69.魔力感知
カスクが基地に来て数日。その日の午前中、私はモリスとカスクと共に執務室に呼ばれていた。
執務室にはハークハイトとユーリ、ザビがいて、いつも通りの面々と言った感じだ。
「しばらく偵察任務でザビウスが不在になる。モリスとカスクもいるので、問題はないだろうが、いつ何が起きるかわからない。十分注意するように。それと、何かあればすぐに知らせなさい」
これまでもザビが数時間から数日いないことは時々あった。
けれど、今回はもう少し長期でいないらしい。一応どこに行くのか聞いてみたけど、極秘だとかで偵察先までは教えてくれなかった。
「それで、その間これまでにザビウスが行っていた基地周りの定期巡回を魔狼たちと騎士たちに任せようと思う。今後、魔獣の氾濫の際に騎士団と魔狼たちとの連携は不可欠であると考えたので、定期巡回をしながら騎士と魔狼たちとの関係作りを進めていく。それと、最近基地の外で中・大型の魔獣を見たと言う報告も何件か上がっているため、心配するほどではないと考えるが、巡回範囲を少し広げることにした。シロ、問題はあるか?」
「カオやヤヤが嫌がらなければ私は良いよ。巡回は魔狼たちの運動不足解消にもなるし。でも、危ないことはさせないでね」
「ハークハイト様、少しよろしいですか?」
ザビが騎士に変わったところで、魔狼たちにとってやることは変わらないだろうし、特に問題はないだろうと思っていると、横に立っていたモリスが手をあげた。
「なんだ」
「中・大型魔獣の出現についてはルークを使ってみてはどうでしょうか。捕獲できない大きさの魔獣が出た際には知らせるくらいのことなら、ルークには造作もなくできるはずです。定期巡回に加え、ルークが上から基地を見張れば、基地の守りは今より盤石になるのではないでしょうか」
「なるほどな。君以外でもルークを扱うことはできるのか?」
「ルークは賢いですから、少し訓練すれば問題はないかと」
「そうか。ならば君の意見を取り入れるとしよう。魔獣出現の際には、担当班で確認に向かうことにする」
ハークハイトたちの話を聞いていて、毎回わざわざ確認に向かうのは少し面倒の様な気がした。人の場合は騎士が向かえば良いと思うけど、魔獣ならカオたちが行った方が穏便に済む気がするし。
そこで私はあることを思い出した。
「ねぇ、ハークハイト」
「なんだ」
「フェリジヤの人は、魔力感知は使わないの?」
「魔力感知? なんだそれは」
西の森へ行った時、ザビに魔力感知の単語を出したけれど知らない感じだった。
ハークハイトにも聞こうと思っていたのに、すぐにドルトディートが出て来てその後ハークハイトたちと離れてしまい、そんなことはすっかり忘れていた。
「西の森で、誰かが私たちを探してるってハークハイトたちを呼びに行ったの覚えてる?」
「そう言えばそうだったな」
「あの時、魔力の波を感じたの。だから、誰かが魔力感知を使ってるんだってわかったの。魔力感知は、自分の魔力を限りなく薄くして自分の周囲に巡らせて周りの地形や障害物を探ることができるの。それこそ、遠くに人がいるのか魔獣がいるのかくらいは確認できるし、数もわかる。森の中で初めて行く場所がある時にマオが良く使ってたの」
「待て。それでは、その魔力感知によって西の森で我々はドルトディートに場所を見つけられたと言うことか?」
「多分」
「そう言うことは早く言いなさい。これまでドルトディートに逃げられていた原因はそれか……。シロ、その魔力感知のやり方はわかるか?」
「実際にはやったことないけど、さっき言ったとおりだよ。自分の魔力を周囲に薄く広げるだけ」
そう言うと、ハークハイトは静かに目をつぶった。
しばらくすると、ハークハイトから少しずつ魔力の波が広がって行くのを感じた。
六花の涙服用以来ハークハイトの魔力の質は格段に上がった。ピコのおかげで見た目を元の状態に維持したままでも以前の数倍は魔力を使えると言う。髪を結っている紐をほどいて本来の姿で魔力を使えばきっと、領中を魔力感知できるのではと思うほどだ。
「なるほどな。魔力にこんな使い方があったとは、これは凄いな……」
魔力を戻したハークハイトは、目を開けそう呟いた。
「メテルキアはいったいどれほどのものを隠しているのか……。いや、違うか」
「ハークハイト?」
何かを思いついたハークハイトは、私の方を見つめた。
