必殺奥義『毒霧』を覚えた
我が家の猫耳メイド、ナーナは住み込みで働くことになった。
エレナと違って不思議と嫌な気はしない。
いやらしい気にもならない。
だってエレナに監視されてるし。
ナーナの仕事ぶりは優秀だった。
料理もできるし馬の世話もバッチリ。
馬があまりにもナーナに懐くもんだから、フレンドリーな生き物と勘違いした俺が近づくと、至近距離で臭い息を食らった。
なかなか強烈な一撃だったぜ。
せっかく馬がいることだし、エレナに馬術を教えてもらうことにした。
人前でエレナの後ろに乗せてもらうのは結構な羞恥プレイだ。
なんとしても馬に乗れるようにならなくてはならない。
なんたってこの世界には自動車も自転車もないからな。
王都をとんずらする時には馬が必要不可欠になるはずだ。
エレナに教えを乞うのは癪に障るが、この際仕方があるまい。
そもそもなんで俺はこんなにエレナを敵視しているんだ?
きっと第一印象でそりが合わないと決めつけたからだろうか。
うん、良くない、そういうのは。
エレナとも少しずつ仲良くなる努力をしていこう。
なんだかんだでエレナもさりげなくフォローしてくれている。
ナーナのメイド服を用意したのもエレナだし、わからないことを聞くとすぐに教えてくれる。
「エレナは何でも知ってるね」と言うと、「何でもは知りません」と答えた。
惜しい、もう一言添えれば完璧だったのに。
エレナがナーナとメイド服などを買い出しに行ってる間に、俺はひっそりとお出かけをした。
マートン商会。
トムが所属している商会だ。
「やあやあキラ君、久しぶり。聞いたよ、しばらく捕まってたんだって?」
相変わらず軽いノリだ。
「他の異世界人に絡まれましてね。とんだとばっちりですよ」
「それで、君が異世界人ってことはバレたのかい?」
「バレましたね。でも十日程で釈放になりましたよ」
「いやー無事でよかったよ。ちなみに僕の事、話したかい?」
「いえ、トムさんは俺が異世界人ってことは知らないことになっています」
「そっか。でもきっと君には監視がつけられたはずだよ」
「ああ、監視兼従者が一人つきましたよ。エレナ・パートソンっていう、王宮警備隊の人が」
「ちなみにその人は今どちらに?」
「我が家のメイドと共に買い出し中です」
「メイド?もしかして家を買ったのかい?」
「いえ、釈放された時にもらいました」
「なるほど。どこにいるかわからないよりはマシってことだね」
「それでトムさん、異世界人の情報、何か入りました?」
「ああ、二つそれっぽいのが」
「まずは最近街中で騒ぎを起こした冒険者が、王都から逃げる途中で討伐された話だ」
「エイジ・ナカバヤシですね?」
「お、もう知ってるのか。残念」
まあ、騒ぎの渦中にいたからな。
「ではもう一つ。東のメルソンの街からの噂だけどね、なんと空を飛ぶ人間がいるらしいよ」
「お!異世界人っぽいですね」
「まあ噂だから。あとはどれも関係なさそうかなあ。ドラゴンを見たとか、海に浮かぶ要塞を見たとか……」
「ん?この世界ってドラゴンいるんですか?」
「おとぎ話でね。羽の生えた爬虫類系の大きな魔物が飛んでるのを見たという冒険者がいたらしいけど、眉唾だね。もしいたら、ギルドで討伐依頼が出るだろうし」
なんだ、架空の生き物か。
「空を飛ぶ人間は異世界人の確立が高いですね。もし詳しい情報が入ったら教えて下さい」
まあ、空が飛べるだけならライトニングで撃ち落とせるし、大した敵じゃないな。
「了解。では僕の番。今日は大きな鏡を作ってもらいたいんだ……」
相変わらずのギブ&テイクである。
さて、情報収集も終わったし、どうしようかな。
孤児院に金貨でも投げ込んでから、師匠と稽古でもしようかな。
そんなわけでカーマイン家の屋敷を訪れたのだが、今日はなんだかいつもと様子が違った。
クリスと師匠が稽古をしていたのだ。
クリスの表情は真剣そのもの。
目にも留まらぬ速さで剣を振るっている。
あんな顔をしたクリスは初めて見るな。
鬼気迫る表情とはこのことだろう。
邪魔するのも悪いのでしばらく見ていることにした。
一時間程経っただろうか。
俺はというと、屋敷の中で紅茶を飲んでいる。
見るのも勉強?
まあそういう人もいるかもしれないが、なんというかね。
空気が重かったんですよ。
あの空間にいるのは辛いものがある。
俺は執事のアルベルトさんに進められるがまま、アンナさんと共にティータイムに突入した。
「クリスの様子がおかしかったみたいですけど、なにかあったんですか?」
アンナさんに聞いてみた。
こういうことを母親に聞くのは良くないだろうか?
