第5話 それって、、、虐待?
「物心ついて間もなくのことでした」
神官先生は村長の子だった。幼くして母は亡くなり、後妻に育てられた。子供ながらに、自分の母は他所とは違う、と思っていたらしい。それがある日ハッキリと自覚されたという。
近所の友達は皆、それぞれに自分たちの母親を「優しい」「大好き」などと言う。病気になれば看病してくれるし、何か良いことをすれば大げさに褒めてくれると。またある者は優しく抱きしめられればとても幸せを感じると言う。
だけど神官先生にはそんな経験は一度もなかった。いつも鋭い視線で睨まれ、良いことをしても、失敗しても、気分次第で殴られていた。一番辛かったのは常に「死ね」「役立たず」などと言われたこと。恐ろしいのは自分の母親だけだったと知って、愕然とした。
激昂した母に首を絞められたこともある。そしていつしか自分も母の死を願うようになっていた神官先生。ある時神殿へ行って懺悔をした。するとその時の神官は言った。
「思っただけですか。私だったら実行していたかもしれませんよ」
その時の神官の勧めで、成人後は神殿に入った。仕事に励み、祈りを捧げ、出世もして自分は立派な人間になれたと思っていた。ところがある日自分は母親を許せていないことに気づく。なぜだ。自分は人格者だ。愚かな女の一人にいつまで拘っているのか。
神官先生は祈った。来る日も来る日も。そして気づいた。答えは神殿の中ではなく、人々の中にあるのでは、と。間もなく先生は諸国を巡る旅に出た。
「だけどね、木洩れ日さん。今になっても答えは出ていないのですよ。人には聖職者ぶったことを言っていますがね」
ふふふと先生は笑った。そんな答えなど、本当はどうでもいいんですと言って。