サバイバーの爪痕
その日の夜、街道沿いに建てられた休憩小屋に到着し、キラが寝静まった後。
トムとパズとクリスは静かに密談していた。
「さて、昼間の件だけど」
「坊主の魔術のことか、トム?」
「ああ、見てくれ、この矢、未だに消えていないんだ」
トムの手には、キラが昼間作り出した三本の矢がある。
「俺はよく知らねーんだが、やっぱすごいのかこれ?」
「異常だよ。本人の手を離れてから半日経っても消えていないなんてね。錬金術といっても過言ではない」
「んな馬鹿な」
「あいつ、キラといったか。もしや平民の出ではないかもしれん」
「貴族ってことか?」
「あり得るね。これだけの魔術が使える子が平民に生まれるとは考えにくい」
「パズの魔術を見てすぐに真似ができたことも異常だが、素材を変えることもできただろう?」
「ああ。それもやっぱすごいのか?」
「キラはもしかしたら、矢以外も作れるかもしれんな」
「んな馬鹿な」
「王都に着くまでにいろいろ試したほうが良さそうだね」
「いろいろって?」
「まずは、キラが作り出した物はいつ消えるのか、そして何を作れるのか、だね」
「キラの魔術のことは三人だけの秘密にしたほうがよさそうだな」
「そうだね、商人の目には金のなる木だよ、彼は」
「そーだな…。なぁ、その矢もらってもいいか?」
「パズ、君話聞いてたの?この矢はいつ消えるか調べるんだから、使ったら駄目だよ?」
「じょ、冗談だっつーの」
次の日。
朝になっても矢は消えていなかった。
「なぁ坊主」
「なんですかパズさん」
馬車の荷台で、今後の計画を考えていると、なんだかそわそわしたパズが話し掛けてきた。
「このナイフなんだけどよ」
年季の入ったナイフだ。
刃こぼれが目立つ。
「このナイフの新品って作れねーかな?」
「イメージできれば多分いけると思いますよ。刃こぼれなしの状態で、材質は鉄で…よいしょ!」
出来ました!
どうやら俺の『一日三魔』は魔術よりもはるかに応用が利くらしい。
一度見て、イメージさえ掴めればいいみたいだ。
「うほー!やったぜー!ありがとよ坊主!」
「いえいえ、パズさん達は命の恩人ですから」
とはいえ人に喜ばれるのは気分がいいな。
「そういうことなら僕も一つ、お願いをしていいかい?」
「いいですよ、トムさん」
一日三回までだけどな!
「これと同じ物を作れるかい?」
というと、トムは一枚のコインを御者から放ってきた。
「これは、金貨、ですか?」
「はい、できましたよ」
楽勝だぜ!とばかりに得意顔で二枚の金貨をトムにパス。
「……これは驚いた、見事な出来だ。だが君のその力は、他人の前で使わないほうがいいね。面倒ごとや犯罪に巻き込まれて、ひどい目にあいたくなかったら、ね」
確かにその通りだな。
俺を拉致って毎日金貨作らせてりゃ、相当儲かるだろう。
「肝に銘じておきます」
魔術が使えたもんだから、少し調子に乗ってしまった。
考えてみれば、俺は殺し合いのためにこの世界に召喚されたんだ。
どこで他のサバイバーが見てるかわからん。
見つかったら攻撃手段をまだ持たない俺は、きっとあっさり殺されてしまうだろう。
そう考えると、かなり迂闊な行動だった。
この世界の住民のふりをしながら、未知のギフトを持つ敵サバイバーに対抗できる力を持つこと。
これがしばらくの俺の行動方針になりそうだ。
「まあまあそのへんでいいじゃねえか。坊主も俺達への恩返しのつもりでやったんだし、今は俺達しか見てないしな!」
黙って考え事をしていた俺を見ながら、パズが気まずい空気を感じてフォローしてくれた。
やはりこのおっさん、顔面はギャングかバイキングだが中身はいいヤツだ。
だが俺は忘れてはいない。
この男には人工呼吸という名目で俺の唇を奪ったという嫌疑がかかっている。
いいヤツだが、油断大敵。
「そうだ、坊主は魔術の才能があるみてーだし、クリスの魔術も教えて試してみろよ!」
身体強化か!忘れてた!
ナイスなフリだぜ。
人工呼吸の件はしばらく忘れておいてやろう、お互いのためにもな。
「ならコツを教えてやろう」
クリスも嫌な空気を払拭するためか、乗ってきた。
俺とクリスは木箱の上で腕相撲の態勢で手を握っている。
前は気付かなかったが、意外と剣士であるクリスの手は大きくないな。
しかし相変わらず、押しても引いてもビクともしない。
「今、キラは腕の力だけで押しているだろう?そこから腕の筋肉に血液を集めるようにイメージしてみろ。イメージできたら、その集めた血液をパワーに変えろ!」
「ふんぬぬぬぬぬ!…あ、動いた!!」
クリスは苦笑した。
「本当にできてしまうとはな。おめでとうキラ、それが身体強化の魔術だ」
クリスの笑顔は初めて見たが、やはりおっさんと違ってイケメンの笑顔は絵になるな。
「慣れれば全身に身体強化を掛けることもできるようになるだろう。キラならすぐできるようになるさ」
全身強化だと!?
