41 休める時に休まないと
俺達は進んだ先の右手に見えた階段を登る前に魔物の気配を感じていたので忍び足で音を立てずに登り始めた
階段の折り返しの1段目付近には外で見た2メートルサイズの大きな剣を持ったゴブリンが何かを手にして食べている様だ、その様子を手すりから少し顔を出して見るが運よく奴は2階に体を向けている為、見つからずに済んでいる
このゴブリンの名前が必要だな、何にするかな…
よし!ディザスターゴブリン、略してディゴブルだ
『ガフッ・・ゴブ』
ゴブリンらしい鳴き声を小さく上げながら俺達の知らない魔物の肉を食べているらしい
側頭部から上に伸びる角は本当に立派だ、髪もとても長く、両手首のガンドレットなんて強いですと言わんばかりにゴツゴツしていて棘がついている、というか凄い気を感じるがゴブリンキングが赤子同然と言えるほどの気だ、なんでこいつの気配は感じるのかわからんが一先ずは・・・
『!!』
俺は素早く手すりから顔を出すと気づかれる前に後頭部にハルバートを突き刺した
小さな悲鳴を上げたディゴブルは両手をダラリをさせ、持っていた肉を落とす
ハルバートを抜くと力無くその場にドサリと倒れるが完全に倒した様だ、俺は一息つくとゾロアとクズリがマジマジとそのゴブリンを見つめ始める
『知らぬゴブリン種だ』
『はぁ?魔物騎士でもわかんねぇのか』
『そもそもゴブリンキングから上はお前の国にいるタイタンゴブリンまでしかおらぬ筈だ、ちなみにそいつの魔物名称はゴブトロスだ』
『ちょっとネーミングセンスどうにかならねぇ?』
『俺に言うな、話を戻すが俺はこんな奴知らぬ…感じる気配はゴブトロスより上だぞ?』
『種族の頂点ばっかいますとか勘弁してくれよ』
クズリは溜息交じりに愚痴をこぼすと後方で待機していた仲間達に合図を送る。
するとカールを先頭に皆が階段を登り始めたので再び俺が先頭でタツタカを横にしながら彼の案内で静かに進みだすが出来れば普通に歩きたい、しかし至る所から魔物の気配を感じるからなるべく物音さえ立てたくないんだよ、怖いしね
最後尾はヘクターだし頼りにしている
マルスとアルセリアも後ろを見ているからそこ点は問題ない
2階、階段前で左右の廊下を順番よく見るがタツタカの案内では左だってさ
左に歩くと直ぐ両脇にドアが点々とあるのだが無駄に開ける必要はないし数か所のドアの奥には魔物の気配を感じる
『こわ・・・』
ナッツが上を見て言い放つが天井の至る所に亀裂が走っており、所々と穴が開いている
俺も上には警戒しながらも正面をタツタカに任せて歩きながら彼と会話をしたんだ
『今日は休めるだろうか』
『保証はないですが魔物さん達も夜はいい子に寝てくれるのを信じましょう、それよりもオメガ一家が問題ですね』
『オメガ一家…』
『超科学の機械、オメガ一家!どうです?面白いでしょう』
『タツタカ、近所迷惑だ』
ゾロアに後ろから声の大きさに注意され、彼は『すいません』と苦笑いを浮かべる
『ナッツゥ?どっからその干し肉だしてんのぉ?』
『あげません』
『何も言ってないわよ』
『会話の終わりを推測しての答えです』
ルルカは呆れた顔で何故か俺を見てくるが俺に何かを求めないでくれ
こいつの保護者がすぐ後ろにいるじゃないか…
『ルッツ、一つよこせ』
『・・・』
ナッツは悲しそうな顔をしながらも懐から干し肉を取り出し、父親であるクズリに渡している
それを横目で見ていたグスタフや後ろのバニアルドは声を殺して笑っているが見ているだけで面白い親子だな
『止まれ』
ゾロアが小さく声を出すと全員が一斉に足を止めて前後の道の警戒を強める
魔物がいる気配はないが彼はすぐ横の扉に視線を向けるとドアノブに手を伸ばしたのだ
しかしそこからは魔物の気配が感じるのでハズレの部屋と言わざるを得ない
『ゾロ…』
俺は小さく叫ぶが最後まで言う前には彼がドアを開け6畳ほどの奥に細長い部屋の中央にいた金色に輝くエレメンタル種と思われる魔物を見ると彼は素早く抜刀しながら突っ込んでいったんだ
エレメンタル種は知ってるが金色か…初めて見たぞ?
