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異世界到着、そして出会い

 気づいたときには俺は森の中で一人、茫然と突っ立っていた。

 周囲を見回しても人の気配はない。

 上を見上げるとたくさんの葉っぱの隙間から、かすかに光が漏れている。

 が、それでも森は暗い。


「ま、まず装備の確認をするか」


 布のロンTに布のズボン、ズボンのポケットは空っぽ。

 所持品、なし。

 もう一度周囲を見回した。

 しかし、道らしいものも見当たらず、俺は途方に暮れた。

 どの方角に進めば良いのか、まったく見当もつかない。


 そしてギフトだが。

 『一日三魔』は、一度発動を見たことのある魔法しか使えず、一日三回しか使えない。

 つまり現状魔法が使えないということだ。

 まずは魔法使いに教えを乞う必要があるだろう。

 最後にサブギフト、『仲良し』。敵意を向けられにくくするらしい。

 これはおまけみたいなものだろう。あまり期待しないでおこう。


 武器も防具もない、丸腰状態。

 今襲われたら逃げるしかない。

 思わずため息が漏れた。

 暗い森の中ということもあり、不安でしかたがなかった。


「ってゆーか俺、一回死んだのか…。自宅でって言ってたけど、何があったんだマジで」


 なんだか実感もわかないうちにポンポン話が進んでいる気がする。


「ん?」


 遠くで何かが動いているのが見える。

 四足歩行。


「犬か?」


 向こうもこちらに気づいたようだ。

 こちらに近づいてくる。

 ちょうどいいのでサブギフト『仲良し』のテストをしてみよう。


「おいでおいで~」


 対象はあの犬、大きさは中型犬ほどで黒い。

 おっ、走って来たぞ、かわいいじゃないか。


「ガウッ!」


「うおおっ!」


 殺意全開で喉元めがけて飛びついてきたのを、慌てて避けた。

 これはあれだ、ヤバいヤツだ。

 旋回して再び飛び掛かって来たところを右足で蹴り飛ばした。


「キャン!」


 と鳴いて、犬は逃げ出した。


 び、びっくりした……。

 ドキドキが止まらないぜちくしょう。

 とりあえず犬が逃げたのと逆方向へ進むことにした。


 『仲良し』は犬には効きづらいのか、相手が悪かったのか。

 そんなことを考えながら十分程歩いただろうか。

 ふいに森の奥に光が見えた。


「お、出口か?」


 やっと森を抜けられるかもしれない。

 とその時、背後で何かの気配を感じて、振り返った。


 ……。

 何もいない。

 だが妙な感じだ。

 とりあえず隠れておくか?

 身を隠せる藪はたくさんあるし。

 …いや、もしやすでに何か隠れているのか?

 そう思うと冷や汗がでた。


 俺は森の出口へと全力で走り出した。

 すると「アオーン!」という鳴き声がした。

 ちらりと後ろを見ると、さっき蹴飛ばしたのとそっくりの犬が十匹以上追ってきていた。

 犬、いや、狼か?

 ヤバいヤバいヤバい!

 さっきの復讐か?

 あんな数勝てる気がしない!

 一心不乱に走る。

 とにかく森を抜けよう!

 出口はすぐそこみたいだ!


 暗い森からいきなり明るい場所に出て、一瞬目が眩んだ。

 そして足を踏み外したような感覚。

 崖。下は川。落ちる俺。


「どわあああああああああああああああ~!!」







 




