計画57
「ルリア君、だったかな?」
「は、はい!」
突然話を振られて驚く。
「君の話を聞かせてもらっても?」
嘘をつける様子ではないので正直に答える。
「えっと、僕・・・私ではなく、話せるのはヒムロなんです。」
視線がヒムロに集まる。
「先程、マリネ様に軽くお話しした内容と重複しますが、もう一度話します。」
ヒムロはマリネに話したように、ルーティンの誕生会で小耳にはさんだことを話す。
ピロシキ王国で暗殺があったこと。
貴族の間で、白ワインが使われどこのワインか話し合いになっていること。
ヒムロの話は驚くほど鮮明で、今見聞きしたような気さえするほどである。
本人をチラッと見ても、嘘を言っているような感じはない。
むしろ堂々と話していて、凛々しいと思わせるほどである。
「以上が、私が小耳にはさんだお話です。」
ヒムロが話し終わると、すぐさまリリスがマクスに耳打ちする。
頷いて、ロイゼンに目で答える。
「ふむ。確認するようで申し訳ないが、誰がその話をしていたのかな?」
「わかりません。私はメイドに過ぎません。自国の貴族についてもあまり知らない程度の知識ですので、他国となると、全く分かりません。」
「そうか。」
「ですが。」
「ん?何だね?」
ヒムロの話が終わらなかったことに少しだけ驚く。
ルリアが不安そうにヒムロを見ると、安心させるようにニコっと笑う。
「話している方のお名前は聞き取れませんでしたが、話を聞いている方のお名前は聞きました。」
「誰かね?」
近衛兵長の雰囲気が少しだけ険しいものになる。
その雰囲気に怖がらずにヒムロは続ける。
「確か・・・カイネン殿、と呼ばれていたと思います。」
予想していない名前を聞き、ロイゼンたちは驚く。
喉を鳴らし、確認するように聞く。
「確かに、カイネン殿で、間違いないのかな?」
「間違いないと思います。話している方は何度も“カイネン殿”とおっしゃっていましたから。」
「カイネン殿は何と?」
「ずっと“知らない”としかおっしゃっていませんでした。」
それを聞き、少しだけホッとする。
「陛下、すぐさま確認させますか?」
「よい。カイネンは知らぬ仲ではない。今度、丁重に城に呼び、話をすればよい。」
「了解しました陛下。」
近衛兵長は頭を下げる。
「話を聞かせて頂き、感謝するよヒムロ君。」
ロイゼンは軽く頭を下げる。
ヒムロは目を見開く。
他国の、それも国王自らが頭を下げるとは思わなかった。
それも、身分が圧倒的に低い自分に対してだ。
驚きを隠せるわけがない。
答えることができないでいると、すぐにルリアが答える。
「ご丁寧にヒムロに感謝の言葉を頂き、ありがとうございます。ヒムロも協力出来たこと、嬉しく思っています。」
ルリアが“ね?”と言うと、流れるように頭を下げ、“ありがとうございます。”と答えられる。
こういう時のルリア程、側にいて嬉しいことはない。
ルリアは基本的に相手に恐怖を覚えない。
動揺や困惑しても瞬時に切り替え、対応する。
当たり前のように。
“我が主ながら末恐ろしい”とさえ思う。
「以上で、話は終わりでいいのかな?エンラ君は何か話したいことでも?」
ロイゼンがエンラに投げかけると、優雅に立ち上がり頭を下げる。
「皆様には感謝の念に堪えません。我が国の問題にもかかわらず、ここまで真剣にお考えいただいたこと、亡き兄に代わり感謝します。」
ニコっと笑い、座る。
それ以上エンラは何も言わない。
話をお開きにしようと思うが、誰からもそういうことを言えない。
どうしても気になることがあるからだ。
どう、声を掛けようか考えていると、リリスが話しかける。
「エンラ様。」
「何かしら?」
「申し訳ありません。お答えできないのであるならば無理なさらなくても良いのですが、後ろの騎士様の体調は大丈夫でしょうか?」
エンラがチラッと見ると、青ざめた顔が目に入る。
エンラは一瞬だけ冷たい視線を送る。
それに気づくと、ますます顔が青ざめる。
「本当に大丈夫ですか?」
心配してもう一度聞くが、騎士は答えない。
口をパクパクするだけである。
「何か、答えたらどうかしら?」
エンラが優しく言うと、想像以上の恐怖だったのか立ったまま気を失う。
全員が見ている前で泡を吹き始め、慌てだす。
「大丈夫!?」
「すぐさま横にしなければ!?」
「セバス!」
「すぐに!」
セバスが急いで騎士を担ぎ、部屋から運び出す。
リリスが近くを通たメイドに指示を出し、後を任せる。
一時の騒然とした雰囲気は無くなる。
「大変申し訳ございませんわ。家の騎士がご迷惑を。」
静かになるのを待ってエンラは謝罪する。
「気にすることはない。彼には申し訳ないことをしたかな?」
「いいえ。おそらくショックが大きかったのでしょう。彼は亡くなった兄の騎士でしたから。」
ロイゼンは少しだけ反応するが、エンラは気にしない。
「うむ。この辺で話をお開きにしよう。エンラ殿、彼は体調が戻り次第、責任をもってお返しするよ。」
「ありがとうございますわマクス様。私はしばらくこの町を観光しますので彼には安静にするようにお伝えください。それでは皆さん。」
エンラは先程と変わらず優雅に立つ。
「この辺で失礼しますわ。ごきげんよう。」
エンラが扉を開けると、ラムザがすぐさま追いかける。
「お供します。」
「あら?ありがとう。」
エンラの退出を皮切りにキリエとルリアも部屋を後にした。




