43 それは導きか、罠か
俺は4時に起きると準備が出来次第でることにしたが、このドーム状の建物を出るだけで1時間もかかってしまった
入った入口とは反対に出ると外はまだ暗く、上を見上げても生きた灯りでそびえ立つ過去の文明で出来たビルが立ち並んでいるが非常に綺麗だがうっすらと霧が立ち込めている
寝癖をつけ、眠そうな顔をするナッツだったが外に出ると彼でも眠気が覚める光景が目に飛び込んでくる
鳥の羽のような翼の生えた緑色の龍が道のど真ん中で寝息を立てて寝ていたのだ
誰でもこの魔物を見れば顔を強張らせるだろう
立ち止まっていても解決はしない、ここは堂々と横を突っ切る
『先輩』
忍び足で建物の壁を沿うように歩くとナッツが小声で叫ぶ
嫌そうな顔してる後輩は諦めがついたのか、俺の後に続く
『とんでもねぇのがいやがるな』
『戦ってみてーけどまぁいいか』
グスタフとバニアルドが小声で会話しているがのんびり寝てる龍と戦う理由がまったくない
全員が龍の横を忍び足で通過するとイルミネーションが凄い地帯に辿り着いたがタツタカはその光景を見て驚愕を浮かべる
勿論俺達も凄すぎて言葉にならない
道の両脇には高い高層ビルが立ち並ぶが入口付近がどれも派手に光っているのだ
『秋葉…』
タツタカは道の横に立てられた看板を見て囁いた
『お人形さん沢山ね』
ルルカが周りを見て口を開くが建物の外からはガラス張りになっているので外からも見えるのだか明らかに外の人間に見せるかのように変わった服装の女の子の大きなお人形が飾られている
『あれはフィギュアです』
『お前ぇの時代じゃ人形をフィギュアっつぅのか?』
グスタフが質問をするとタツタカは頷いた
本当に俺達の住む暮らしとはかけ離れたモノだらけで少し見るのが楽しいと感じてしまう
『面倒だな…』
『先輩、どうしましたか?』
『ディザスターゴブリンだ』
『あの大きな角があるゴブリンですか』
『そうだ、正面から来るからやりすごそう』
一先ず横のフィギュア店に入ると物陰に隠れてその場をしのごうとしたがクズリはとんでもないことをし始め、俺は驚く
彼は飾られているフィギュアに並ぶと腕を組んで仁王立ちしたのだが外からなら人形だと勘違いすると思ったのだろう
他は散乱した家具などの影に隠れるが堂々過ぎるクズリを見たアルセリアは苦笑いしながら口を開いた
『とんでもない奴だな』
『ナッツ君のお父さんだよ、元人間最強は凄いこと考えるね』
『マルス、お前も出来る』
『僕は絶対遠慮する』
そうした会話をしていると
ディザスターゴブリンが2体も姿を現す。
俺達はやり過ごすために生きを潜めるが一番心配なのは女性の大きな人形に紛れて腕を組んで仁王立ちしているクズリだ、彼はガラス越しの壁から丸見えなのだからな
『ガウ・・・ガウ』
ディザスターゴブリンが辺りを見渡しながら歩いていく、2体は同時に展示品である人形、いや等身大フィギアと言うべきか同時にそちらに顔を向けると考えることなく直ぐに顔を逸らして歩いていくのだ
流石にバレないという事に驚きを隠せない、ゾロアは机の物陰から引き攣った笑みを浮かべている
『ありえん』
だが実際起きた事だ
店の前を通過したディザスターゴブリンだが俺達は物陰から体を出し、過ぎ去っていく後姿を見ていると2体のゴブリンはピタリと足を止め、首を傾げたのである
何をしているのだろうと考えていると直ぐにゴブリン達は振り返るので俺達は慌てて先ほどの場所に隠れたのだ
『なんで言ってくれないのぉ?』
『やべぇな』
ルルカとグスタフが小声で囁いている
カールとバニアルドはいつでも襲い掛かれるように武器を握りしめているが、戻って来たディザスターゴブリンはあろうことか、クズリの前で立ち止まると彼をジーッと見つめ始めたのだ
『凄い不味いですね…先輩』
『ナッツ、お前の父さんはとんでもないな』
『木を隠すなら森、みたいな考え方の人ですけどあれは明らかに森の中に場違いな木が生えているような感じですね』
