第三十話
夕食を食べてから、洋市と亜希はそれまでの疲れがどっと押し寄せた。
宿屋でお湯をもらい、それぞれ頭と身体を布でよく拭いた後は、正直喋る気力も残っていなかった。
しかし、眠る前に洋市は渾身の力を振り絞って、ゴブリンの姿に戻る。
そして、現状のステータスを確認した。
───────────────
[種族]
ゴブリン(変異種)
[ジョブ]
スカウト(斥候) Lv.26
[体力/魔力]
4,500 / 2,000
[スキル]
隠形 Lv.1 : 自らの姿を隠し、人間や魔物から見えなくする(明るい場所では難しい)
夜目 Lv.4 : 光がまったくない場所でも、周囲の風景を大まかに認識できる
盗取 Lv.3 : 相手に気付かれず、モノやスキルを盗むことができる(確率30%)
毒爪 Lv.5 : 爬虫類に効果的な毒を、自分の爪から出すことができる(致死率50% / 攻撃回数)
風刃 Lv.5 : 爪を立ててチョップしたり、爪で空気を引っかいたりすることで、風の刃を飛ばせる
身体強化 Lv.3 : 筋力・瞬発力・耐久力・跳躍力などを向上させる(3倍)
マッピング Lv.1 : 過去に自分が行って命名した場所を簡単に確認できる
うわばみ Lv.2 : 陰蛇時、消化スピードが早まる
蛇睨み Lv.1 : 陰蛇時、目が合った相手の動きを止める(効きは互いの強さに左右される)
[変身時間]
620/1180 分
[特殊スキル]
勇気の欠片(小): 日本とアルトヤ界を行き来するためのエネルギー(11/15)
スキル解説(弱): 現在自分が取得しているスキルの概要が分かる
変化:陰蛇 陰蛇の姿に変化できる
[人間味]
70/100 : 比較的人間よりの思考・嗜好
[持ち物]
毒魔法
[ステ―タス開示状況] 8項目
───────────────
『うわ、結構減ってるな』
食事中もアナウンスが聞こえたが、詳細は聞き逃していたため、洋市は人間でいられる時間を確認した。
おそらく、変身時間の最大値は大幅に増えており、それに対して人間への変身残存時間は10時間ちょっと。
『ゴブリンに戻ってなかったら……日本に戻ったときに人間に戻る時間は残せないだろうな』
問題は、眠ったら時間は回復するのかどうかだが、現在の洋市は変身時間を節約することに意識を向けるだけで精いっぱいだった。
『いかん……まぶたが……おもい……』
ノアから借りたローブを脱ぐのもままならず、なんとか隣を見ると、亜希はすでに眠っているようだった。
異性が近くにいるというのに、なんという図太さだと思いながら、洋市は意識を飛ばした。
灯りがついたままの部屋で、亜希は夜中に目を覚ました。
スマホの時計を見ると[2:15]となっており、身体を拭いてからそのまま眠りに落ちてしまったのだと気付いた。
『ヤバい、化粧落とさないまま寝ちゃった』
お湯を含ませた布で拭いたとはいえ、クレンジングをしていないのはまずいと、リュックからフェイシャルタオルを出した。
手鏡を開き、優しく皮膚に押し当てて水分を吸い取るように、いつもの要領でメイクを落とそうとする。
『顔を洗う水は……ないか。さっきのお湯は使い切っちゃったし。仕方ない、ここは異世界だもんね』
十分に落ち切ったようには感じなかったものの、顔が少しすっきりしたため、気持ちを切り替えて二度寝しようとする。
そのとき、隣で寝ているゴブリンの姿が目に入った。
『結局、洋市さんはゴブリンの姿に戻ったんだ。やっぱり人間の時よりも楽なのかな。ローブ着て寝てるのがちょっと可愛いかも』
亜希の目の前には、日本ならマスコットキャラになりそうな姿の洋市だった。
その姿を見て、思わずにやけてしまう。
『……なーんで洋市さんは平気なんだろ。アイツ(元カレ)と付き合ってあんな目に遭ったんだから、きっと男なんてみんな怖くなるはずなのに。この人からはそういう感じが全然しない』
亜希は普段から、夜の街で男性の生々しい欲望を間近に感じて生きてきた。
だからこそ、洋市の醸し出す“無害さ”が新鮮だった。
実際のところ、洋市は過去に女性と付き合った経験がないわけではないが、徹底した仕事優先のフリーランス気質ゆえに、他者との間に一定の線を引く癖が染み付いている。
男女問わず不快にさせない、波風を立てない、いわゆる営業用の柔和さが、亜希には絶対的な安心感として映っていた。
『なんか、一緒にいて安心できる人って、すごいよね。吊り橋効果だとドキドキするっていうけど、そういう感じじゃない。何とかなるっていうか、守られてるっていうか』
亜希がそのような絶対的な安心感を抱くのは、洋市個人のたたずまいによるものだけではない。
現在、洋市は『亜希の身辺警護』というクエストを受託している状態だ。
このクエスト下では、洋市にとって亜希は【守護対象】としての意味合いが強くなり、必然的に下世話なプライベート感情が抑制されやすくなっている。
もちろん、洋市も亜希も、そんな理不尽に自分たちの感情がコントロールされていることなど、自覚しているはずもないのだが。
『……帰ったら、ちゃんとしないと』
いつまでも洋市に頼ってばかりではいけない。
日本に帰ったら、問題は極力自分の力で片付けるようにしよう。
そう決意して、亜希はベッドに横になり瞼を閉じた。




