37、残
のぞみは、名古屋に停車した。
今日は金曜日ということもあり、窓の外を見ると乗車率は高いようだ。
まあ、俺達はグリーン車だから、他の車両よりは席が空いているだろうが。
「げっ・・・。」
「・・・・・・。」
そこへ、会いたくない奴が乗車してきた。
俺の顔を見るなり変な擬音を発し、顔を歪めた。
俺は、無言で睨みつける。
その気配で、無心で俺がむいた甘栗を食っていた綾乃が、顔をあげた。
「あ、志摩さん。こんにちは。」
生意気な毒舌女に、寛大な綾乃は丁寧に頭を下げた。
まあ、志摩も綾乃にはあれ以来丁寧な応対はするが。
「こんにちは、綾乃さん。」
俺には、挨拶なしだ。
まあ、関係ねぇからいいけどよ。
と、鼻を鳴らしたら。
「あっ、紺野さん!おはようございます!お疲れ様です!」
周りに人がいるのに、空気を読まねぇバカでかい声をだす男。
志摩のマネージャーの船津穂積だ。
名字のとおり、船津社長の一族で、船津五郎と社長の姉の息子らしい。
大学在学中からバイトをしていて、卒業とともに正社員になった。
確か3年目になる。
真面目で、社長の甥なのに腰が低く、案外根性がある。
「ちょっと、そんな大きな声出したら、ほかのお客さんに迷惑でしょ!?何考えてるのっ!?」
毒舌志摩に案の定、ぴしゃりと注意をされた。
志摩は、この通り毒舌で辛辣なのでマネージャーが定着しなかった。
で、しかたがなく新卒の穂積をつけたが、案の定気に入るわけはなく。
毒舌の毎日。
だけど、どんなに酷い言い方をされても、穂積は音をあげることはなく志摩のマネージャーを3年続けている。
穂積がデカい声を出したおかげで、周りの乗客が志摩アイナと気付き始め・・・しまいには名まえを出されたせいか俺まで気づかれた・・・。
仕方が無いので、検札に来た車掌にことわって席を前後にまとめ、俺らの前に志摩達が座ったが、突然。
志摩が鬱陶しい事を言い出した。
「ねぇ、私達の席回転させていい?」
下車する駅が同じ神戸だというが、これ以上絡まれるのは勘弁だ。
珍しく綾乃も、少し嫌そうだ。
綾乃はオン状態の時は、あまり人に対して拒絶の態度はみせないのだが。
だけど、相手が志摩だからか。
「あ?意味わかんねぇよ。俺らプライベートなんだよ。絡んでくるなよ。」
拒否。
「えー、何。相変わらず、俺様紺野は綾乃さんにメロメロなわけー?」
志摩のからかい口調にイラッとくる。
だけど、面倒なので、スルーした。
「ねー。」
無視。
「ねー。」
知らん。
「ねー、ってば。」
「ああっ、うるせぇなっ。おいっ、穂積っ、お前なんとかしろっ。」
腹が立って、後ろから穂積の頭をはたいた。
その途端、綾乃に。
「丈治、暴力はいけません。」
ぴしゃりと注意された。
ノリオを叩く時は、こんなことは言わねぇのに・・・つまりは、ノリオと穂積は違うって言いてぇのか。
「わー、さすがの俺様紺野も、綾乃さんに怒られたらシュンとするんだー。」
こいつ・・・いちいち、腹が立つ・・・。
うるせぇっ、って怒鳴ろうとしたが、その前に綾乃が口を開いた。
「志摩さん、席を回転する理由はありますか?多分丈治は不機嫌だと思いますが。」
あくまで冷静な口調だ。
だけど。
「あー、いいの。不機嫌俺様紺野は、スルーするから。それより、私綾乃さんに色々聞きたい事があるの。これから関西の番組の、温泉ロケなんだけど、同行するその番組の司会者が女性で子供がいるのよねー。それで、結構フリートークの時間が長くて。となると、私去年結婚して子供産んだばっかりだから、何か子供の話をふられそうで。うち、ほとんど主人が子育てしてるから私、よくわからないのよねー。そこらへん、子供の話を聞きたくて・・・。ダメ?」
どうやら、真面目に仕事の話らしい。
となると、綾乃も断りづらいよな・・・。
綾乃は少し考えてから、志摩に尋ねた。
「その、司会者の方のお子さんって、女の子ですか?男の子ですか?それから、何歳くらいでしょうか?」
綾乃の言葉を聞いた途端、穂積が焦り出した。
それを見て、志摩がため息をついた。
「ほんとっ、使えない!いい加減マネージャー変えるか、もう一人増やしてくれないかなー。」
穂積は志摩の辛辣な言葉に、すみません、と頭をさげた。
綾乃は、仕事用で持ってきていたパソコンを取り出し、穂積に事務所へ連絡してその司会者の情報をメールしてもらうよう、アドバイスした。
「事務所のアドレスは登録されていますし、私のアドレスは事務所へは連絡済ですから、スムーズだと思います。」
やっぱ、企業の役員だけあってこういう事は、さすがテキパキとしている。
それを見て、志摩がまたため息をついた。
そして。
「はあ・・・綾乃さん、今の会社辞めて、私のマネージャーにならない?」
そんな、バカげたことを言ってきた。
綾乃はクスリと笑うと。
「すみません、私は今の仕事が好きなのです。それに、穂積さんほど、私は大人ではありませんから。マネージャーには向いていません。」
きっぱりと断った。
でも・・・穂積が大人って発言が、どうも納得いかねぇけど。
志摩も怪訝な顔をしている。
「何で、穂積が大人なのよ。」
その質問には、綾乃は答えず。
「穂積さんが、今司会の方のプロフィールを調べて下さっています。30分くらいしたらお話を伺いますので、それまではこのままでお願いします。」
と、きっぱりと自分の意思を伝えた。
よし!
よく言った!!
やっぱ、綾乃も俺と2人がいいんだよな・・・。
まあ、とりあえず30分は2人だ。
綾乃の提案が明確だったせいか、志摩は納得して前を向いた。
そして・・・俺は、綾乃を見た。
すると・・・綾乃も、俺を見た。
そして、にっこりほほ笑んでいる。
そ、
そうだよなっ。
やっぱ、俺の事好きなんだよな?
「とりあえず、30分は2人だぞ?」
耳元で囁いてみた。
だ、だけど。
電車の中だしなぁ。
とりあえず、俺が上着を脱いで綾乃の膝にかけるか?
ちょっと、上着の下でいたずらもありか・・・?
ひとり、妄想が膨らむ。
と、その時。
綾乃が俺の手を握った。
そして、その俺の手を綾乃の方へ持って行き・・・。
「・・・・・・・。」
俺に、甘栗の袋を持たせた。
「甘栗、まだ半分残っているんです。まだ、30分ありますから、大丈夫ですよねっ!?全部むく時間ありますよねっ!?」
おい。
おい。
おいっ!
それで、30分かよっ!?
結局、俺より甘栗か!?




