計画54
「私は使用人でありますが、姫様のご命令で一時お側を離れました。」
思い出すように目を閉じる。
「その際、時間を潰す趣味のようなものの無い私は、この国について探りを入れていました。」
“探り”という言葉に少しだけマリネが反応する。
他の者は見落としているかもしれないが、ラムザとヒムロは見落とさない。
ラムザも一応、昨日のことを思い出しながら聞く。
「たいして有益な情報は得られませんでしたが、1つだけ、聞き捨てならぬことを聞きました。」
ヒムロはエンラの方を見る。
「ここで、言うことは正しくない行いだとは思いますが、確認の意味も込めて話します。ピロシキ王国で、暗殺事件が起こった、そうですよね?」
エンラ以外の姫は驚く。
ヒムロは内心で、“演技でもいいから驚かないでよ姫様”と思う。
「どうなんですか?エンラ様。」
後ろに立っている騎士の喉が鳴る。
それが答えでも言うように。
エンラは諦めたようにため息を吐く。
「・・・ええ。お兄様が暗殺されたわ。」
認めたことで姫以外の使用人たちも驚く。
「お嬢様!?」
騎士の悲鳴のような声に、エンラは優しく微笑んで黙らせる。
騎士は青ざめた表情で口を閉ざす。
その行動をラムザは危険と判断し、一歩マリネに近づく。
「怖がらないでください。私は別にここに来た理由がそれではありませんから。」
エンラの崩れない態度に、ヒムロは追い打ちをしようとして声に阻まれる。
「それで?それがルリア様が朝早くにルーティンに会いに来た理由になるの?」
驚いて声のする方を向くと、表情の崩れていないマリネと目が合う。
まるで関係ない話で話を逸らすなと言わんばかりに見てくる。
ヒムロは続く言葉を変える。
「失礼しました。そのことを話しているこの国の者を見たので、ルーティン様に知らせようと思いました。」
「なぜルーティンに?それもルリア様が直々に?」
「姫様はこの国の人間ではありません。姫様の言葉をしっかりと聞いてくれる保証はありません。ですが、ルーティン様は姫様の言葉をしっかりと聞いてくれると判断した次第でございます。」
「ルリア様は王族よね?王族の言葉を無下にはしないと思うけど?」
「その通りではございますが、本気にして頂けるかどうかで言えば否と答えます。王族であったとしても、子どもの、それも他国の人間である姫様の言葉を、聞きはしても本気にはしないのではないですか?」
「・・・一理あるわね。」
マリネは口に指をあて、思案する。
心の中でヒムロはガッツポーズする。
何とか誤魔化せたことを喜んで。
視線を動かすと、背中で隠してルリアが親指を立てている。
それを見て、安堵する。
「では、なぜその旨を伝えないのかしら?」
「え?」
何を言われたか理解できず、間抜けな声が出る。
「だったら用件を“ルーティンに会いたい”ではなく“ルーティンに話すことがある”のほうが良くないかしら?それも朝早くから来るほどの急ぎであるならなおさら、急ぎの用でみたいに。違うかしら?」
背中を冷たいものが流れる。
勝てたと思っていたら急に逆転された思いである。
反論する言葉の用意もなく、声が出ない。
「どうしたの?何か、私は間違っているかしら?」
目を合わせられない。
失敗から来る恐怖を、肌に感じる。
「どう、かしら?」
「そ、それは・・・。」
続く言葉は出てこない。
目を閉じようとした時、声が前から聞こえてくる。
「それについては僕から謝罪します。ごめんなさい。」
ルリアの透き通るような声が聞こえる。
目を開けると、余裕たっぷりのいつもの姿が目に入る。
「いつ、どこで、だれが聞いているかわからない現状だったので、用心に、用心を重ねた結果です。それが今回、悪い方向に動いてしまいました。本当にごめんなさい。」
ルリアが立ち上がり、頭を下げる。
「そう。用心、ね。」
声からは信用していない感じがひしひしと伝わってくる。
もう一度謝罪の言葉を発しようとする前にマリネの声が届く。
「ありがとうございますルリア様。お話ししてくださって。」
軽く頭を下げられる。
ルリアの心の中で花畑が広がる。
「詳しいお話を、後で父にも話して頂けますか?」
花畑に嵐が起こるが、表情を崩さない。
「わかりました。お時間を頂ければ、お話しします。」
「重ね重ねありがとうございます。」
ルリアはわからないように息を吐く。
その意味をくみ取り、ヒムロは頭の中で記憶を掘り起こし始める。
「それでお2人はどうなのでしょうか?」
話を振られて後ろの2人はビクッとするが、2人の姫に動揺はない。
「ちょっとしたことです。」
先に口を開いたのはエンラである。
「どういったご用件でしょうか?」
「ワインを見せて頂ければいいなぁ、と。」
「ワイン?」
騎士の心臓が跳ね上がる。
だが、エンラの表情は崩れていない。
「お兄様はワインを飲んで、この世を去ったと聞きました。優しいお兄様でしたので、私にできることをしようと思ったのです。恥ずかしい話ですが、我が国は継承権争いの末の暗殺と判断する方向で動いていますので。」
「お嬢様!!?」
それ以上は言ってほしくないように叫ぶ。
それを無視して続ける。
「ルーティン様にお願いして。見せて頂ければいいなぁと、思った程度です。」
「どうしてルーティンに?」
「面識があたのがルーティン様だったからです。でも、本当は・・・。」
ごそごそと胸元から何かを取り出す。
それを見て、マリネの表情が少しだけ反応する。
「それは・・・。」
エンラの持っている物には“ルーを愛でる会”と書かれていた。




