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Noah-領域外のシロ-  作者: 文祈奏人
1章

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閑話.アニマルスポット

 ※ザビウス視点


 本格的な冬が来て、連日外は雪が降り積もっていた。

 フェリジヤは比較的温暖な気候とは言え、真冬になれば当たり前に連日雪が降る。

 冬は大型魔獣が大人しくなり騎士団の仕事も少しだけ落ち着く。

 冬を除けば、ラプスル山脈や迷霧の森をはじめ、領内の山や森から食料を求めて人や家畜を襲う魔獣が出たり、彼らの棲む土地に異変があり魔物の氾濫が起きて街へ被害が出ることもある。

 騎士団はそう言った対魔獣に常に備えていなければならない。

 連日雪の降るこの季節だけは束の間の休息だ。

 それに、最近は魔狼たちの手伝いもあって魔獣が出ても戦闘になることがなくなった。

 人にはわからない彼らのコミュニケーションがあるのか、魔狼たちと対峙するとたちまち魔獣は大人しくなって帰っていく。

 主から人里や城下には行かないと言う条件付きで魔狼たちを周辺警備に同行させる許可をもらい外に出るとそんな場面に度々遭遇した。

 魔狼たちは熊や鹿などを見ても襲うことはなく、それどころか、怪我をした小動物を見つけるとシロのところへ連れて帰った。

 シロはシロで、そうした魔獣たちの手当てをしたり、薬を作ったりで忙しそうにしていた。

 見兼ねたユーリさんに、薬室に近い空き部屋を一つもらいそこが魔獣用の治療室になっている。

 キツネ、たぬき、うさぎ、ねこ、リス、こんなにもいたのかと思う種類が代わる代わる治療を受けては元気になって帰っていく。


 ――コツコツコツ。


 午後、処置室で暖をとりながらシロの薬棚整理の手伝いをしていると何かが窓を叩いた。

 しかし、窓を見ても誰もいないし、何もなかった。風かな? と思い作業を再開すると、また、


 ――コツコツコツコツ。


 と窓を叩く音がなった。

 再び窓の方を見て、視線を下ろして行くと、窓の外で小さなリスが必死に窓を叩いていた。


「シロー、外にリスが来てるぞ?」

「わ! もうそんな時間? わかった!」


 薬室に入っていたシロに声をかけると、がさごそと荷物から何かを取り出してパタパタと処置室の窓へ走ってくる。


「お待たせ」


 カラカラと窓を開けると、シロはもらったりんごを干した時に取り出したりんごの種や、庭で育てた豆などをリスの前に置いた。

 リスはそれらを手にとってパクパクと口に運んで行く。

 一匹が手を伸ばしたかと思うと、影から他のリスも顔を出した。


「今日は餌取れなかったんだね。庭にもいくつかみんなの冬の餌になるもの植えとこうかな」


 もぐもぐと頬を膨らませるリスたちを楽しそうに眺めながらシロが庭に植えたいものを口にして行く。


「シロが餌やったら、自分で餌取らなくなるだろ?」

「大丈夫だよ。魔獣が人を頼るのは確実に信用できる人に、本当に困った時だけだから」


 魔獣は人間より余程、自力で生きていかなければならないということを知っているとシロは言う。


「それに可哀想だからって理由でただ助けてるわけじゃないよ?」


 俺が、そうなのか? と首を傾げると、


「自然は全部繋がってるんだよ」


 と笑った。

 どう言うことだ? と思ったけど、生まれた時から自然の少ない人里で暮らしてきた俺と、人のいない森で暮らしてきたシロでは自然に対する理解度が違うことを思い出した。

 シロが人の社会を理解していない様に、俺もまた自然と言うものを理解していない。

 人はあくまでも人本位な社会を形成しているのだと気付いたのもシロや魔狼たちと触れ合うようになってからのつい最近の話だ。


「ザビ、ちょっと手伝ってくれる?」


 一通りリスを愛でたシロは、窓を閉めていくつか薬品や荷物を持つと付いて来て欲しいと俺に頼んだ。

 シロが持ちきれない荷物を分担して向かったのは厩だった。


「ラインハルト」


 厩に行くと、ラインハルトが待っていた。

 話を聞くと、魔狼たちの防虫や虫除けの薬をシロが自分で作っていると聞いて馬用も作れないかと言う話になったらしい。


「冬の間これで様子見て、また考えるから何かあった教えて」


 用意した薬品の使い方などを手際良くラインハルトに教えて行くシロ。

 見た目は六、七歳かなと言った感じだけど、こう言う時のシロはしっかりしていて見た目に反して随分大人びている時がある。

 余程良い教育を受けているのだろうと思うけれど、実際にはマオと言う人間との接触しかないのだ。


「ニャー」

「レオ! ちゃんと厩番してる?」


 シロがラインハルトと話していると、見覚えのある穴ネコが厩から出てきてシロの足元に擦り寄ってきた。


「こいつ、ちょっと前にシロが怪我診てやったやつか?」

「そうなの。怪我が治って元の場所に帰したんだけど、カオたちが来てすぐ後くらいからここに居つく様になっちゃったの」

「ハークハイト様にも許可は取ってあるし、馬に悪戯する訳でもなく、ネズミなんかを狩ってくれたら良いかなと思ってね。厩で一緒に世話をしているんだ」


「レオ」とラインハルトが呼ぶと、今度はラインハルトにゴロゴロと擦り寄って行く。


「あ、カオたちも来た」


 気配を感じてなのか話し声が聞こえてなのか、厩の隣に簡易的に建てられた魔狼用の小屋からカオたちが顔を出す。

