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沈黙の宇宙と忘れられた海  作者: 霧島真宙


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第1話 静かな始まり

宇宙へ行くことが、特別なことではなくなった時代。

人類は太陽系の各地に生活圏を築き、地球と宇宙は、それぞれの場所で静かに暮らしていた。

宇宙開発は、もはや夢ではない。

そこには工場があり、採掘施設があり、そして、そこで働く人間がいる。

これは、そんな時代の片隅にある、小さな作業拠点の物語です。

六十年間、一度も動かなかった「船」。

そこに暮らす人々のもとへ、ある日、地球から一人の女性がやってきます。

彼女が何を見に来たのか。

そして、誰も気に留めなかった古い坑道が、何を意味するのか。

よろしければ、しばらくお付き合いください。

地球と宇宙の関係が、かつてのように劇的だった時代は、もう終わっていた。

軌道発電網と核融合炉の普及によってエネルギー問題は解決し、温暖化も長い時間をかけて抑制されていった。


地球の人口は爆発するどころか、争いも減り、静かに半減へ向かっている。

それを「衰退」と呼ぶ者もいる。

だが、破滅というほどのものではない。ただ成熟した社会が、静かに落ち着いていくような変化だった。


人類は対立ではなく、緩やかな分岐を選んだ。

地球は地球のまま。

宇宙は宇宙で、自給自足の生活圏を築きつつある。


アステロイドベルトに点在する作業拠点も、そのひとつだった。

ここでは、ほとんどすべての作業を無人機が行う。

坑道の掘削、資源の回収、危険な粉塵域の調査――人間が直接立ち入る必要は、ほとんどない。


俺が今暮らしている外惑星作業船〈アステリオン〉も、そのひとつだ。

建造から六十年。

俺が生まれる前から、この船は一度も動いていない。


そして「船」と呼ばれてはいるが、実際には小惑星に固定された巨大な工場だ。

俺がここに派遣されてから四年間、窓の外の景色は一度も変わったことがない。


俺たち人間の仕事は、無人機の点検と補修、それに異常が発生したときの対応くらいだ。

だから、この生活はとてつもなく静かで、単調で、そのわりには収入が高い。


表向きは、安心できる仕事だった。

もっとも、油断すれば命を落とす。

実際、ここで命を落とした奴もいる。もちろん知った人も。


同じ暗い景色ばかりを見続けていると、ふとした瞬間に気が狂いそうになることだってある。

この仕事には、二年働けば六か月の休暇が与えられる制度がある。

だが、休暇に出た連中の半分以上は戻ってこない。


どこかの拠点へ移ったり、別の仕事に流れたり。

あるいは、ただ離れてみたら、もう戻る気が失せたのかもしれない。


きっと、まともな奴は六か月の休暇程度じゃ回復しないんだろう。

まあ、俺もいつかは出ていくつもりだが。


そんな俺たちのところへ、二日前、本社の監査官が高速船でやってきたらしい。

定期監査なんて、もう何年もシステムまかせだったはずだ。


それなのに、わざわざ人間を寄こすとは、本社も何を考えているのだろうか。

こんな偏狭な地までやってくるとは・・・ご苦労なことだ。


地球出身の女性らしいが、俺には関係のない話だと思っていた。

どうせ管理区画で書類を眺めて、それで終わりだろう、と。


ところが、今回の査察には、いつもの定期監査とは別の目的があった。

通常ルートが崩壊した場合、旧坑道を脱出ルートとして使用できるか。

そして、昔中止した、資源調査が実施できるかどうかの確認。


それを実際に見てみるらしい。

専門家の基準では、正規ルートだけを前提にした場合、「作業者が高リスク」と判定されるそうだ。


もっとも、あそこで人間が作業することなんて滅多にない。

現場を知らない人間は、こういうところだけは几帳面だ。


船長は念のため、

「オペレーター室までなら同行を許可する」

と伝えたらしい。


俺たちも、それで終わると思っていた。


ところが、そのために俺たちは無人ドローンを使って、旧坑道の探査ルートをあらためて確認する羽目になった。

安全な脱出ルートを構築するためだ。


結果、三機ほどドローンがロストした。

粉塵が濃い区画でセンサーが死んだのか。


古い坑道の振動で壁に接触したのか。

原因は分からない。

この環境では珍しいことじゃない。


とはいえ、調査によっていくつかの発見もあった。

余計な仕事だったとは思うが、まったく無駄だったわけでもない。

最終的に、ドローンによる探査で安全なルートそのものは確保できた。


正直なところ、俺はあそこへ行ってみたかった。

俺たちだけなら、何とかなる。

そんな気持ちもあった。


結局のところ、現場のことはいつだって自分たちで何とかしてきたのだから。

ペドロなんて、調査が始まってからずっと文句を言っている。


「リスクアセスメントの専門家らしいがよ。俺たちを危険にさらして、何がリスクアセスメントだよ。わざわざ見学する必要なんてねえだろ」

「まったくだ。見学することに何の意味があるんだ」


まあ、いつもの調子だ。

俺も正直なところ、同じように思っていた。

余計な奴が来た。


それが一番近い感想だった。

あそこを調査するなら、俺たちだけでやりたい。

余計なものは来てほしくない。


もちろん、この時点では、俺たちはまだ知らなかった。

彼女が本当に「現場を見に来るつもり」だということを。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

今回は、少し静かな雰囲気のSFを書いてみました。

宇宙開発というと、どうしても「未知の惑星へ旅立つ」「宇宙戦争が起こる」といった大きな物語を想像しがちですが、もし宇宙で暮らすことが当たり前になったら、そこで働く人たちにとって宇宙は、案外「ただの職場」になっているのではないか。

そんなところから、この物語を考えました。

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