100.発令
いつもご愛読、ありがとうございます!
おかげさまで当作品も100話目になりました!
これからもコツコツやってまいりますので、何卒応援のほどよろしくお願いいたします!
あれからしばらくして。
俺たちは犯人の情報を聞く出すために、被害に遭った使用人のいる部屋へと訪れていた。
「失礼します」
「あっ、ソフィア様! ランス様にイリア様も……」
もう完全に意識は回復しているみたい。
すぐ傍ではアリシアさんが椅子に座って、彼女を見守っていた。
「もう身体は大丈夫なの?」
「はい。おかげさまで」
使用人の女性になんともないことが分かると、ソフィアはホッと一息つく。
「も、申し訳ありませんソフィア様。私のせいで、大変なことに……」
「貴女のせいではないわ。それよりも貴女が無事で何よりよ」
「ソフィア様……!」
しばらく身内の同士の会話を俺たちは見守る。
「前も思ったけど、彼女ってホント身内想いよね。聞けば城内外で働いている使用人の顔と名前は全て一致しているらしいし」
「それだけ大切に思っているってことだな」
「いくら想いが強くても、数百人以上の人の名前と顔を一致させるなんて不可能よ。わたしだってたまに親戚の子の名前とか忘れそうになるのに……」
「それはお前の記憶力に問題があるんじゃ……?」
でも、そういうところは真面目なソフィアらしい。
彼女は王女だけど、普段は王女じゃない部分の方が強いように思う。
本当に必要な時以外、自分の身分を盾にしたりしないし。
小説みたいな物語の世界では王女って割と我儘だったり、横暴だったりする人がよく書かれるが、彼女はその全く逆を行くような人だ。
人を身分だけで判断しない。
相手のことをしっかりと考えた上で的確な行動ができる。
今の世の中、権力だけあってその立場に就くには分不相応な人間が人の上に立ったりすることがあるが、ソフィアみたいな人間こそ、人の上に立つ人間なのだろうと思う。
……って、庶民の俺が何を語ってんだか。
「ランス、早速始めましょう」
「お、おう!」
いつか俺が彼女を頂点に立たせる。
そもそも俺が担った任務は彼女に冒険者のことを含む外の世界をより知ってもらうこと。
解釈の仕方を変えれば、今行っているのは彼女が後の指導者として人の上に君臨する前準備をしているということだ。
要するに指導役の俺の行動が一つが彼女の今後に少なからず影響を及ぼすと言っても過言ではない。
それは任務を国王から受け賜わった時から覚悟していたつもりだけど……
(責任重大だよな……)
今まで何度そう思ったことか。
でも今日は一段とその気持ちが強かった。
俺は庶民であるが、庶民じゃない。
もう引き返せないところまで足を踏み入れているのだと。
(でもやるからにはやりきらないとな)
たとえこの命に代えてでも。
そう強く心に誓いつつ、俺はソフィアの元へと歩み寄るのだった。
♦
一方、その頃。
城内某所では、秘密裏に会議が開かれていた。
「……全員、意見一致ということでよろしいですかな?」
「やむを得ないでしょう。こうなってしまった以上、我々だけでは対処しかねる」
「だが、最終判断は……」
会議に出席していた役人たちの視線は一斉にある人物の元へと向けられる。
「アルバート将軍。君の判断を聞きたいのだが、どうかね?」
アルバートは目を瞑ると、しばしの間、沈黙を貫いた。
まるで時でも止まったかのように場の空気が静かになる。
隣の席では宮廷魔導士団長のレイムが横目で見守っていた。
時が経ち。
アルバートはしばらく考え込んだ後、パッと両目を開眼させた。
そして宣言をする。
「閣僚各所の皆さん、全都民に告げておいてください。只今を持ってこの都を、特別戦闘区域に指定すると……」