水晶からの側面には輝きをイメージする金色の鉄製の結晶が伸びている、綺麗だがエレメンタル種には似合わない反応速度を見せてくる
水晶を素早く発光させると何かをしようとするがそれよりもゾロアが速い
『消えろ』
ゾロアは鋭い突きで水晶を砕き、エレメンタルゴールドはヨロヨロ揺れながら地面に落ちて倒れる
結構強い魔物だと思ったがゾロアはSランクの魔物だし彼の方が一枚上手なのだろうな
刀を担いだまま床に倒れるエレメンタルゴールとを蹴って奥に飛ばすと彼は近くの棚を漁り始める
『何してんだあいつぅ?』
グスタフが聞いてくるが俺はわからん
『わからん、あいつの事だし何か閃いたかもしれない』
しかし俺の予想は裏切られた
ゾロアはしかめっ面を一気に不気味な笑みに変えると何かを手に持ち、それを俺達に見せびらかせてきたんだ
『超科学時代の紅茶だ、間違いない』
6センチほどのパックに入った袋だが絵柄は黒いバラだ
紅茶にも飲み物にも見えないがゾロアは疲れているのだろうかと心配になる
それに書かれている文字すら俺も彼も読めないのだがタツタカは彼に近付くとゾロアが手に持っている小さなパックを見つめ、引き攣った笑みを浮かべながら口を開いた
『大人ブレンド、ブラックローズの香りの紅茶って書いてます』
『それみろ』
タツタカの言葉にゾロアは自慢げに胸を張る
誰もが呆れた顔をしているが彼のこだわりは俺達の予想を遥かに上回っていた
どうやってそれが紅茶だとわかったんだよ…
『ゾロアさん?なんでわかるの?』
入口にいるヘクターは口を開くとゾロアよりも早く、アルセリアが答えたのだ
『匂いだろう、草木はどんなに分解しても匂いは消えない…まぁエルフや魔物じゃないとそれを嗅ぎ分けるのは不可能だが紅茶の匂いを奴は感じたのだろうな、私でも全然気づかなかったぞ』
『俺は紅茶の時だけ嗅覚は倍になる』
絶対嘘だ、と言えない
安易台所がある部屋だが彼は蛇口と呼ばれる場所で棚に置いてあるカップに水を注ぎ、パックをタツタカに開けてもらうと中からは黒い粉末が薄っすらと見えるティーバックが出て来たのだ、流石に全員は驚いたよ
『犬ぅ?』
『死の精霊神だ』
ミミリーのツッコみに冷静にゾロアは答えるとそれをアイスティーにしたのだ
部屋を出た俺達の最後尾にはヘクターと並んで嬉しそうに紅茶をチビチビ飲む彼がいる
『紅茶の精霊神って言った方が似合いますよね』
ナッツは俺の耳元でニヤニヤしながら言うがそれは彼にも聞こえていたようだな
『聞こえたぞ千剣』
『何も言ってません』
『まぁいい』
ナッツは助かったと言わんばかりに深く息を吐いた
余計な事を言ったお前のせいだぞナッツ
1本道の廊下が十字に交差する場所に着くとタツタカは迷わず真っすぐ歩き出す、すると俺は奥に天井に何かが張り付いているのを見つけ、皆に止まるように指示をした
『何が見えるんだい?』
マルスが声をかけるが俺は手を下に振ってしゃがむようにモーションして見せるとそれを理解した皆が静かに息を潜めてしゃがみだす
100mも長い廊下だが一番奥の天井付近に魔物の姿が見えるんだよね
気配は感じないけども天井に何かがいる、そこの天井だけやけにブレているのだがステルス迷彩スキル持ちの魔物と思える
まさか…だが
『インビンジブルというカメレオン種の王がこの島に上陸した時に何度かお前らは見ただろう?』
ゾロアが小さい声で説明してくれるが嫌な予感的中だ、しかも話だと見つかると仲間を呼ぶ危険もあるんだとか
強さはランクAは確実と言われているがそれを素早く倒すのはこの距離だと困難だ、我儘言うとあと50m進みたい
もしかしたらあちらからこの距離も難なく見えるかもしれない不安が俺を襲うと直ぐに全員を下がらせ、先ほどの十字の分かれ道の影に隠れた
『どうするジャムルフィン』
カールがキョロキョロと四方を気にしながら話しかけてくる
『おびき寄せる』
『それしかあるまい、お前の銀彗星でもあの距離は無理か』
『いける、だけども急には止まれない』
『車みたいですね』
