第4話 出発前のご挨拶
「神官先生」
私は地域の礼拝所の隣にある居住区へ入り神官先生を探す。
「よく来たね。木洩れ日さん」
「お飲み物、お持ちしました」
「いつもありがとう」
神官先生は椅子に座っていた。疲れたように見える。私は時計草の果汁を飲みやすくしたものをコップに注いですすめる。
「ふーっ。美味しい」
神官先生は笑った。この笑顔を見られるのも長くないのだろうか。私が首都へ行くことが無かったとしても。
神官先生がここ州都にやって来たのは私が生まれる前のことだった。成人に近い男の子を連れて、太陽神の教えを広めるために国じゅうを巡っていたそうだ。神官先生はもともと高原都市の神官をしていたけれど、ある時、神の啓示があって旅に出たという。連れの男の子は縁あって引き取られた孤児だった。
神官先生は変わった神官だった。普通の神官は、威張っている。位が高ければ高いほど。しかし神官先生は民とともに耕し、種をまき、刈りとる。土木作業を手伝い、家を建て、人が亡くなれば泣き、祭りではともに飲み、食べた。高原都市にいた頃の私財をなげうってここに礼拝所を建てた。そして人々に祈り方と「四つの州の国」の共通語を教えた。だから神官様、ではなく神官先生と呼ばれるのだ。
その神官先生が体調を崩したことがある。成人後、首都で学び医者になっていた育ての息子が帰ってきた。不治の病だった。
「親父殿、この様子だと普通は持って3年です。しかし親父殿は血圧が高い。その上太り気味です。さらに短くなるでしょう」
誰もが絶望した。育ての息子は、親父殿がうんと言えばおぶってでも首都へ連れて行くと言ったが神官先生は断った。ここで死にたいと。それから4年が過ぎた。ひょっとしたらこのまま長生きしてくれるかも、と本人も思うようになった頃、神官先生は再び体調を崩した。「覚悟はしてしています」と先生は口にするようになった。
ここに定住するようになった理由を聞かれて「食べ物が美味しいからです」とキッパリ答えた神官先生。でも今は食欲も落ちている。昔の恰幅の良い体格が懐かしい。
「もうすぐ出発ですね。木洩れ日さん」
「本当は行きたくなんかないんです。でも、、、、」
「どんな体験も、きっとあなたを成長させる糧となるでしょう。でもね、本当に抗えないような理不尽が道を塞いでいたら、遠慮なく逃げなさい。これは私からの助言です」
そして先生は、自分の身に降りかかった理不尽について語り始めた。