非力な一般人の俺にこれはでかいぜ!
「ありがとうございます!」
「坊主は天才ってヤツかもしんねーな!」
「……盛り上がってる所に悪いんだけど、護衛の二人はちゃんと周囲の警戒もしてるんだろうね?」
トムがため息交じりに聞いてきた。
おっさんとイケメンはやや慌てて、
「あ、当たり前だ、なあクリス?」
「も、もちろんだ」
そういえばこの二人は仕事中だったな。
目当ての魔術もいただいたことだし、あまり邪魔しないでおこう。
日が傾き始めた頃、御者のトムが「休憩小屋だ」とうれしそうな声で言った。
都市を繋ぐ街道には、一定間隔で小屋が建てられているらしい。
とはいっても中は無人で、雨風が防げる程度のものだ。
いったいいつ王都に着くのだろうか。
正直もう尻が痛くてしょうがない。
あと何日で王都に着くのか聞こうとした時だ。
「トム、馬車を止めろ」
いつになく真剣なパズの雰囲気に、クリスも警戒を強めた。
「どうしたんですか、パズさん」
「死体だ」
トムは荷台からクロスボウと取り出していた。
俺も欲しいな、それ。
「俺が様子を見てくる。クリスは馬車の警護、トムと坊主は辺りを警戒しててくれ」
俺とトムは黙ってうなずいた。
パズの視線の先を見ると、小屋の入り口に死体らしきものが二つ。
赤黒い血が見え、俺の緊張は一気に高まった。
クリスはすでに剣を抜いている。
パズは弓を左手に持ち、忍び足で小屋に向かった。
死体を調べ始めたパズ。
そして小屋の中を見て、それから小屋の裏側に向かった。
小屋の裏から30メートルほど先は森が広がっている。
俺が狼らしき群れに襲われたのは森の中だったな。
「トムさん、街道沿いに狼とかって現れるんですか?」
「この辺りの魔物の類いは滅多なことがない限り森からは出てこないよ。街道や平野なら基本的には危険は少ないね」
…ということは森が一番危ないと。
もしくは相手が人、とかか。
つーか魔物って言ったか今?
考えているとパズが戻ってきた。
「来てくれ。馬車ごとでいい」
馬車を小屋の脇に停める。
「小屋には誰のいなかった。死体は入り口に二つ、小屋の裏に二つだ」
死角にもう二人分の死体があった。
クリスが死体を調べている。
「胸を刺突系の武器で刺されているな、こっちは穴が三つ、そっちは二つ」
「こっちはもっとすげえぞ」
パズが小屋の横から声をかける。
「なんだこれは…!」
死体を見た後、小屋の壁を見たクリスが呟く。
つられて俺も見に行った。
「…!!」
小屋の壁には一定間隔で横一線に何個も穴が開いていた。
まさかこれは…。
俺は小屋の中に入った。
すると小屋の隅にキラリと光るものを見つけた。
手に取って調べる。
これは…薬莢か?
銃で撃ったってことだよなこれ。
つまり、小屋の中からマシンガンで壁に向かって横一線にフルオート射撃、ということだろうか。
「キラ君、何か見つけたのかい?」
トムが小屋に入ってきた。
「こんなものが落ちてました」
トムに薬莢を渡す。
「これは…見事な技術だが、見たことのない物だね。何に使うんだか…」
商人のトムが知らない、ってことは、この世界に銃はないのだろう。
これはやばいな。
銃のない世界に、フルオートマシンガンを持ったヤツがいる。
間違いなくサバイバーだろう。
俺のギフトに比べ明らかに殺傷能力に特化したギフトだ。
もし今コイツに遭遇したら……。
瞬殺される、間違いない。
「こいつら盗賊だぜ。おそらく深夜にでも小屋を襲おうとして返り討ちになったんだろうな」
「凄まじい技術、もしくは魔術を持った者が相手だったのだろう。おそらく指名手配リストには乗っていないな、記憶にない」
「では使えそうな物は回収して、死体は焼きましょう」
「そうだな、血の匂いで森から魔物が出てきたら厄介だ。坊主、手伝え」
「ゲッ!」
俺はこの日、初めて死体を触った。
トラウマになったらパズを怨もう。
夢に出てこないことを祈るばかりだ。
次話は明日の18時に更新予定です。




