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鉄壁のゲートと突破口の模索

巨大なパイプラインが絡み合う、薄暗く埃っぽい隠れ家。そこでニコ、カイ、ヘラの三人は、B1Fへと続く、あの冷たく威圧的なゲートをどうやって突破するか、知恵を絞っていた。遠目に見ただけでも明らかな、鉄壁の守り。B3Fの関門とは比較にならない、絶望的なまでの隔絶感がそこにはあった。


「まず、あのゲートのシステムだ」カイが、持参したデータチップの古い見取り図(ほとんど役に立たないと思いつつも)と、彼らが遠目で観察した情報を突き合わせながら口を開いた。「材質は、おそらく強化合金。物理的な破壊は、我々の装備では不可能だ。問題は認証システム。あれは、単なるIDカードだけではないだろう。指紋、虹彩…あるいは声紋認証まで組み合わせている可能性がある。B1Fのセキュリティレベルを考えれば、当然だ」


「警備兵も、B3Fの連中とはまるで違ったわ」ヘラが、思い出すように身震いしながら言った。「隙がなくて、冷たい目で…まるで機械みたいだった。あんな人たち、買収なんてできそうにない」


「同感だ」カイも頷いた。「彼らは、B1Fの支配者層に直接仕えるエリートか、あるいはB2Fから選抜され、B1Fへの忠誠を誓った者たちだろう。下層の我々が持っているような物…肉や、仮に金があったとしても、そんなもので靡くとは思えん。彼らにとって重要なのは、地位、名誉、そして体制への忠誠心だ」


「じゃあ、どうするんだよ…」ニコが苛立ちを隠せずに言った。「物理的にも破れない、買収もできない。どうやって通るんだ?」


「落ち着け、ニコ」カイは宥めるように言った。「方法は必ずあるはずだ。あらゆる可能性を検討しよう」


三人は、考えうる限りの突破方法を議論し始めた。


「変装は?」ニコが提案した。「技術者の服を奪って、IDカードも手に入れれば…」

「無駄だろう」カイが即座に否定した。「服装やIDカードはごまかせても、生体認証は突破できない。ゲートで止められ、捕まるのが関の山だ」


「カイのEMPは使えないのか?」ヘラが尋ねた。「B3Fの時みたいに、一時的にシステムを止めるとか…」

「あのゲートのシステムは、おそらくEMP対策も施されているだろう。それに、仮に一時的に無効化できたとしても、即座に異常が検知され、警報が鳴り響き、増援が駆けつけるはずだ。ゲートが開く前に、我々は蜂の巣にされるだろう」カイは厳しい現実を指摘した。


「技術的に、どこか弱点はないのか? 例えば、電源を落とすとか、システムをハッキングするとか…」ニコは食い下がった。


「電源系統は、おそらく幾重にもバックアップが取られている。落とすのは不可能に近い。ハッキングについては…」カイはため息をついた。「俺がいた頃の知識では、今のB1Fのセキュリティシステムに太刀打ちできるとは思えん。それに、アクセスするための物理的なターミナルに近づくことすら、現状では不可能だ」


次々と可能性が潰えていく。隠し通路や、忘れられた裏ルートのようなものは、カイの知識を以てしても、B1Fの厳重な管理区域に通じるようなものは見つけられなかった。彼がB4FからB2Fへ使おうとしていた(そしてニコには物理的に不可能だった)サービスシャフトのような抜け道も、B1Fの居住区画や管理区画に通じるものは、存在しないか、あるいは存在したとしても、とっくの昔に発見され、完全に封鎖されていると考えるのが自然だった。


議論は行き詰まり、重い沈黙が隠れ家を支配した。B1Fへの壁は、物理的にも、技術的にも、そして心理的にも、あまりにも高く、厚いように思えた。


「…システムや、物そのものをどうにかするのが無理なら…」

沈黙を破ったのは、ニコだった。彼の目は、B4Fで生き抜いてきた者特有の、一点を見つめるような鋭さを帯びていた。

「…『人』を、どうにかするしかないんじゃないか?」


「人?」ヘラが聞き返した。

「ああ。あの警備兵たちだ。システムが完璧でも、それを操作するのは人間だ。もし、警備の責任者…一番偉い奴を、どうにかできれば…」


カイの目が、わずかに光った。「…警備隊長、か。確かに、どんな組織にも、指揮系統の頂点、あるいは鍵となる人物がいる。彼を無力化できれば、一時的に混乱が生じ、あるいは彼の持つ認証キーや解除コードを奪うことで、ゲートを突破できる可能性は…ゼロではないかもしれん」


「でも、どうやって?」ヘラが、そのあまりにも危険な響きに顔をこわばらせた。「警備隊長なんて、一番警戒されてるだろうし、きっと腕も立つのよ」


「だから、観察が必要なんだ」カイは言った。「警備隊長の行動パターン、習慣、そして、ほんの一瞬でも、彼が一人になったり、無防備になったりする瞬間がないかどうか。あるいは、彼自身に、何か利用できる『弱点』はないのか…」


三人の目的は、再び「観察」へと戻った。しかし、今度の焦点は、ゲートのシステムではなく、それを守る人間、特にその責任者だ。彼らは、再び危険を冒してB1Fゲートが見える場所へと赴き、今度は警備兵たちの人間関係や、指揮官らしき人物の動きに、全ての注意を集中させた。


そして、彼らはすぐに、その中心人物を特定することができた。他の警備兵たちに指示を出し、時折、自らゲートの制御装置を点検している、厳格な顔つきの中年の男。彼の制服には、他の兵士とは違う、階級を示すような徽章が付いている。彼の動きには一切の無駄がなく、その視線は常に鋭く周囲に向けられていた。B3Fの警備兵たちとは比較にならないほどの威圧感と、プロフェッショナルとしての隙のなさ。


「…あの人だわ」ヘラが、息を殺して囁いた。「前に、技術者の人が『ケン隊長』って呼んでるのを聞いたことがある。すごく厳しくて、B1Fからの信頼も厚いって…」


ケン隊長。ニコとカイは、その男の姿を目に焼き付けた。彼こそが、この鉄壁のゲートの鍵を握る人物であり、そして、彼らが突破しなければならない、最大の「人間」という壁だった。


だが、観察を続けるうちに、彼らは一つの奇妙な点に気づいた。ケン隊長は、毎朝、ほぼ同じ時刻に、短時間だけ、ゲート脇にある小さな制御室に一人で入っていくのだ。おそらく、システムの定時点検か何かだろう。その間、他の警備兵たちは、彼の不在を意識してか、わずかに緊張しつつも、ほんの少しだけ注意が散漫になるように見えた。


制御室の中。一人きり。時間は短い。だが、それは、あるいは…。


ニコとカイは、顔を見合わせた。ヘラも、二人の視線の意味を察したようだった。言葉にしなくても、三人の間に、恐ろしく、そして途方もなく危険な計画の輪郭が、ぼんやりと形を結び始めていた。システムではなく、人を狙う。鉄壁の要塞の、ほんのわずかな、しかし致命的となりうるかもしれない「隙」を突く。それは、成功の保証などどこにもない、まさに最後の手段だった。



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