 冬毛でひとまわり大きくなった様に見えるカオたちも、何もない時は小屋の中で身を寄せ合って暖を取っている。

 馬がいて、ネコがいて、魔狼がいて、少し前の騎士団では考えられない光景がそこにはあった。


「そろそろ治療室の子たちのご飯の時間だ」


 厩で動物たちと戯れて日が傾き始めた頃、今度は治療室へと移動した。


「みんなご飯だよー」


 ケージへ入れた一匹一匹にそれぞれ必要な栄養を考えた餌をあげていく。

 シロは決して魔獣を甘やかしていつまでも置いておくことはしない。

 ある程度怪我が治って、元に戻しても問題ないレベルになればすぐに自然へ戻す。

 人に慣れて居つくのを防ぐためだと言っていた。


「そう言えば、魔狼たちは怪我した奴を連れてくる時と見て見ぬ振りをする時があるけど、何かあるのか?」


 前から不思議に思っていたことだ。

 カオたちは何らかの基準で連れ帰る時と、放置する時がある。


「治療しなくても大丈夫そうな場合か、例え死んでしまっても自然に還ることができる場合は手を出さないんじゃないかな?」

「自然に還る場合って?」

「生物はみんな死んだら魔石になって土に還るでしょ? でも、ここみたいに石畳みだったり整備された人の街の中じゃ死んでもきっと自然には還れないんだと思う。魔狼は森の管理人って呼ばれるくらい森の生態系を守ってる存在だから、そう言うことがなんとなくわかってるんじゃないかな? 自然に還れないなら治療して生かした方が良いとか、何か判断基準があるんだと思うよ」


 魔狼は特定の種が減れば助けることもあるし、増えすぎた種は昼夜問わず狩り続けることもあるとシロは言う。


「さて、君はそろそろ外に帰ろうか」


 昨日、庭の木の下で動けなくなっていた鳥が今日はバサバサと羽を広げている。

 シロは小さい手に鳥を抱くと、窓から鳥を外に放った。


「元気でねー!」


 過去を振り返っても仕方がないけど、あの頃シロに出会えていたらと思わずにはいられない。

 雪景色の中にいるシロを、俺は時々天使の様に感じる。


 ――コンコンコン。


「シロこっちにいるー?」


 ドアがノックされ、治療室に顔を出したのはレーナさんだった。


「レーナ、どうしたの?」

「ハークハイト様に、冬用の頭巾頼まれてたのできたから持って来たの」

「新しい奴! ここじゃ狭いから処置室に戻ろうか」


 前回レーナさんに貰った青い頭巾は、雪を想定していなかったから雪の中でも濡れにくい素材で作り直したようだ。

 処置室に移動して、新しく作った頭巾をシロが早速試着する。


「今回は青じゃないの?」

「青は前のがあるし、今回は少し趣向を凝らしたのよ」


 騎士団の制服と同じ色の頭巾を気に入っていたシロは今回の白い頭巾がお気に召さない様だ。


「見て。魔狼たちとお揃いの耳付き頭巾よ」

「耳! ハクみたい!」


 白い髪に白い頭巾が重なると、本当にシロに耳がはえているみたいで、さっきまでお気に召さない様子だったのに魔狼たちとお揃いの三角形の耳をみたシロは一気にテンションが上がっている。


「レーナありがとう!」


 白衣に白い頭巾を被り白一色の中、キラキラと輝く青い瞳が宝石の様にレーナさんを見つめる。

 その時、鼻の下を伸ばして今にもよだれの垂れそうなレーナさんを俺は見逃さなかった。




 それからも、雪の降る日は続いた。

 シロが庭に行けば、たぬきが来たりうさぎが来たり。

 コツコツと窓を鳴らす処置室への小さな訪問者も後を絶たない。

 肩にリスやら鳥やらを乗せて、うさぎを抱えるシロは完全に謎の癒しスポットになっている。


「ラインハルト、シロ来てるか?」


 外の見回りから戻ると処置室にも庭にもシロの姿が見えず、俺は厩へと向かった。


「あぁ、あっちあっち」


 くすりと笑ったラインハルトが魔狼たちの小屋の方を指差す。

 小屋の外から中を覗くと、スレイプも居た。

 シロの姿が見当たらず目を凝らすと、団子になった魔狼たちの中で耳のはえた頭巾を被りレオを抱えて寝ている。


「あんなに魔獣が懐くなんて不思議だよな。シロがいると不思議と動物たちが寄って来る」

「庭でも処置室でも、連日動物のオンパレードかと思ったらここでもか。ラインハルト、ちょっと羨ましいだろ?」

「正直俺もあの中入ってモフりたい……」

「ラインハルトも魔獣好きだもんな」


 スヤスヤと眠るシロを小屋の外から眺めながらそんな会話を小声でして、夕方にはシロを起こして処置室へと戻る。

 日を追うごとに、シロの周りにはどんどん魔獣が増えていき、春を迎える頃には魔獣の集まる所シロ在りと言う感じで、シロが完全にアニマルスポット化していた。

 その事態に気付いた主が頭を抱えることになるのも、小動物たちがお礼だと言わんばかりに木の実や花を届けに来る様になるのも、それからそう遠くない未来の話だった。

☆御礼☆

評価・ブックマーク登録本当にありがとうございます。

誰にも見られないだろうなと思いながら何の気なしに始めた小説投稿ですが、

目に見える形で読んでいただけていることを実感し、自分でも驚くほどモチベーションに繋がっています。

今後もこつこつアップできる様に頑張りますので、一緒にシロの未来を見届けていただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 牛も豚も魔獣?死んだら魔石になるのかな? そしたら肉たべられなくなるのでは? 魔石が土に還るとは物理的に溶け込むのかな?
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