計画53
誰も口を開かない静寂な空間が目の前に広がる。
先程まで威圧を放っていたルリアは目を逸らし、何かしらのいい訳を考えているように見える。
「どうしたの?お話があってここに来たのではないの?」
優しい声が部屋の中に響く。
笑みを浮かべて会話を試みているが、ミリアにはわかる。
マリネが怒っていることが。
「誰も話してくれないの?それは・・・とても悲しいわ。」
“絶対に嘘だ!”と言えるほど、背中から圧を感じる。
普段怒らない彼女が怒るとき、それは大概、逆鱗に触れた時と決まっている。
ミリアは別の意味で緊張する。
「仕方がないわね。ミリア。」
「は、はい!」
見られているわけではないのに、背筋が伸びる。
「皆様のご用件を代わりに話して頂ける?」
「か、かしこま・・・。」
「あ、あの!」
ミリアの声にかぶせるようにネフェルが声をあげる。
「あら?確かあなたは・・・。」
「お初にお目にかかります。ザルツシュタンゲン王国国王ヘルツ・グリン・ザルツシュタンゲンの娘、ネフェル・グリン・ザルツシュタンゲンと申します。」
丁寧にお辞儀をして、前を向く。
「この度の突然の訪問、申し訳ありません。事情が事情でしたので、先にお話をすることを忘れてしまいました。本当に申し訳ありません。」
先程よりも深々と頭を下げる。
「どういうご用件かしら?」
「はい、私は昨日、ルーティン様とお話をさせて頂きました。」
3人の姫の目が動く。
「とても楽しくお話をさせて頂きました。それは時間を忘れるほどです。」
「それはありがとうございます。ルーティンもそう言って頂けると嬉しいと思います。」
「そう言って頂けて私も嬉しいです。ですが、帰る際に忘れ物をしてしまったことを思い出したんです。」
「忘れ物?」
「はい。お話に夢中になりすぎて、忘れてしまったんだと思います。」
「何を、忘れたのかしら?」
「姉からもらったペンダントです。とても大切なもので、ルーティン様にも見て頂いたのです。その時に忘れてしまったのではと思います。」
“そうなの?”とミリアを見る。
ミリアは頷いた後、補足をする。
「そういうご用件でしたので、今、他の者に探してもらっています。」
「そう。それでしたらこちらの責任です。こちらこそ、申し訳ありませんネフェル様。人手を足して、早く見つかるように尽力しますわ。」
目でラムザに命令する。
無言で頷き、部屋を出て行く。
「よろしくお願いしますわ。あの、できればルーシュにも捜索の許可を頂けますか?」
ルーシュは頭を下げる。
「よろしいのですか?」
「はい。元はと言えば私の不注意ですから。お願いできる?ルーシュ。」
「はい!姫様!」
「では、私の方からもお願いしますわ。」
マリネも軽く頭を下げる。
ルーシュは深々と頭を下げ、扉に向かう。
出て行く際、ミリアが聞こえるぐらいの声で“勇気が無くてすみません”と言って出て行った。
「さて、ネフェル様には待っていただくしかないとして。他の皆さまはどのようなご用件でしょうか?」
3人の姫は何も答えない。
先程まで治まっていたマリネの圧が徐々に復活する。
そのタイミングで、ラムザが戻ってくる。
「お嬢様、使用人の数を増やしました。それから、皆様にお茶を。」
「ありがとうラムザ。私も貰えるかしら?」
「もちろんです。」
ラムザはお茶をカップに入れて、1人1人に配る。
その際にネフェルの表情を見て、1つ片付いたことを確認する。
マリネはお茶を一口飲み、ミリアを見る。
「ミリア、お話を聞かせて頂ける?」
「はい!」
ミリアはポケットに入れておいたメモを取り出す。
「え、えっと。ルリア様は、朝早くからお越しいただき、ルーティン様にお会いしたいということです。」
「へ~。それは事前に約束でもあったのかしら?」
「確認しましたが、ありません。」
ルリアの表情がだんだんと曇っていく。
「約束無しで、朝早くからルーティンに会いたい、と?」
「は、はい。」
マリネの圧がさらに強くなり、悲鳴を上げそうになるのをミリアは堪える。
「ルリア様は、どのようなご用件で、朝早くに、いらしたのでしょうか?」
強調するように言われ、ルリアの額から汗が流れ始める。
チラッと後ろを見るが、素知らぬ顔で時計を見ている。
「どうかされましたか?何か、言えない理由でも?」
「い、いや!そ、そういう訳ではないんだけど・・・。」
鼓動が速くなるのがわかる。
これほどの恐怖は久々で、忘れていた感覚である。
ルリアは自分に言い聞かせ、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。
しかし、言い訳は何も浮かばない。
どうすればいいか答えを見いだせず、謝罪の言葉を言おうとした時、後ろから軽いため息が聞こえる。
「失礼を承知で、発言の許可を頂けますか?」
「あなたは?」
一礼をし、真っすぐに視線を合わせる。
「私は、ルリア様の専属メイド、ヒムロ・スツルムと申します。訳があり、姫様はこの場でお話しすることができないのです。」
「それは、どういうことでしょうか?」
「昨日、行われたルーティン様のお誕生日会でのことです。」
ルリアはヒムロの言葉に全てを賭ける覚悟を決めた。




