供のにぎやかな声に包まれていた。
今日も兄たちの子供勢ぞろいで、みんなして中庭で遊んでる。あれからルチルもお嫁さん見つけて、ちびドラゴンもキャーキャー言ってる。
「ほら、あんまりはしゃぎすぎないのよ!」
あたしは子供たちに声をかけた。
腰まで伸びたうすピンクの髪が風にそよぐ。
一番年長の五歳になる息子が目の前を走り抜けていった。
長男は実にクラウスそっくりだった。見事としか言いようがない。完全にミニチュアだ。
通算三回目の転生直後初めて見たクラウスもまさにこんなんだったわ。DNAってすごい。
生んで顔見た直後、あまりのそっくりさに「この子、中身まで父親そっくりに育ったらどうしよう」ってゾッとしたのは内緒だ。
心配した通りというか、やたら頭がよく優秀で、そのくせ腹の中真っ黒と日々父親に似つつある。お母さん心配とかいうレベルじゃない。
クラウスも自分によく似た息子をかわいがってて、余計危険。ろくでもないことは教えるな。
そういえば、妊娠中もすごかったなー。
簡単に言うと過保護が加速してた。え、これまでのが最大値じゃなかったのか。軽く天井突き抜けないでよ。
この国の法律では、男女関係なく後を継げる長子相続制だ。生まれてくる子は自動的に次期国王になる。周囲もめちゃくちゃ過保護になってて、まぁそこは分からないでもない。
ただクラウスの場合、極端なのよ。妊娠が判明するとしばらく喜びのあまり呆けてて、我に返ったらここぞとばかりに甘やかしまくってくる。ちょっと歩けば「転んだらどうする」って全部抱っこ移動させられそうになるわ、「母体にいい食べ物があるらしい。狩ってくる」って行こうとするわ。
『狩って』ってことは植物じゃないよね。何をだ。ものすごく嫌な予感がして止めた。
遅れて妊婦仲間になったシューリんとこでも同じようなことが起こった。ジーク兄様までついてこうとして、二人で止めた。
他にもマタニティドレス大量注文しようとするわ、子供の性別分からない頃から服に玩具に買いまくるわ。……思い出すだけで遠い目になりそう。
さすがにランス兄様とフォーラも止める側に回ってくれて、どうにかなった。いやぁ、熾烈な戦いだった。
元国王夫妻とうちの両親はというと、テンション上がりまくりのクラウスとジーク兄様のおかげで冷静になれたらしい。先に誰かが変になると、人間落ち着くよね。
色々ありまくって、いざ陣痛始まるとクラウスはウロウロ落ち着かないクマと化した。うざいんで追い出そうかと思った。
あたしが生まれた頃にはまだ試行錯誤状態だった無痛分娩ができあがってて、それくらいの余裕あったんだ。地球みたいに薬使うのに加え、魔法でまったく痛みなく出産できるまでになってたの。科学と技術の進歩ってすごい。
息子誕生の知らせを受けた瞬間、父は号泣して、元国王夫妻と共に「生まれたー!」と叫んで城中にふれ回ったそうな。落ち着こうよ。
おくるみにくるまれた息子を初めて抱いたあたしは結構冷静で、「あー、サルみたい。やっぱ人間ってサルから進化したんだなー」とか考えてた。
腕の中で元気に泣く息子をあやす。
「元気だねー。お母さんですよー。お父さんも抱いてみる?」
クラウスにきけば、一瞬きょとんとしてた。
「え? あ、お父さんって俺か」
「他に誰がいるのよ。抱っこする?」
恐る恐る手を伸ばすクラウス。
あたしが赤ん坊だった頃を思い出す。あの時もおっかなびっくりだったっけ。
ぎこちなくもどうにか抱っこして、
「だ、大丈夫かな。壊れないか。こんな小さいのに、俺が触って平気か」
「クラウスの子だもん、丈夫でえ頑丈でしょ。ていうか、ネオにとっては育児初めてじゃないでしょ? テオ育てたじゃん」
「生後半年くらいまでは父さん生きてて、父さんや侍女が育ててたよ。父さんの死後も俺は忙しくて暇ないし、乳母つけてたからな。実際には世話してない」
「あ、そっか」
後始末と『至高の魔法使い』への対策を練るため、またその弟子だったマイナスイメージを払しょくするためにもネオは必死で働いてた。あたしとネオがテオを子供のように育てたと言っても、乳幼児の頃はほとんど乳母やちに任せてたのが実情だ。ほんとお世話になりました。
「生まれたばっかの赤ん坊の世話なんてやったことない。どう扱っていいか」
「あたしだって未経験だし。これからお互い慣れてきましょ」
ね、と息子をなでれば、まだよく見えてない目で見上げてきた。そしてきゅっと、傍にあったクラウスの指を握る。
……かつてあたしもやったように。
その瞬間、クラウスの目から涙がこぼれた。
急いで片手で隠し、
「……っごめん」
「謝ることないよ。気持ちは分かる」
はるか昔に結婚して子が生まれ、こんなふうに幸せに過ごせるはずだった。叶わなかった願いがようやく叶ったんだ。
あたしは我が子ごと夫を抱きしめた。
二人して、泣きながら笑った。
その後、息子はすくすく成長し、さらに娘、双子と次々誕生した。
長女はあたしそっくりで、予想通り父親と両祖父にべろべろに溺愛されてる。
次男次女はというと、何をどうしたのか前世のあたしたちによく似ていた。つまり、カレンとネオに。
肉体は現世のDNAを受け継ぐはずなんだけどなー。ほんとどういうことだろうね?