 目が覚めると、視界いっぱいに星空が広がっていた。

 こんな綺麗な夜空は見たことがない。

 何があったんだったか……。

 そうだ、川で溺れたんだった。

 ということは死んだってことか。


「死ぬの早かったな、俺」


「おーい、まだ生きてるぞー」


「っ!!」


 ガバッと起き上がると、近くでたき火を囲む三人の姿があった。


「これはいったい……」


「あぁ、坊主が川に流されていたのを、俺が拾ったんだ。運が良かったな。ほれ、お前の服だ」


 と、お髭のダンディなおっさんが言い、服を投げてよこした。

 俺が着ていた服だ。俺の体には毛布が掛けられていたが、その下は裸だった。


「彼の適切な処置がなければ死んでいたかもしれないな。本当に運がいい」


 と、茶髪の優しそうな男が言った。

 川で溺れ、流されていたところをおっさんが救出してくれたようだ。

 適切な処置……。

 脳内で裸の俺に髭面のおっさんが人工呼吸している。

 これ以上考えるのは危険だ。

 急いで服を急いで着よう。


「危ないところを助けていただき、ありがとうございました」


「いいってことよ。俺はパズ。そっちは商人のトム。そっちがクリスだ。坊主の名前は?」


「キラです」


 あえてフルネームは言わなかった。

 キラ・キイラと名乗るのに、俺の勇気は少し足りていない。

 茶髪の優しそうな男は商人でトム、赤毛の物静かな剣士はクリスというようだ。

 クリスはクールなイケメン騎士、という感じ。


「キラ君がどこから来たのかは知らないが、王都までは送ろう」


「ありがとうございます。すごく助かります」


「腹減っただろ?これでも食え」


 おっさんが干し肉のようなものをくれた。

 遠慮なくいただいた。

 硬くてまずかったが、お腹がすいていたのでありがたかった。


「で、坊主はどうしてこんなところに?」


 ……さて何と言おうか。

 正直に言って頭のおかしいヤツ扱いはされたくないしなぁ。

 っていうかこの世界の知識がまったくないんだよな。

 よし、記憶喪失っていうことにしよう。


「実は助けてもらう前の記憶がなくて……。しばらくしたら何か思い出すかもしれませんが」


「おいおい、大丈夫かよ!?」


「……多分大丈夫です」


 真面目に心配してくれてるのだろうか、このおっさんいいヤツだな。

 こんなピュアなおっさんに嘘をつくのは心が痛い。

 パズさんはピュアおじさんだ。


「記憶障害ですか、長い時間呼吸ができずにいるとそういうことも起こると聞いたことがありますね」


 トムさんは物知りキャラのようだ。

 今度いろいろ聞いてみよう。


「今日のところはお疲れでしょうから、今日はもう休みましょう。いいですか、クリス?」


「ああ」


 クリスさんは無口にようだ。


 まぁいい、俺も狼に追われたりで疲れた。

 今日はもう寝させてもらおう。

 横になって目を瞑ると、泥のように眠った。











 翌朝、パズに起こされ、俺は荷馬車に乗った。

 荷馬車は二頭の大きな馬にひかれている。

 トムが御者、荷台には大量の荷物と俺、パズ、クリスが乗っている。

 再確認したが、パズはいいヤツだ。

 俺がいろいろと質問しても、いやそうな顔一つせずに話してくれた。

 この三人の関係は、商人のトムが雇い主、パズとクリスはその護衛らしい。

 トムは王都まで商売をしに行くのだとか。


 王都か。これは都合がいいかもしれない。

 俺のギフトは一度魔法を見なければ使えない。

 使える魔法を多くするには、人が集まりそうなところへ行って魔法使いを探すのがベストだろう。

 その前に一つ確認することがあるな。


「パズさんって魔法使えます?」


「魔法って…魔術のことか?」


 魔術?

 この世界では魔術と言ったほうがいいのかな?

 違いがわからんが念のためこれからは魔術と言っておくか。


「魔術を使える人ってのはどれくらいいるんですか?」


「金さえあれば王都の学院で教えてくれるらしいから数はわかんねーな。がんばれば誰でもちったあ使えるようになるんじゃねーか?クリスも使えるぞ、なぁ?」


「……ああ」


 ななな、なんですと!?

 ってことはこの世界ってみんな魔術使えるってこと!?

 ギフト選択ミスったー!!

 いや、落ち着け、とにかく今は魔術を覚えることが優先だ。


「どど、ど、どんなのが使えるんですか?」


 いかん、ちょっと興奮ぎみになってしまった。

 クリスが少し引いてる。


「身体強化とかだな」


 とか?貴様もっと何か使えるんじゃないのかね!?

