愛の奴隷になりましょう
私は王子様みたいな店員を思わずうっとりと見つめてしまった。店員の胸の名札には、比嘉江とある。ヒガエさん?
そしてその比賀江さんは、こんなことはいつものことですという顔で、彼がカウンターに置いたばかりの箱の蓋を無造作に取った。
「うげ!」
ピンクな親指サイズの生き物の死体が、ずらっと二ダース整然と並んでいる!
「どうしました? お客様。とっても新鮮ですよ」
「いや、だって、これは何! これは何なの! 違う! 私が求めたのはこんなのじゃない!」
いやだって、マウスの赤ん坊の冷凍死体なのだ。
確かにピンクだが。
生きているフクフクな鼠を私は救出に来たのよ!
「あの、お客様?」
私の狼狽に一瞬だけ比賀江は不審な顔つきをしたが、彼はすぐに営業スマイルを取り戻した。
「ああ、お客様は本当の生餌をお求めでしたか。では、ハムスターを番で飼いますか? 次々と新鮮なピンクマウスが手に入りますよ」
私はうぷっと口を塞いでいた。
だから私はそんなものを求めてはいない。
ここは私が壮大な勘違いをしたのだと謝って、さっさとこの店を出よう。
て、比賀江さんはもう違う所に歩いて行っている。
そして、ああ、なんと、彼は大型の衣装ケースに手を突っ込んでいる。
衣装ケースには読むのも汚らわしい文字だ。
餌ハムスター1匹980円。
うぎゃあ!
「あの、違いますから。いいです! ああ、いらないです! 私にあなたが掴んだ生き物を見せないで!」
哀れなハムちゃんと目が合ったら、買わなきゃいけないじゃないの!
ほっとした事に、比賀江さんはハム入り衣装ケースを元通りにして、それから少々ぷくっと頬を膨らませた。
「お客様は自分をまだ捨てれませんね。いいですよ。初めて猛禽類や爬虫類を飼ってしまった方の最初に通る道です。可哀想だから、気持ち悪いから私には無理! この世は素晴らしいペレットが揃っている。それにしましょう! いーや、ナンセンス! 可哀想だ! ああ、君に飼われている大フクロウは可哀想だ! あなたに愛があるのならば! その子を愛しているならば! 自分が汚れ切ってでもその子の為に、もっと忠実に、愛の奴隷になってやるべきなのですよ!」
いや、大フクロウなんて飼ってないし。
大フクロウの奴隷になんかなりたくない。
私は外見だけ素敵だった比賀江さんから逃げようと考えた。
だが、店の外に出ようとしても、そういえば店の外に出るための通路には比賀江さんが障壁として立っていた。
比賀江さんは整った少年っぽい顔立ちに似合わず、いや、すごく似合っているというモデルみたいなスタイルに長身の人だ。
白いシャツにジーンズ、そして店のロゴがある黒のエプロン姿のくせに、おしゃれなカフェの店員にも見える程の格好良さなのだ。
そんな人が155センチ程度の私の目の前で仁王立ちしているのである。
イケすぎて眩しいけど、私を外に出して!!




