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Noah-領域外のシロ-  作者: 文祈奏人
2章

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不在伴奏.薬と紙と成長期

 ※ザビウス視点


 ルキシウス様からシロへの話が終わり、シロが部屋を出ていくと、ルキシウス様とファーガス団長、そして俺たちは謁見の間のすぐ横にある会議室へと移動した。それぞれが席に着くと、俺は主に持たされた魔法具を主の前に置き、そのまま主の後ろに下がった。

 ちなみに魔法具の中身は、主がレパレント商会に言って作らせた物だ。


「それで、弟よ。私に要件とはなんだ。お前がわざわざ言って来るくらいだ。何か大きな要件なのだろう?」

「要件は二つ。それと、聞きたいことが一つ」

「多いな。いつもは私に相談もせず勝手に進めているくせに」

「行動に対する影響範囲の差だ。今回は規模が大きい。それに、一つ目についてはお前もファーガス団長も気になっているところだろう。その話題の物がこれだ」


 魔法具の中から、主は薬瓶を取り出し机に置くと、ルキシウス様に見せた。

 ルキシウス様は、机の上の薬瓶をひとつ手に取った。


「見た目は普通の物と変わらない様に見えるな」

「見えるも何も、変わらない。だがそれは、シロから製法を聞き、城下の商会で平民に作らせた薬だ」

「平民が薬を?」

「これを、城下の店で販売する許可が欲しい。ちなみに、シロの製法で作った薬ではほぼ確実に魔力中毒は起きない」

「なんだと……!?」


 俄かには信じがたい主の言葉に、ルキシウス様が驚いた表情を浮かべる。


「ほぼ確実に魔力中毒が起きないとは、どういうからくりだ?」


 魔力中毒を起こさず、平民、貴族関係なく誰にでも使える薬なんてのは、国の歴史をも変えるほどの価値がある。

 ルキシウス様の言葉に、主はシロから聞いた魔力中毒が起きる理由について説明をした。


「なるほどな。理由がわかると存外簡単な理由だな」

「私も彼女から聞いた時は驚いた。一般的に広い範囲で使われている、傷薬と鎮痛剤、抗炎症薬を今回の試験運用として城下の店で販売したい。平民が作ることで、販売の価格を抑え、魔力中毒の起きない安全な薬を広く提供できるようになる。もちろん、販売相手は領主が認めた薬師に限られ、薬師以外の一般人には販売は禁止とする。薬師にとっても、安全な薬が安価で手に入ること、そして薬の調合をしなくて済むことで少しでも研究や患者と向き合う時間に充てられるというメリットが出てくる。この薬を患者にいくらで売るかは、薬師の裁量に任せる」

「偽造できないように領地で一定の試験を設け、薬師であることの証明書を領主城からそれぞれに発行した方が早そうだな。その証明書を提示することで、店で買えるようになる。店の方も一定の基準や定期的な監査をすることで、薬を製造、販売する権利を持たせよう」

「話が早いな」

「だが、試験運用の前にその薬が本当に魔力中毒を起こさないか調べる必要がある。念のため、薬をガンフに調べさせる」

「問題ない。ちなみに、私の方でシロが騎士団で薬を作るようになってからの騎士の魔力中毒発生状況を調べたが、少なくとも基地でシロから処置室で処方された薬を使って中毒を起こしたものは一人もいなかった」

「彼女は……本当に何者なのだろうな」

「さてな。城下では使徒様と呼ばれているそうだ」

「使徒……そうか。ならば、仕事をさぼってばかりいる私の立場もそのうち危うくなるかもしれんな」


 冗談を交えながらも、本題を進めていくこの兄弟の会話はいつ聞いても進みが早い。良くも悪くも、学のない俺なんかでは到底理解できないスピードで話が決まっていく。


「次がこれだ」

「紙……?」


 主が取り出したのは、不燃樹で作った紙だ。


「それは不燃樹という耐火性の高い木から作った紙で、紙もかなりの耐火性がある。そのままでは、少し燃えにくい紙と言うだけだが、これに水魔法を付与すると燃えない紙ができる。この紙には特殊なインクを必要とするが、機密事項などを扱うには良いと思ってな。それに、木は燃えにくいので建築にも適している。私ひとりで勝手に使ってもいいが、後でばれると色々と面倒だ。王宮に献上し報告しておいてくれ」

「また面倒なことを……。だいたい、耐火性の高い木とはなんだ? 木だぞ? そこから作る紙とて、いくら魔法陣を付与しても、燃えないわけないだろう」

「ならば、紙に火をつけてみれば良い」


 そう言った主の言葉を聞いて、ルキシウス様は紙を手に取ると、火魔法で指先に小さな火を出した。

 紙を炙る様に火を近づけるけれど、紙が燃え始める様子は一向になかった。


「本当に燃えないのか……?」

「ちなみに、木を生やす種は生物に寄生し、宿主の水分を吸いつくす恐ろしい種だ。だが、きちんと扱えば無限に木を生やすことができる。大量の水が必要にはなるが、場所さえあればある程度の量産は簡単だろう」