 いや待て、クリスは無口でシャイなガイだ。きっとそうだ。

 少しづつ見せてもらおうじゃないか。


「見せてもらえませんか?」


「…見てもつまらないぞ?」


 というと、クリスは手を差し出した。


「?」


「引っ張ってみろ」


 俺は言われるがままにクリスの手を引く。

 が、ピクリとも動かせなかった。


「これが身体強化の魔術。筋力が上がる魔術だ」


 俺は全力で手を引いたがビクともしなかったので、あきらめて手を放した。


「すごいですね…」


 涼しい顔してなんてパワーだ。

 で、問題は俺にも使えるかどうかだ。


「詠唱とかは必要ないんですか?」


「必要なものもあるらしいが、私は知らん」


「なるほど……」


「なんだ坊主、魔術に興味があるのか?なら俺のも見せてやるよ」


「えっ!パズさんも使えるんですか!?」


 てめー出し惜しみしやがったな!


「まぁな。俺のはしょぼいけどな」


 そういうとパズの何もなかった掌の上に、矢が一本現れた。


「……手品?」


「ちげーよ!見た目は地味だが、魔力の物質化という魔術らしい」


 あれ、それすごくね?


「地味だけどすごくないですかそれ?なんでも作れるんですか?」


「矢だけだな、一日50本くらいで魔力切れになる」


「修行とかしたんですか?」


「修行っつーか、俺はガキの頃から親父と狩りで生きてきたんだけどよ、ある日親父と狩りをしてる時に、俺は矢筒の中が空になってるのに気づいてなかったんだ。親父は気付いててよ、後で説教する気満々で黙って見てたら、なぜか俺は何もないはずの矢筒の中から矢を取り出して射っていたらしい。それがきっかけだな。どうやってるのかは俺もよくわからん」


 知らず知らずのうちに魔術を使っていたってことか。

 なんだかこの世界の人はきっかけさえあれば誰でも魔術を使えそうだな。


「俺からしたらこんな便利な魔術はないと思うんだけどよ、弓使い以外には受けが良くないんだよな」


「その矢、見せてもらっていいですか?」


「ほらよ」


 俺はパズから矢と受け取った。

 すごいなこれ…。

 触った感じ特に違和感もないし、本物っぽいな。

 ……なんかパズがニヤニヤこっち見ているな、実に気持ち悪い。

 と思ったら矢がどんどん薄くなっていき、しまいには消えてしまった。


「わっ、え、なにこれ!ごめんなさい!消えちゃった!」


 俺は慌てて謝った。


「いや、いーんだよ、そーゆーもんだからな。その矢は俺の手を離れると10秒くらいで消えちまうんだ。まぁ普通に使う分には問題ないがな」


 なんだよ、焦って損したわ。

 しかし、身体強化の魔術よりはこっちのほうがイメージしやすいな。

 魔力の物質化、魔力を矢に変える、イメージはさっきのパズの矢だ。

 ………はいっ!!


「できた!」


 俺の右手の上にさっきのパズのと同じ矢が出来上がった。


「んなっ!!」


 パズがめっさ驚いてますわ、げへへ。

 クリスも目を見開いている。


「おい、坊主、もう一回やってみろ!!」


「いいですよ~、ほい!」


 二本目の矢が床に転がった。


「こ、こいつはすげえ!!お前魔術の才能あるぜ!なぁ、今度は矢じりの部分を石じゃなくて鉄にできねーか?」


「ちょっと待ってくださいね…。せいっ!」


「おお~、俺がやりたくてもできなかったったことをあっさりと!なあなあ、今度は矢じりを少し大きめにしてみてくれよ!」


「いいですともいいですとも。んん~、………あ、魔力切れっす」


「え、もう?」


「……はい」


 本日の三魔、矢三本で終了。

毎日18時に1~2話投稿する感じで行こうかと思います。

小説は初めて書きました。

「だが、それがいい!」という人は次話もヨロシクです。

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