タツタカがなんか囁いてるが、無視しとくか
『この十字路まで誘導するが誰かいい案無いか?どうやったら勘繰られないで誘導できる』
するとモリスが元気よく自身の胸をドン!と叩き、格好よく思えない言葉を口にしたのだ
『僕に任せて、だびゅんいける』
噛んだことは忘れて上げよう、彼の足が震えてるし頑張ったんだんだ
モリスの肩を軽く叩いて頷くと彼は深呼吸を2回ほどしてから道の中心で床に座ると何故かインビンシブルがいる方向に顔を向けて横に寝そべったのだ、それにはコットンとバニアルドが凄い首を傾げている
『気でも触れたかモリス』
『何か悩んでるのモリス?』
バニアルドとコットンの言葉にモリスは遠い目をするが直ぐに彼は気持ちを切り替えると彼の考える誘導を俺達に見せたのだ
俺はその方法に言葉が出ない程、ただただ彼を見つめることした出来なかった
陸に上げられた魚のように床にビタンビタンとさせ、彼は口を開く
『打ち上げられた魚!』
『そのまま死ね』
コルヴェールによる無慈悲な言葉がモリスの心に深く刺さる
子供しかしないであろう一発芸に誰もが彼の評価を下げようとした瞬間、動きがあった
『シュロロロ』
カサカサと音を立てて何かが近づいてくる
俺たちが向かいたい方向からだがインビンジブルだ、まんまと子供の一発芸に誘われた魔物は分かれ道の中心で必死にビタンビタンしているモリスの声に気が付いて近寄ってきたのだ
『打ち上げられた魚、打ち上げられた…魚、打ち上げ…られ…』
近づいてくる音が近付いてくるとモリスの一発芸のキレが落ちていく
そろそろかと思いながらハルバートを構えると合図をモリスが口にした
『助け…!』
彼が口を開くと同時にカールとミミリーが素早く顔を出す
俺もモリスの前に出るがステルスを切っているインビンジブルが天井に張り付いたまま長い舌を10メートル先から伸ばしていたのだ。
全身が赤く、黒い斑模様のカメレオンだがデメキンのような目が左右2つずつある
『ふん!』
俺は伸びてくる舌をハルバートで突くと舌から血を流し、舌を戻し始めるがその頃にはカールとミミリーが奴の目の前にいる
『たのむよー』
ミミリーが口を開きながら走って跳躍すると体をキリモミ回転させ、両手に持つ双剣を使ってインビンジブルの体を切り刻んだ
『わかっている』
カールは先程の彼女の言葉に返事をしつつも跳躍し、インビンジブルの顔面に片手剣を深々と突き刺したのだ。
不気味なカメレオンは天井から落下すると最後の抵抗といわんばかりに口から唾液をカールに吐くが彼は素早くそれを避けると後ろにいた俺はモリスの腕を掴んで横に避けた
『それ!』
ミミリーがインビンジブルの背中から頭部を双剣で串刺しにするとそこでようやく倒しきることができた
『案外いけるものだな』
『そだねー』
カールとミミリーが口を開く
モリスは泣きそうな顔でホッと胸を撫で下ろしている
一番奥の部屋が休憩室、後ろから魔物の気配が近付いてくるのを感じると足早に廊下の奥に小走りに移動し、ドアをゆっくり空けたのだが中は真っ暗であり、照明は死んでいる
全員が入るとヘクターがドアを閉めるがそれによって真っ暗だ、誰も迂闊に動けない
『コットン、頼む』
『任せなさいっ』
俺は彼女に頼むと手の平に小さな火を発生させ、部屋を照らすとバニアルドは近くの椅子に座りながら口を開く
『散らかってんな』
床はモノが散らかっており、壁際の本棚は見事に倒れている
埃臭くないのはきっと換気口が動いている音がするのでそこは生きているのだ
7畳ほどの部屋の奥はドアが1つ、その隣にドアのない部屋がある
バニアルド、モリス、コットンは足元に気をつけながら歩き、奥に向かうとドアのある部屋を開けるとそこは完全にトイレだ
軍事施設のトイレとは違って綺麗だ、ドアのない奥の部屋はベッドが2つと横にはキッチンやそこで使う道具類が棚に乗っているが大半が棚の中で倒れている
『危ねぇ地の中じゃここは高級宿に見えるぜ』
クズリはそう口にすると床に散らばるモノを避けながら壁際に座り、目を閉じた
