セーフティルーム
「すいませんね。ケージ、いいものをこちらが勝手に選んでしまって。」
まあ!私は彼を見上げているのに、彼は伏し目がちで私を見つめている、というシチェーションを作り上げていたじゃない。
私は彼に集中することにした。
いや、比賀江さんと可愛い茶々に、だ。
彼らに集中すればくだらない過去から逃げていられる!
「い、いいえ!茶々には幸せでいて欲しいもの!」
「ありがとうございます!モルモットは臆病だから、ちゃんとしたケージに入れてあげないと脅えちゃって不幸なんですよ。だから、少しでも広く、いいものをって俺は思ってしまいまして。」
「籠の中の方が安心、なのですか?」
「ええ。籠は牢獄じゃなくてですね、この子達には絶対的なセーフティールームと同じなんです。」
「まあ、じゃあ、籠に入れっぱなしの方が良いのかしら。」
「一日に二時間は籠から出して運動させてください。その時にスキンシップを取れば物凄く馴れますよ!部屋はウンチとおしっこで汚れますけど!」
ああ、もう!比賀江さんは一言多い!
それでも私は怒るどころか比賀江さんに笑っていた。
最初からそんな生き物だと知っていればって、なんて自分を曲げない人なのだろう。
それだけこの人は生き物の幸せを考えているのだ。
ハムスターで鳥かごサイズと考えていた私には、この出費よりも飼育スペース確保の方が問題だが、でも、このふわふわは温かいじゃないか。
失恋して心機一転で他県に出て来た私には、この小さな生き物がとっても手放せない温かさに感じて、茶々入りのキャリーをそっと撫でた。
「あ、ケージその他はこちらがご自宅に持って行きますからご心配なく!」
「まあ!それでしたら、この子はそれまでどこに住めばいいの?」
「段ボールでいいですよ。なければお菓子の箱でも。二十センチ程度の段差でも飛び越せないので平気です。ただ、お水がいつも飲めるようにしてあげなきゃなので、水ボトルは持って行ってください。ペットシーツを敷いて床材をそこに敷いて、そこにこの子をぽいっと置いてやればこの子は幸せです。水ボトルはガムテで段ボールにつけとけば一日二日はいけますね。」
「ねえ、それじゃあ、段ボールを使いまわせばケージ不要なんじゃないの?掃除の度に段ボールごと捨てればいいじゃないの。」
比賀江はアッと言う表情を一瞬見せたが、すぐに私に営業スマイルを向け、今晩にでも自分が届けますからと言った。
宅配じゃないの?配送費返せ!
「今晩ですか?」
「ええ、なずなさんがお嫌でなければ。」
「え、どうして名前を!」
ええ!こ、こんなにもよくしてくれるって事は、実は私の事を知っていた?
うそ、まるで漫画の世界だわ!
「……飼養承諾確認書のご署名から。すいません。気安くて。」
私は彼から顔を背けた。
何を期待しているのか。
私は親友に婚約者を寝取られた女じゃないの。