デメリットも受け入れて、それでこそ愛となる
彼は衣装ケースを静かに私の足元に置くと、この子は入荷したばかりなんだと優しく笑いながら衣装ケースの蓋を外した。
中にはミルクティー色のほわほわした毛玉が一個動いていた。
「毛玉だわ。動いている。ケサランパサランみたい。」
青年は毛玉をプラケースからそっと取り上げると、私にその子が見つめられるように差し出して来た。
ふわふわのミルクティー色の毛の中で、真っ黒でつぶらな瞳が私を見つめた。
「わあ、なんてかわいいの!」
「この子は草食です。生餌は不要ですよ。」
「まあ!何よりですね!」
私は心が沸き立つようだ。
草食のミルクティー色の小動物はウサギよりもつぶらな瞳をしていた。
ただし、ウサギの耳とウサギのポンポン足という兎の可愛らしさはなく、耳は殆ど無毛のブタのような立ち耳で、手足はネズミのものでしかない。
いやいや、それでもこの子は、ちょっと大型のハムスターみたいで可愛いじゃないか!
彼は私の膝の上にそっとその子を乗せた。
わあ、フクフクしている。
私はその子が膝から落ちないように抱えたが、その子こそ私の膝から落ちまいとしてか、小さな体を丸めて動くことを取りやめた。
「まあ!本当に可愛いわ。」
「ふふ。ただの可愛い毛玉じゃないですよ。うんこ製造機です。」
比賀江さんは比賀江さんだった。
ほんの数分しか素敵な男性でいられないなんて、彼こそ不幸な魔法が掛かっているのではないのだろうか。
「あ、あの。う、うんこ製造機って酷い事を言いますね。」
「だって、この子は食べるだけなの。世界中の緑をうんこにしてしまう勢いで緑を食べ続ける生き物なんですよ。満腹中枢なんて壊れている。あるだけ食べて、お腹壊して、ウンコを大量に積み上げて、そして、また喰い続ける。そんな生き物なんです。」
ウフフって感じで、彼はモルモットを褒めている口調でけなした。
「……あなた、生き物を売る気があるの、ですか?」
「え、生き物を買う時はさ、デメリットを一番考えて飼うものでしょう。可愛いだけじゃあね、デメリットを知った時に受け入れられないでしょう。」
私はそうだな、と考えた。
この人は意外とまともだったのかな、と。
私と元婚約者が駄目になったのは、お互いに良い所しか最初は見ようとしなかったからなのかしら。
こうなってみると、私はあの彼のどこに良い所を見出していたのか思い出せもしないが。