『勘弁してくれ』
俺は溜息を漏らし、ナッツに話しかけているとディザスターゴブリンはいきなり向かってきた方向に顔を向けると慌ただしく逃げ出して言ったのだ
間一髪バレずに済んだと誰もがホッと胸を撫でおろしながらも姿を出すとクズリは苦笑いしながら俺達に近寄ってくる
『どうだ?』
『どうだ?じゃないんだが』
『気にすんな、結果こそ全て』
クズリと話しているとコルヴェールとゾロアが真剣な顔を浮かべたまま物陰に隠れた
誰もがそれを見て素早く柱に隠れたり、カウンター裏に飛び込んで姿を隠す
『今度はなんだ・・・』
『進めないよー』
『ったく、モリス…餌役やるか?』
『もう嫌ですよ?』
カール、ミミリー、バニアルド、モリスが口を開いていると先ほどのディザスターゴブリンが逃げた理由がわかったのだ
風を切る様な音が聞こえるし不気味な気配を感じる、気配はあると言っても僅かしか感じる事が出来ない
隠密スキル持ちの魔物の様だが、俺は柱から顔を出して外の道に視線を向けると大きなサメがゆっくりと店の前を泳いで移動しているのが見えたのである
全長8メートルとサメにしては大きい、紫色の体の背びれは長くて刃が羽毛のように生えている
サメなのに全身が鱗で覆われているが見るからに堅そうだ、胸ビレは銀色に光り、僅かな放電で発光している
目が左右2つ付いていてやや釣り目だ、勿論歯は鋭くて細かい
それが店の前を通過し、ディザスターゴブリンが逃げていった方向に泳いでいったのだ
『サメも空を泳ぐんだね』
マルスが口を開くとタツタカがそれに答えた
『いつかは泳ぐと思ってましたね、そのうち頭2つ付いてたり3つついてたりといそうですね』
『そんなサメ見たくないな』
『タコ見たいなサメもどうです?』
『タツタカ君、君の時代のサメって普通のいないの?』
『いや…普通のサメしかいないですけども先ほど見たいなサメは映像で見た事あるだけです』
普通のサメしかいないけども映像で見た事があるって意味は俺達にはわからない
少ししてようやく外に出ると先ほどよりも霧が深くて50m先が見えないくらいだ
『離れるな』
俺はそう告げてからグスタフと共に先頭を歩く
見上げてもビルの連絡通路は見えないし5階付近が限界だ、流石に俺の千里眼でもそこまで見える事は無い
『先輩、進んでも進んでも同じような感じの建物が並んでますね』
『超文明なんだ、この高層ビルと呼ばれる建造物が当時生きていた人間たちが暮らす場所だったのだろう、ならばそれが多くても不思議じゃないさ』
『ですよね、どんな暮らしだったんでしょうか』
『わからんな』
俺はどういう暮らしをしているか考えるが想像すらできない
しかしゾロアはそれに対し、歩きながら答えたのだ
『便利な時代だからと言ってそれが裕福という言葉を呼ぶわけでは無い、そこに生き物がいる限りな』
なるほどなとちょっとした納得を浮かべた
数十分歩いていると前方から何かが来る気配を感じ、俺達は裏路地に入る横道に足早に向かうと大きなボックスタイプのゴミ箱に隠れる形で実を潜めるが現れたのは先ほどのサメだ、ゾロアもあれは知らないらしい
『シャー』
『鳴き声面白いですね』
タツタカが俺の背後で囁く、蛇みたいだよなと俺は小声で答えるが彼は俺の考えとは違っていた
『行ったな・・・しかしこうして進んでいて本当に辿り着くのかわからぬな』
『まぁしゃーねーべ』
コルヴェールの言葉にバニアルドが口を開くとヘクターがちょっと驚いた顔をしたまま裏路地に顔を向けて固まっていたのだ
敵がいるかと俺はハルバートを構えるがその気配もないしゾロアやコルヴェールも魔物がいる時の仕草を見せない
『どうした?』
皆が表通りに歩いていくと、それに気づいたカールが声をかけてくる
俺はその言葉を引き継ぎ、未だに裏路地に顔を向けてゴミ箱の横でたたずむ彼に声をかけたのだ
『ヘクター、どうした』