あの頃夢見てた*妄想ともいう、のが現実になったと、クラウスは大喜びだった。……執念が恐い。
ところでジーク兄様とシューリの子はというと、長男はシューリ似の美男子。「男装の麗人が本物の男性に!」と謎の叫びあげて鼻血噴く女性が続出してる。
「いやー、オレに似なくてよかった」
とはジーク兄様の言だ。うん、無駄に暑苦しい脳筋が遺伝しなくてほんとよかった。
現在二歳になるその妹もシューリ似。ただしドジは引き継いでない。
ランス兄様とフォーラのとこはって? 一年遅れで娘が生まれてる。子供は一人でいいと決めてるそうで、二人目は考えてないんだって。そこは各家庭のことなんで何も言わない。うちとジーク兄様んとこの子供たちが兄妹みたいなもんだしね。
両親のしたたかさをばっちり受け継いだ一人娘はすでに女傑の片鱗を見せており、うちの母の再来と噂されてる。
仕事の関係もあってほぼ毎日一緒に過ごしてる子供たちは、今日もわちゃわちゃしてます。親はのんびりそれを眺めてる。
「リューファ」
ふいに後ろから抱きしめられた。
「クラウス。どしたの?」
「ん? いや、平和だなって」
「そうね」
数年前、魔族とはついに和平条約を結んだ。『至高の魔法使い』の一件で魔族側も色々思うところがあったらしい。
少しずつ、共存の道を模索してる。
絵梨さんからも時々手紙が来て、ジュリアス王も地球との交流を図ってるとか。彼女も二児に恵まれていて、今じゃママ友だ。
……そうやって、種族やなんかが違っても、力で征服するんじゃなく話し合って歩み寄っていけたらと思う。
「愛する妻と子どもたちに囲まれて幸せだな」
「うん」
かつて欲しかった、平凡で平穏な暮らしがここにある。
富も名誉もいらない。虐待されたくない。ただただ平凡で穏やかな一生を。
……あたしは虐待の連鎖を断ち切った。虐待を受けた子は成長して親になった時、「自分がやられてたから人にやってもいい」「これが当然」と思って、それしか方法を知らないこともあり、我が子にやってしまうケースが多いという。
そうじゃないよ。自分がそういう経験をしたから、人に同じ思いをさせたくないと考えてほしい。負のループから抜け出さなきゃならないんだ。
「……あたしも、幸せよ」
「けど、まだまだだな。たくさんの子や孫に囲まれて、長生きしておばあちゃんになって寿命で死ぬまで幸せにする。死んだ後もな。何度生まれ変わっても一緒に幸せになろう」
「うん」
あたしが生まれた意味がなんであれ、今ここにいるのは紛れもないあたしの意思。
このルートが『失敗』だったとしても構わない。完全に『成功』な人生なんて存在しないし、失敗してもまたやり直せばいい。
それにね、この結果だってまぁいいかと思えるのよ。
口元が緩む。
次死んだらどうなるんだろう。こっちの世界で転生するのか? 地球とつながり始めてたことでこっちの世界にも変化が起きてる。破滅の未来を回避したこともあり、これまでとは違うかもしれない。
もしかしたら全然別の世界に行くかも?
それでもあたしたちは決して離れないと確信があった。
あなたとならどこまでも。絶対大丈夫。
―――ずっと、一緒よ。
あたしたちは並んで立ち、手をつないだ。二つの世界の指輪が日の光にきらめく。
子供たちが笑い声を挙げながら走り回っている。
「大好きよ」
「大好きだよ」
どちらともなく告げ、微笑んだ。
あたしたちの物語はまだ続いていく。これからも色んなことがあるだろう。決していいことばかりじゃない。大変なこと、辛いこともあるだろう。
でも、あなたと一緒なら。みんながいれば乗り越えられる。
―――さあ、そろそろ一旦筆を置こうか。
物語の終わりの言葉はたいてい決まってるよね?
めでたし、めでたし。
―――というわけで、完結となります。
長い間お付き合いありがとうございました。当初の予定からは途中だいぶ外れましたが、終わりは一番初めから決めていました。
さて―――お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、いくつか解明しないままになっている部分があります。それはクラウスがひた隠しにした箇所であり、永遠に秘密のままにしておきたい所なのです。だからリューファ=カレンがそれを知ることはありません。
謎のままにしておいた箇所はサイドB,つまりクラウス=ネオサイドから書いたほうでこれから明らかにされていくこととなります。別人の視点からだとどういう物語が展開されるのか? オチが分かりきった状態で、一体何があったのか、を探る旅ですね。それではどうぞ。