「万が一、寄生されたらどうするのだ?」

「種を取ればいい。シロに言えば領主城の薬師たちに、種に寄生された時の対応方法を教えてくれるだろう」

「これもあの子の発明品か」

「正確には、彼女が度々口にするメテルキアの人間と思われる、マオと言う人物の知識らしいがな」

「王宮に献上するのは良いが、これがメテルキアの技術ならばメテルキアが黙ってはいないのではないか?」

「既にメテルキアで量産されているものなら、とっくに献上されているはずだ。メテルキアにとっては一刻も早く名誉挽回を図りたいところだろうからな。だが、それをしないということは知っているのはマオを含めごく一部の人間なのだろう。それに、その紙でこちらにシロがいるとわかる人間がいるなら恐らく接触を図ってくるだろう。彼女について知っている人間がいるなら、こちらとしても話を聞きたいのだ」

「誘拐や暗殺をしに来たらどうする? 森で隠されて育てられていたのなら、そういう可能性もあるだろう?」

「そうなれば事前に必ず動きがあるはずだ。ザビウスにできる限りメテルキアの動きを探らせる。少しでも不穏な動きがあればしばらく城で匿ってくれ」

「ここをどこだと思っている?」

「領内でここより安全なところはない。それに、彼女がいれば万一領主が病で倒れても安全だ」

「お前と言うやつは……」


 さっさと不燃樹の王宮献上に取り付けた主は、次の話題へと話を進めた。


「それで、最後に聞きたいことだが」

「なんだ?」

「シロくらいの年齢の子どもが半年間身長や腕の長さ、胴回りが成長しないと言うのはやはり異常なのか?」

「は……?」


 主の突然の質問に、ルキシウス様の目が点になった。


「先日、あれの服を作ってくれている騎士が夏服を作ると言って再度採寸をしたそうなのだが、基地に来た頃に測ったものと何も変わっていなかったと言っていてな。彼女曰く、シロくらいの年齢の子どもが半年でどこも何も成長していないのは変だと言うのでな。子どものいるお前に念のための確認だ。シリルとシャロンはあの子とそう変わらないだろう?」


 シリル様とシャロン様は、ルキシウス様のご子息とご息女で、兄のシリル様は現在七歳。妹のシャロン様は六歳だ。


「とても賢い弟を、私は時々こいつ実は馬鹿なんじゃないのか? と思う瞬間がある。それがまさに今だ」

「あの年の子が、あまり成長しないことが変だと言うことくらい私とて知っている。だが、半年くらいとも思うから、子どものいるお前に尋ねたのだ」

「だからさっさと結婚しろと言うのに……」

「話を戻すぞ。それで、やはり変なのか?」

「全く成長しないと言うのはおかしな話だろうな。個人差はあれど、目に見える程とはいかずとも半年もあれば多少の成長は見られるはずだ」

「そうか」

「なんだ? 他に何か気になることでもあるのか?」


 何かを考え込むような様子を見せた主に、ルキシウス様が言ってみろと先を促す。


「いや、彼女は森からマオがいなくなったのは三年前だと言っていた。仮に今、彼女が六、七歳だとして、マオの失踪当時彼女はまだ三歳か四歳ということになる。そんな年齢の子が、あぁも鮮明に記憶を覚えているのものかと思ってな。彼女はマオとの記憶を随分はっきり覚えている様に話す。それに、薬の知識にしても、今の年齢でも信じ難いと言うのに、四歳以下などまだやっと大人が噛み砕いた物言いで会話が成り立つ幼児だ。あまりにも、不自然な気がしてしまってな」

「確かに。あの子は随分頭も回るようだし、正直、シリルやシャロンをどう頑張って育ててもあんな風にはならないだろうな。だが、そうなるとなんだ? あの子は、見た目以上に年齢がいっているということか?」

「そう考えた方が、打点が行くだろう」

「だが、逆に考えれば見た目の時を止めていると言うことになるぞ」


 やっぱりシロは、知れば知るほど謎が増える不思議な女の子だ。


「使徒。先程、城下の平民たちは彼女のことをそう呼んでいると言ったな?」

「だからなんだ。ただの平民の戯言だ」

「わかっている。だがまぁ、あの見た目、知識、成長しない身体、案外そう言うこともあるのかも知れないなと思っただけだ。それが、我々人にとって吉と出るか凶と出るかはわからんがな」

「暗に平民の薬師を育てろと言ったお前がそれを言うか」

「平民の少年をたきつけたのはハークハイトの方だろう。だが、平民街に薬師を派遣しないことでガンフからとやかく言われ、挙句の果てにお前は助けられる命を捨てたのだとあぁもハッキリ言われては、な。薬道においてこの領内随一と言われる男と、その男が認めた小さな薬師に見捨てられる前に、領主としてできる手は打ったと示しておく必要があったのだ。それに、シロが森へ帰ると言い出し、彼女の知識や技術を吸収せず失うことはフェリジヤの未来にとっても大損害だ。ならば、今のうちにそれを継ぐ者を作っておかなければならない。モリスが騎士団に入ったことで十分だと思っていたが、保険は多い方が良いだろう?」

「では、騎士団にしばらくその平民の少年を招こうと思うがいいか?」

「好きにしろ」


 そう言って、ふっと小さく笑ったルキシウス様は、目の前に用意されたティーカップの中身をゆっくりと口に入れた。

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