第3話 お兄様、あんまりです
「木洩れ日」
お兄様が私を呼ぶ。大好きなお兄様。とっても優しくて、ハンサムで、細マッチョのお兄様。どうぞ私を助けて。
お兄様の名前は「響き渡る声」という。変わってる?そうかな。
他所は知らないけど、ここ北州では子供が生まれてもすぐには名前を付けない。必ず育つわけでもないからだろうか。1歳くらいまでには決められるけど、森羅万象、何でも名前になってしまう。私の知ってる人で「犬」とか「猿」とかいう人がいる。数字が名前になっている人もいる。もうちょっと考えてあげたら良かったのにと思うわ。お兄様は泣き声が元気だったのでこういう名前になったらしい。
「どうだろう。たった3年間だし、留学のつもりで行ってみては」
「えっ!?」
お兄様はとろけるような微笑みを浮かべて言う
「僕は広い視野を持った女性が好きだなあ。君にとって、これはきっと良い経験になると思うよ」
「喜んで行かせて頂きます」
こうして私の巫女留学が決定した。
だがこの話には裏があった。お兄様は「木洩れ日を説得できたら恋人との仲を認める」とお父様に言われていたのだ。それを聞いたときはほんっとに絶望したわ。騙されたからじゃなく、恋人がそんなに大事なのかと。
お兄様の恋人は「明星」という。お兄様は22歳、「明星」は20歳。適齢期です。確かに綺麗な顔立ちで働き者(これ大事)だけど、その、ちょっともてすぎるというか、、、
「四つの州の国」の中の多くの地域では祭りの夜、独身男女が輪になって踊り、気に入った者同士、手を取り合って人目につかないところで、、、という風習がある。もちろん特定の相手がいない人達だけど、「明星」はお兄様の目を盗んで踊りに参加しちゃうの。それでケンカになるんだけど「明星」は「あなたが早く結婚してくれないからよ」と開き直るらしい。それでお父様もお母様も結婚には反対していた。
親の許可のない結婚などありえない。親の許可がなければ共同体にも受け入れられない。普通なら農地も与えられない。生きてはいけない。だからお兄様も必死だったのかも。