『…こっちだよ』
彼は裏路地を指差した
俺とヘクターの様子を見かねて皆が戻ってくる、何故彼は裏路地の方が良いと思ったのかゾロアが効くと答えは意外な言葉で帰って来た
『ジ・ハードの親の声があっちから聞こえたんだよ、そっちは危ない…皆死ぬって』
『職の声?』
『そうだよ、オイラ嘘ついてないよ』
理由のない不思議な説得力を感じた俺は皆にルートの変更を提案したが気持ち的に表通りを歩くのは気負いするという事でヘクターの言う通り、裏通りを歩く事にしたのだ
というかあれだ、今まで裏通りに向かう道なんてなかったんだけども偶然俺達が隠れた建物の横道が裏道になっていたのだ
『確かに表通りはすこぶる疲れる、上空からの襲撃も裏路地ならばいけるが問題が1つあるな』
『アルセリア、多分みんなも同じことを考えているかもだが一応聞いとくよ』
『敵が現れれば避けては通れぬ可能性が高い、そしてここの魔物やオメガ種はとんでもなく強い、道によるが正面から現れれば倒して進まなければならないし最悪の場合はオメガ種が仲間を呼ぶかもしれぬ』
その通りだな
それでもヘクターのいう道の方が俺は良いと誰よりも感じている
『みんな行くぞ』
俺はそう告げるとシルバーバレットを先頭にして歩き始めた
突き当たりを右に曲がり、高層ビルが立ち並ぶ表通りの裏道に辿り着くと電灯と呼ばれる柱の上に照明がついている道に出たが灯りはまだついていない
道幅も5メートルと気持ち広いかな、最後尾をタツタカとゾロアそしてコルヴェールにして進み始めると次はルルカがいきなり立ち止まったのだ
『おいおいどうしたルルカ、トイレか?』
『グスタフゥ?こうな時にレディーに何言うのよぉ』
『冗談だって、んでどした』
『ヘクターの言う職の声ってわかる気がするわ、パンドラの職の声が聞こえたの…次の分かれ道を左に曲がれって』
『ありえぬ事だが大丈夫か?』
コルヴェールが疑問を口にするとクズリがニヤニヤ笑みを浮かべながら立ち止まる俺達を他所に我先に歩きながら話し始めたのだ
『俺達の頭の常識は世界の常識の10%も理解してねぇんだ、どの時代だってそうだ…自分の知る範囲内から外に飛び出た事なんざここじゃ当たり前に起きるだろうよ、おらさっさといくぞガキ共』
堂々と歩いていく彼の背中をナッツは追いかけている
『確かにな、人間にしておくには惜しい男だな』
ゾロアはそう言いながら歩きだす
俺も皆と連れてクズリを追いかけてから再び先頭で歩き出す、霧は表通りよりも深く、10メートル先も見えない
カールとミミリーは反対方向のレンガの様な高い壁を眺めながら歩いているが落書きが凄い、変わった絵が描かれているのだがここはスラム街か何かと勘違いしそうだ
『ジャムルフィン君、時間大丈夫?』
『今13時か、まだ昼前だと思ったが』
マルスとの会話で俺は少し驚いた、意外と時間は進むのが早いんだな
数分間歩いていると分かれ道が本当に現れ、俺は驚いた
『職の声ってなんで僕らに道を教えてくれるんですかね』
『モリス、お前ぇの職もなんか喋るんじゃねーかー?』
『やだなぁバニアルドさん、きっと天位職の皆さんだけですよ』
モリスは苦笑いしながら頭を掻く
『職の声だと左ですが…』
『凄い道が崩壊してるわね』
ミミリーが引き攣った笑みを浮かべてタツタカの声に反応を示す
右側は綺麗な状態だが左側は地面が割れていて歩くのが辛そうだ、まるで魔物がいますよと言うような感じに思える
『何かを叩きつけた痕跡の壊れ方をした壁だな』
カールが壁を見て言うけど彼の言う通りだ、壁は何かを叩きつけたかのようにレンガが壊れ、亀裂が走っている
『戻ってサメとクリオネが泳ぐ表通りに戻るか?』
『嫌ね』
クズリの言葉にコットンが答える
まぁしかし職を信じて進むしかないだろう、藁をもすがる思いと言うのだろうか…
俺は自分たちを強くしてくれている職の声を信じて左の道を進む事にした