「ドルトディートとマオは繋がっている……?」
「え?」
「あくまでも推測だが、魔力感知は国王に報告されている魔力の使用方法ではない。ならば、メテルキアでも一般的ではないと考えた方が良いだろう。メテルキアで魔力感知が一般的に使われているものではないとすると、それを知っている人間は限られる。だとすれば、ドルトディートとマオに何らかの接点や共通に繋がりのある第三者がいると考えた方が自然だろう。もしくは、いや、なんでもない」
突如持ち上がったマオへの手掛かりになるかもしれない可能性に、私は少し不安になった。
ハークハイトは言葉を濁したけど、言いたかったのはマオがドルトディートに捕まりその技術を教えた、いや、無理矢理吐かされた可能性だろう。情報を教え用済みになったマオは……。
ハクは探すなと言ったけど、知っていたのだろうか。マオが生きているのか、それとも……。
「いずれにせよ、ロシュ、ビット、ディケの三人を捕獲し聞き出せば済む話だ。奴らの手口が分かった以上、次に後れを取ることはない。ユーリ、モリス、少し付き合え。ザビウス、お前は予定通り出発しろ。シロ、カスクは下がって良い」
足早に執務室を出て行ったハークハイトたちの背を見送りながら、私たちも執務室を出た。
「シロさん、大丈夫ですか?」
「え?」
「いや、なんか難しい顔してる様に見えたんで」
「マオとドルトディートに接点があるかもって言われてちょっと不安になって」
カスクが基地へ来た時に、モリスと同じ様に私が基地にいる経緯を話した。だから、マオのことも知っている。
「無責任に聞こえるかもしれないですが、俺は大丈夫だと思いますよ」
「どうして?」
「どこで何してるかは俺なんかにはわからないですけど、マオさんってシロさんに薬学を教えた人なんですよね? だったら、少なくともそこら辺の薬師よりよっぽど怪我や病気に対して知識があるってことじゃないですか。そんな人なら、どこに行っても自力でなんとかしてるんじゃないかなって。だからきっと生きてますよ。そんで、生きてるならきっとまた会えます」
屈託のない表情でそう話すカスクの言葉に、私はなんだか妙に納得してしまった。
言われてみれば一緒に過ごした中でマオは何度か危ない目にあっているけど、死んだりしなかった。
泣いて縋りつく私に、いつも笑って、死なねーよって言ってくれた。
「そうだよね。ありがとう、カスク」
「いえ。いつか俺もマオさんに会ってみたいです」
「またマオに会えた時は、絶対紹介するね」
「楽しみにしてます」
話をしながら歩いていたせいか、あっという間に処置室へと戻ってきた。
モリスとカスクに本格的に薬のことを教える様になる前に、私はヤッカニウムの解毒薬を完成させなければいけない。
在庫補充などやることやって早く研究にとりかかろうと処置室の扉を開けると、そこにウィルとカインの姿があった。
「ウィル、カイン、どうしたの? 怪我?」
「いえ、カスクを呼びに来たんですよ」
「俺ですか?」
「ザビに不在の間、カスクに体術の訓練つけてやってくれって頼まれてな」
そう言ったウィルは徐に立ち上がって、カスクの肩に手を置いた。
「同じ平民だからザビに稽古つけてくれって頼んだんだろうけど、俺らに勝てないようじゃ、ザビとの訓練なんて三分と持たないぞ」
「え……」
「ウィル、あんま脅すなよ。カスクの場合、闘うためじゃなくて自衛だろ?」
「カイン、最初から自衛だけって線引きして考えてるといざという時、痛い目見るんだよ。最初っからある程度の戦闘できるくらいやってた方が良いんだって」
「俺、下位貴族相手に戦えるくらいにはなりたいって思ってるので、どんどん鍛えてください!」
「なるほどな。なら、俺たちも遠慮はいらないな。行くぞ、カスク、カイン。シロさん、カスク借りていきますね」
「わかった。怪我しないようにね」
あれよあれよと言う間にウィルとカインがカスクを連れて行ってしまい、久々に一人きりになってしまった。
「カスク、いつの間にザビに訓練なんて頼んでたんだろう?」
お昼までには終わるだろうし、戻ってきたら聞くことにしようと決め、私は目の前の片付けなければいけないことをやるために手を動かすことにした。
そんなわけでザビ君、しばらくお休みです!
ザビは自分にとってもかなり思い入れのあるキャラなだけに寂しいです…。
決めたの自分なんですけど←




