さあ、私のいとし子となれ
うんこ製造機と比賀江さんに揶揄われる生き物であっても、今自分の膝の上にいる生き物を連れて帰ろうと私は決意した。
可愛い上に草食で小型。
でも、ハムスターよりは大きくて抱き心地というものがある温かい生き物だ。
家族も友人も何もなくなった私の癒しになることだろう。
ただし、確かめないといけないこともある。
「あ、あの、この子も二年で死ぬの?」
比賀江さんは毛玉を抱いたままの私の顔をじっと見つめた。
そのじっと見つめられる視線が耐えられなくなった。
もしかして、彼は私を推し量っている?
彼はこの子に特別な愛情を向けていたじゃないか。
「あの」
「この子は二年で死にませんよ」
「よかった」
私のお腹の部分に身を寄せて、小鳥のような鳴き声を時々上げているこの可愛い生き物には、今の時点でさえ私の愛情が傾いているのだ。
2年で死んでしまったら、ペットロスになってしまうだろう。
婚約者に捨てられた女、モルモットの後を追って自殺。
みじめすぎる。
「二年で死なせないでほしい」
彼の声はとても静かで真剣だった。
「え?」
「この子は最低でも四年は生きれる生き物なのです。ええと、この子の正式名はテンジクネズミ。天竺にいる様な思いをさせて長生きをさせて欲しい。でね、テンジクネズミは南アメリカのアンデス山脈の人々に長きにわたって飼育されていた歴史のある生き物でもあるのですよ」
私は目の前の美青年を読み違えていた。
彼はろくでもない事を言ってはお客を審議し、この可愛い毛玉を手渡したいだけの人だった。
確かに、長生きをするふわふわの方が私は欲しい。
うんこばかりの大食漢なんて言われても、この小さな体で食べる量などたかが知れている、可愛いだけじゃないか。
「この子が欲しい、かな」
比嘉江さんは私の膝の上の薄茶色のふわふわの背中を指先でそっと撫ぜ、私を見上げるようにしてにっこりと微笑んだ。
私は私の目の前でしゃがんで私を見上げる比賀江さんに、ドキンとするどころじゃない!
彼の笑顔に世界がピンク色で花まで舞っているいるように感じるのだ!
こんな素敵な人に微笑まれるなんて! 今日はきっといい日なんだわ。
でも、彼は比賀江さんでしかない。
「良い選択です。いざという時には食べれますからね」
※テンジクネズミはアンデスでは重要なたんぱく源でした。
モルモットの英名はギニアピッグです。
「え?」
モルモットはぶるっと震えて、私の膝の上でしゃーとおしっこを漏らした。
「あ、すいません。モルモットって安心した場所でおしっこをたらし、不安な場所でもおしっこをたらす、壊れた汚水タンクでもあるんです」
「言い方!!」
「やっぱりやめますか?」
比嘉江さんは私の前に跪いて私を悪戯っぽい顔付きで見上げる。
彼は私の次のセリフを待っている。
「絶対にこの茶色のフワフワは連れ帰ります。生き物だもの。おしっこくらいするわ」
私は脱力しちゃった。
比嘉江さんがモルモットを私の膝から持ち上げた時、そこにいつの間にか小さなペットシーツも敷いてあったと気が付いたからじゃない。モルモットに頬ずりしながら私を見つめる比嘉江さんが、それはもう声を失うぐらいに可愛い素敵スマイルだったからだ。
「お買い上げ、ありがとうございます」
あ。