『父さん?』
『休めるときに休むのが基本だ、たとえ10分だけでもな』
その言葉に共感を得たのか、モリスは入口ドアの横に座ると近くに落ちていたカップを拾い上げる
『お腹すいた』
全員そうだろうが暫くタツタカと共にこの部屋の中を調べても食料らしきものは見つからなかった
今日は飯抜きかとグスタフは溜め息混じりに吐き捨てる
数十分かけ、カールは床を歩きやすくするために壁の一面にゴミを寄せるがミミリーや俺、そしてマルスがそれを手伝っているとヘクターは廊下に出るドアに耳を立てながら此方を見ると口に人差し指を立てた
全員が静かにするとあの飛行音が聞こえてくる、オメガ・トゥテラだな
『勘弁してほしいぜ』
グスタフはしかめっ面で囁く
ドアの先からは徘徊するように何度の飛行音が行き来しているが鍵は閉めてるし入っては来ない筈、あいつ手がないもん
『ここで休むことになるな』
『だろうな、迂闊に出れない状況だ』
俺の言葉にアルセリアが答えた
廊下の一番奥の部屋だし出たら進むには戻るしかない
鉢合わせになるくらいならいっそのこと休むか
『皆さん、水はありますので』
タツタカは腕一杯にペットボトル容器に入った水を奥の部屋から探してきてくれた
水分があればなんとかなると安心を浮かべるとタツタカの腕からペットボトル容器が1つ手元から落ちていく
大きな音はたてれない、ヤバイと思い、それをキャッチしようとすると俺が動く前にゾロアがそれを掴んだ
『無理に持ってこなくてもよかろう』
『す…すいません』
皆に水が渡されると誰もがグビグビと飲んでいる
以前見つけた水は飲みきっていたからな、喉が渇いてたんだ
『交代で休もう、タツタカ達とマルス、アルセリアにヘクターは先に休んでくれ』
『いいのかい、ジャムルフィン君』
『それまで残りの者で見張りをする、何時間にしような』
マルスと話しているとゾロアは『3時間』と答えた
こんな場所でゆっくり寝れる筈もなく、誰もが否定を口にしない
『オイラ先に寝る!』
彼は欠伸をするとテクテク歩きながら奥の部屋に消えていく
アルセリアやマルスも少し疲れている顔を浮かべている、何も言葉を口にせず向かう姿がそれを感じさせるよ
『すいません、頼みますね』
タツタカが眠そうな顔で俺に話しかけてくる
『大丈夫だ、少ない睡眠時間だがこれから寝れるとは限らない、最後だと思って覚悟していた方が良いかもしれない』
『慣れてます、魔族都市では目を充血しながら奮戦しましたから』
彼が苦笑いを見せながらそう告げるとコルヴェールが笑いを堪え始める
ゾロアも何やら顔を壁に向けているが、体が小刻みに震えてる
『何があった?タツタカ』
『聞かないで…』
彼は脱力を見せるとゾロア達と共に奥の部屋に歩いていく
今この部屋にいるのは俺、グスタフ、ナッツ、ルルカ、カール、ミミリー、バニアルド、モリス、コットン、クズリ
みんな床に座ってのんびりしているがクズリは胡座を掻いたまま寝ている様だ
しかし誰も彼に何も言わない所を見るとそれなりに彼は独特な信頼を得ているのだろうな
場数はここに居る誰よりも遥かう上なのだから
『ジャムルフィン、廊下でオメガ・トゥテラちゃんがまだ散歩してるわよ?』
『ルルカ、前々から知っていたけどもお前肝が据わってるな』
『あら?誰の娘だと思ってるの?』
『忘れてたよ、あの人の全てを知っている訳じゃないが多分ルルカは結構似てる』
『そうねぇ、お母様も来ればよかったのに』
グスタフが顔を横に高速で振っている、ルルカやナッツがそれを見ると小さく笑う
下手に動く事も出来ないが寝なくても動かずにジッとしながらそれなりに体を休めることは出来る
『何事も起きなきゃいーねー』
『そうよね、普通の魔物と戦いたいわ』
『コットンちゃんはしょうがないよ、技や術耐性バッチシなオメガ一家がいるなんて誰もわからなかったんだし』
『もう案山子よ案山子、魔物相手なら頑張っちゃうんだから』
ミミリーとコットンが楽しそうに小声で話している
まぁ何事も起きなければいいのだがな




