計画56
マリネはノックをし、部屋からの応答を待って中に入る。
中に入ると、マクスとセバス以外にロイゼンと近衛兵長、そしてリリスが座っている。
マリネは頭を下げてから横によける。
マリネの横を通り、中に入ってから軽く頭を下げる。
「キリエ・ブラン・ブリオッシュです。お話の場をご用意頂き、ありがとうございます。」
先程までの無口な態度と違い、スラスラと話す。
まるでスイッチが入ったように。
後ろでハグロも頭を下げる。
「る、ルリア・クルール・ブレッチェルです!よろしくお願いします!」
「エンラ・ホーム・ピロシキですわ。貴重なお時間を頂き、ありがとう存じます。」
ルリアは慌てたように、エンラは優雅に頭を下げる。
「うむ。ロイゼン・ブール・パニーニである。よく来てくれた。さぁさぁ!そんなところに立っていないで、こちらに来て座りなさい。」
言われて3人の姫は進められた席に座る。
「こちらに座っているのが、この地の領主、マクスだ。」
「マクス・リア・マカベルグです。ようこそ遠路はるばるお越しくださいました。」
丁寧に頭を下げる。
「マクスの妻、リリスです。」
リリスは軽く頭を下げる。
「後ろにいるのが、この家のセバスと、私の近衛兵の兵長だ。」
2人は深々と頭を下げる。
「早速で悪いが、話が聞きたい。詳しく話してくれ。」
先程までの朗らかな雰囲気から一気に固い雰囲気になる。
笑顔が消え、全員の視線がキリエに集まる。
「爺や、お願いします。」
「畏まりましたお嬢様。」
後ろに立っていたハグロがキリエの横に来る。
「僭越ながら私の方からお話をさせて頂きたいと思います。ご許可をお願いいたします。」
ゆっくりと頭を下げる。
「うむ。許可しよう。」
「ありがとうございます。では、話をさせて頂きます。」
深呼吸してから話し出す。
「皆様はピロシキ王国において、暗殺事件が起こったことをご存知でしょうか?」
「うむ。知っておる。」
ロイゼンが代表して答える。
「その暗殺事件に使われたのが、白ワインであることを我が国の諜報員が調べ上げました。」
ロイゼンは無言で見つめる。
「白ワインを製造している場所は大小様々ですが、上質の、特に王族が口にするような白ワインは2国でしか作られていません。この国、パニーニ王国と我が国ブリオッシュ王国です。」
そこまでは知っているかのようにゆっくりとロイゼンは頷く。
「この話を耳にしたお嬢様は独自に調査を始めました。」
そうなのかと聞くようにロイゼンはキリエを見る。
目を閉じ頷いて言う。
「我が国では、ピロシキ王国の暗殺に協力した者がいるのではないかという話が会議で起こっています。互いに疑いあい、不和の雰囲気を感じ取ることができるほどです。」
困ったようにため息を吐く。
「だから私が調べることにしたのです。調べさえすれば簡単にわかりますから。」
「ふむ。どうやって調べるのだね?参考までに教えてくれないか。」
「ワインは成分によって様々です。同じように見えて、成分は全く違います。だからワイン1つ1つを科学的に検査しています。」
「その話では、暗殺に使われたワインの成分がわからないと調べようがないと思うが?」
「暗殺に使われたワインは既に入手済みです。」
「なんと!?」
ロイゼンは少し大きな声を出す。
それが少し気になったが、無視して話を進める。
「ですので、暗殺に使われた成分は把握しています。それに近い成分をもつワインを製造しているところが怪しい、というわけです。」
「ふ~む、なるほどな。それで?これまでの調査で何が分かったのかな?」
キリエは目でハグロに促す。
「先程、調査結果がでました。それによると、我が国ブリオッシュ王国のワインとは成分が違うということがわかりました。」
近衛兵長がぴくっと反応する。
しかし、ロイゼンには余り驚いた様子が無い。
まるで知っているかのように。
「そういうことらしい。我が国のワインではないことが分かった以上、暗殺に使われたのはパニーニ王国の白ワインと言う可能性が高いです。ワインを調べさせて頂ければ早急にどこのワインかわかるでしょう。」
「ふむ確かに。君の言う通りなら調べがつくであろうな。」
「ご理解いただけたのなら協力をお願いします。」
キリエが頭を下げようとして、ロイゼンに手で止められる。
「それについてはこちらで調査済みだ。最も、君のやり方とは違い古典的なやり方だがね。」
チラッとリリスを見ると、ニコっと笑う。
「どういう、ことでしょうか?」
「要するにパニーニ王国でも調べがついたということでしょう?」
エンラが答える。
「皆様には我が国の問題にもかかわらず、色々ご尽力して頂き感謝しますわ。ロイゼン陛下、調査の結果をお聞きしても?」
「うむ。」
ロイゼンが顎で促す。
近衛兵長は頭を下げて報告する。
「我が国のワインでもありません。」
「うそ・・・。」
思わず口から出る。
キリエに向き直り、もう一度言う。
「調べましたが我が国のワインではありません。先程の表現で言うところの“大”の方しか調べていませんがね。」
キリエが頭を悩ませる横で、エンラは知っていたかのように静かに笑った。