「最近仕事中に同僚の方がお亡くなりになったみたいなのよ。なんでもかなり手強い相手だったみたいで、自信を無くしちゃったのかしらね。話を聞いた限り、あの子のせいじゃないと思うんだけど、なんだか自分を責めてるみたいなのよね」
アンナさんは困った顔でため息をついた。
「警備隊って大変な仕事なんですね」
「でもカーマインの家系はみんな警備隊に行きたがるのよねえ。ティナは女の子なんだから、危険な仕事はやめてほしいのだけど」
「なら学院の教師とか勧めてみたらどうですか?強化魔術でも剣術でも引っ張りだこだと思いますよ?」
「本人がそれを望めば助かるんだけど、あの子自分で警備隊に入るって決めたから、多分無理じゃないかしら」
「女性の警備隊って少ないんですか?」
「いるにはいるけど、やはり少ないわね。ティナはちゃんとした格好すればかわいいんだから、早く結婚してくれればいいんだけど」
「でも、クリスさんの隣に立つと男としての自身を失うんですよねえ。自分よりかっこよくて強い、だが女だ!ってのが」
「あら、ティナだって女の子らしくてかわいいところいっぱいあるんだから」
そう言ってアンナさんが頬を膨らます。
残念ながらアンナさんのほうがかわいいです。
「例えばどんな?」
「そうね、例えば今日は穿いてるパンツなんかとってもかわいい熊の…」
その時、ドンと大きな音を立てて部屋の扉が開いた。
「母様!!!!なんてこと言おうとしているんですか!!」
おおう、汗だくのクリスが突入してきた。
顔は真っ赤に染まっている。
一酸化炭素中毒じゃないかと不安になるレベルだ。
「あらティナ、お疲れさま。訓練は終わり?」
「まあまあクリス。落ち着いて汗でも拭きたまえよ」
「これが落ち着いていられるか!!」
こんなに慌てているクリスは初めて見るな。
なんだかうれしい。
「なにをにやけているんだキラ!」
「おっと、これは失礼」
「ティナったら。まずは汗を流してきましょうね」
アンナさんとクリスが退室。
入れ替わりに師匠が入ってきた。
「なんじゃあ、ティナのやつ。えらく元気になりおって。おお、小僧、来てたのか」
「どうも、お邪魔してます」
「ちょうど貴様にも話があったんでちょうどよい」
「お、師匠が俺に話があるなんて珍しいですね。愛の告白ですか?師匠には申し訳ないですが、俺は女の子しか愛せませんよ?」
俺は優雅に紅茶を口に含み、
「貴様、異世界人らしいの?」
それを師匠の顔面に噴射した。
奥義『毒霧』である。
「なんじゃい、きったないのう!」
「ゲホッ…ゲホ、すいません」
思えば師匠に対して俺の一撃がまともにヒットしたのはこれが初。
日々の修行の成果で俺の奥義『毒霧』のキレは飛ぶ鳥を落とす勢いすら…いや、よそう。
今はふざけている時ではない。
「誰から聞いたんですか?」
「マッキンリーからじゃ」
誰だよ。
「先日、王の勅命で異世界人狩りをさせられてのう。その時に貴様のことも聞いた」
「ち、ちなみに、その異世界人狩りに、俺も入ってたりします?」
もしそうなら、ジ・エンドだ。
このジジイからは逃げられない。
「いんや、エイジ・ナカバヤシという男だけじゃ」
ホッ。
命拾いだぜ。
「てゆーかエイジを倒したの師匠だったんですか!?あいつのギフト相手じゃあいくら師匠でも近づけないんじゃ…」
「ふむ。なかなか強敵だったが、儂の他にも優秀な氷の魔術師と組んでたからのう。ギリギリだが、なんとかなったわ」
「はあ~師匠は化け物染みてますねえ。俺はあいつと出逢った時は死を覚悟しましたよ」
「まあ、実際何人も奴に殺された。ティナも仲間を殺されて気が立っておるようじゃ」
「そうですね。あんなクリスは初めて見ましたよ」
「まあ貴様に会って少しは元気になったみたいじゃが」
いえ師匠、あれは怒ってただけです。
「他にも俺のこと知ってる人はいるんですか?」
「四大貴族には情報がいってるはずじゃ。異世界人が悪さをしたら、討伐するのは四大貴族じゃろうからな」
てことは、俺がなんかしでかしたら師匠が殺しに来るのか。
なんと恐ろしい。
「……俺も気をつけよう」
「そうしろ。儂も弟子を殺しとうない」
「はい。…………あれ?師匠、今、俺のこと弟子って言いました!?」
「むっ!いや、言ってないぞ」
やや焦る師匠。
「いや、言いましたよね!?いやー、ついに俺も師匠に弟子と認められたかー、なんだか照れるぜよ」
「ぜよ?いや、言ってない、言ってないからな!?」
そんな風に言った、言ってないの押収をする二人の様子を見たアルベルトは、静かに微笑むのであった。
次話、23時更新予定です!




