計画100
「ほらよ坊ちゃん。」
投げられた木剣を受け取り、軽く振って感触を試す。
(うん!いい感じだ。)
「そんじゃあどこからでも打ってきな坊ちゃん。」
一定の距離を取り、剣の稽古が始まる。
ルーティンはいつものように打ち込もうとして、足が動かない。
(ッ!?なんだこれ!?どこに打てばいいんんだよ!?)
剣を肩に置き、どこからでも打てるようにキャタは構えてすらいないのに打ち込めない。
それはキャタから発せられる威圧だけでルーティンが動けずにいるのだ。
それを理解できていないエンラは首を傾げるだけである。
「どうしたんだい坊ちゃん?自由に打って来な。」
「え?あ、う、うん。」
(とは言われてもどう打ち込めばいいんだよ!?なんだこれ!?ヴェルグとは比較にならないじゃないか!)
「へへっ。やっぱりな。」
そう言うとキャタは軽く構える。
その瞬間威圧が消え、どこからでも打ち込めるようになる。
「い、今のは何ですか!」
「坊ちゃんの稽古を請け負っていた奴はものすげぇ優しいんだよ。坊っちゃんが打ち込みやすいように自分の力を感じさせず、坊っちゃんのやりやすいように全身隙だらけにしてたんだよ。アタシはわりぃけどよ、坊ちゃんを試すように力を見せつけてやったんだ。」
(な、なるほど。ヴェルグは僕を気遣っていたという訳か。)
「つまりこれが『力の差』って奴だよ。だが今は違うだろ?打ち込みやすいだろ坊ちゃん。」
「うん。」
「まぁ大人げなかったのは詫びるぜ。だが、実力は知っていた方がいい。」
「ありがとうキャタさん。僕はまだまだだってわかったよ。」
「へへっ。普通は怒るところだぜ坊ちゃん。」
「怒らないよ。キャタさんは僕に稽古をつけてくれたんだから。」
笑うルーティンを見て、一瞬だけキョトンとし、そして豪快に笑う。
「アッハッハッハ!いい面構えだよ坊ちゃん。そんじゃここから普通に稽古見てやるよ。」
「よろしくお願いします!」
それから数時間、木の当たる音が辺りに響く。
それと同時にキャタの叱咤激励を受けて、ルーティンの剣の稽古は夕方に終わった。
「ふぅ~。」
「お疲れ坊ちゃん。いい動きだったぜ。どうやら坊ちゃんの先生はいい筋をしているようだ。」
「あ、ありがとう、ございます、はぁはぁキャタさん。」
「いいてことよ。んじゃアタシが片付けをやるから少しだけ待ってろよ。」
キャタさんはルーティンから木剣を取り、歩いていく。
「す、すごかったですわ!ルー!」
「ありがとうエンラ。」
「その!あの!何て言うか!その!とにかくすごかったですわ!」
興奮して、言いたいことが上手く言えないらしい。
「でも、まだまだだな僕は。キャタさんの足元にすらいないよ。」
「そんなことありませんわ!ルーなら必ずもっと強くなりますわ!」
「ありがとう。」
「でも、どうしてルーは剣の稽古を?あの、正直護衛に守って頂ければいいんじゃありませんの?」
「確かにね。けれど、必ず護衛が守ってくれるわけじゃない。護衛の隙を狙って襲われることだってあるはずだ。そんな時に僕自身が戦えれば時間を稼げるでしょ?」
「な、なるほどですわ!」
「その為にも毎日特訓したいんだけどね。」
「いい心構えだぜ坊ちゃん。」
エンラと話していると、キャタが片づけを終え、戻ってくる。
「そんな坊ちゃんにアドバイスだ。坊っちゃんはおそらく剣を握った稽古しかしたことないだろ?」
「え?どうして?」
「剣の腕をみりゃあわかる。素直で真っすぐな剣だ。お手本通りのな。だがそれじゃあ成長は途中で止まる。アタシが言っている意味は分かるよな?」
「うん。何となくだけど、今日のキャタさんとの特訓で分かったよ。」
「いいね~。じゃあアドバイスをやるよ坊ちゃん。坊っちゃんには想像が必要だ。」
「想像?イメージトレーニングってこと?」
「ああ。そういうことだ。何でもいいんだよ。騎士の訓練を見ながら自分に置き換えてもいいし、自分の中の仮想強敵を作って頭の中で戦ってもな。そういうところから何かしらの自分の成長につながんのよ。」
「考えてもみなかったなぁ。そうか・・・イメージか。」
「そういうことだ。これなら剣を握る必要もない。時間も取られない。好きな時に想像すりゃあいいんだよ坊ちゃん。」
「わかった!僕、やってみるよ。」
「へへっ。いいね~坊ちゃんは素直で。アタシはそういう姿勢は大好きだぜ。」
「ありがとう。」
「そんじゃ、暗くなる前に部屋に戻るぞ。それから坊ちゃんは夕飯前に風呂だな。」
「は~い。」
キャタに守られながらエンラと部屋に戻る途中、フィーラたちとすれ違う。
その瞬間、匂いを嗅ぎつけたミュートに即効捕まり風呂場に連れて行かれる。
後ろの方で何か文句を言うエンラの声と宥めるようなリュートの声が聞こえたような気がするが、ミュートの速さに声が届かなかった。




