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【ゴブリンマン】~40代フリーランスが異世界でゴブリンになったら、人助けポイント稼がないと人間に戻れなくなった件~  作者: 広瀬


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第一話

秋の山は紅く染まり、落ち葉が土で踏み固められた道を彩る。

いわゆる「映え」な景色を、死んだ魚の目のような輝きの瞳孔に映しながら、浅井洋市は歩き続けていた。


「バズりたいなあ、今回こそは……」


一昔前、洋市の景気は最高潮だった。

旅行ブログに記事を書けば反応があり、SNSに写真をアップすればいいねが集まり、好循環の中でブロガー兼ライターとして独立した。


アフィリエイトで月7ケタの収益化に成功したこともあり、この世の春を満喫していた頃もあった。


しかし、だんだんと記事の閲覧数が減少し、法人のオウンドメディアやポータルサイトにPVを奪われてから、洋市の収益は落ち込んでいった。


文筆の世界で戦ってきたという自負()()はあった彼は、動画など他媒体への参入を頑なに拒み、結果としていくつものチャンスを逃した。

そこで、これまでのように王道の場所だけを紹介するのではなく、ネタ枠にも挑戦することにしたのだった。


ただ、やったことのないジャンルに挑戦し、成功するのは決して簡単ではない。

様々な領域で失敗を繰り返し、少しバズの気配を感じたのが「廃墟」や「オカルト」といったジャンルだった。


今日、洋市がいる場所。

それは限界集落が数km先にある「小野田」という駅名の秘境駅だった。


かつては駅周辺に複数の集落があり栄えていたが、ダム開発に伴い多くの人が他の街へと流れ、現在は人気どころか動物の気配さえ感じられない。

航空写真で見ると、木々のじゅうたんが敷かれた中心部に、まるで小さな穴が開いたかのようなスポットになっている。


しかし、その独特の雰囲気が鉄道ファンをはじめとする多くの乗客に愛され、運行会社が秘境駅として駅舎の整備をしている。

ご当地グルメや飲料などの自動販売機があるわけではなく、列車の本数も限られていることから、総じて利用客は少ない。


それでも。

自然の中に突如生まれた人工的な空間、時が止まったかのような木造の駅舎、薄暗いホームの電灯など、レトロな雰囲気に魅せられてこの駅を訪れる人は一定数存在している。


最近は、長年にわたり駅舎を守ってきた車掌の写真が笑うとか、ダムの底に沈められた借金苦の男の幽霊が出るとか、そんな噂も出るようになった。

SNSや動画投稿サイトでは、この駅を撮るだけで一定の視聴者がつくことから、定期的にコンテンツがアップされている。


洋市もまた、その恩恵にあずかろうとして、小野田駅を訪れていた。


「それにしても、本当になんにもないところだな。駅舎は暖かいからありがたいけど。」


その木造の駅舎には暖房などないのだが、南窓から太陽の光が差す構造になっていることから、ベンチに座っていると非常に暖かい。

洋市はまず、ベンチで日光浴をしながら、どんな写真・動画を撮るか検討することにした。


さっそくベンチに座って駅舎内を見回していると、ふと目線の先に奇妙なものを見つけた。

霧のような、蜃気楼のような揺らぎである。


寒暖差が激しいせいなのか、今きた改札口の奥、木々の前にモヤモヤしたものが見える。

さすがに霊だとは思わなかったが、興味を惹かれたため、洋市は近づいてみた。


霧や蜃気楼に近づいてみると、その揺らぎのようなものは、視界から消えることなく続いていた。


そして、興味本位で右手を入れてみたところ、いきなり強い力で引っ張られた!


「なっ……ちょっと!誰か!!」


誰もいないのを知りながら、思わず誰かに助けを求めた洋市は、そのまま引きずり込まれるように揺らぎの中へと消えていった。



一瞬で揺らぎの外へ出て、洋市は目に映る景色に愕然とした。

空が紫色で、地面はこげ茶一色。


木々は枯れ果て、今まで嗅いだことのない強烈な腐臭がする。

何者かが焼かれたのか、それとも死んでからしばらく放置されたのか、いずれにせよ尋常な事態でないことはすぐ理解できた。


「何だ……ここは」


そう言うのが精一杯だったが、感覚的に自分がまだ“死んでいない”ことは理解できた。

問題は、これからどうすべきか、自分の頭で考える必要があることだ。


「とにかく臭いがひどいな。もう一回、あのモヤモヤした場所に入れば大丈夫だろうか」


幸い、後ろを振り向くと、あの揺らぎはそのままだった。

安心して身体を揺らぎに近づけた直後、強烈な熱気が背中をはいずった!


思わず倒れ込み、何とかして熱から逃れようとするが、隠れるような木や岩が身近にない。

背中に火が付いている?

とっさに上着を脱ごうとするが、うまくいかない。


妙に頭は冷静で、誰かが言い争う声のようなものが聞こえる。

上着を脱ぐのをあきらめて、声が聞こえる方を向いてみると、変なコスプレをした輩が戦っている。


一人は、中世を模した世界観のテレビゲームに出てきそうな勇者の姿。

もう一人は、頭に二本の大きな角を生やし、黒ずくめの毛皮に身を包んだ魔王?のような姿。


夢か?

幻か?

今話題の異世界なら、スマホで撮影できないか?


非現実的な妄想に一瞬意識を奪われたが、よく見ると二人は洋市の方を向いている。


勇者は多分「やっちまった!」みたいな悔しそうな顔をしている。

魔王は多分戸惑って、その後「まあいいや」みたいな雰囲気を出している気がする。


そして、魔王らしき存在は、自分の脳みそに何かを伝えてきた。



『オマエニ フサワシイ スガタニ シテヤル』



そう言われたような気がした後、洋市は意識を失った。




目が覚めると、洋市の目にはホーム側の出入り口が見えた。

どうやら、太陽を背にして、ベンチでウトウトしていたようだ。


「まあ、夢だよな」


どうして勇者と魔王が出てきたのかは分からない。

テレビゲームなんて、ここ十数年はご無沙汰だ。


どこか懐かしい風景を目にする中で、いつの間にか童心にかえっていたのかもしれない。

そう思い直し、スマホをリュックから取り出し写真撮影を始めた。


一通り素材になりそうな画像を撮って、ホームに並び列車を待つ。

ほどなくして列車が到着し、誰も乗っていない車両の端、対面ベンチに座った。


画像や動画の素材を整理しながら、洋市は考える。


「俺にふさわしい姿って、どういうことだったんだろうな」


夢の内容は、自分の願望や近い未来を投影していることがあるらしい。

時代に取り残されつつある、現在の自分の姿が投影されたのだろうか。


あるいは、これまでの努力が実を結び、新しい世界が見えてくるのだろうか。

登場人物についてはよく分からなかったが、洋市はこの夢を肯定的にとらえることにした。


電車を乗り継ぎ、住み慣れた部屋に戻ってシャワーを浴びると、洋市は眠気に耐えられずベッドへと転がり込んだ。

翌日、とんでもない事態が待ち受けていることも知らずに。


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