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#03 【寄生虫/Parasite】

 岩なのに脳ミソと言うのも妙な話だが、ともかくRは、大自然が如きふたつの脈動を脳裏に焼き付けていた。


「あの……、Rさん?」


 心配そうな様子の水脈に、Rは頭を切り換える。


(おお、何だ。どうしたよ?)

「えぇっと、実はあたしの友達が、タチの悪い3人組に絡まれてまして」

(あ~……。下らねぇガキどもサイバーギャングか)


 Rは全身で頷くと、その勢いでぐるりと戻ってみせた。

 マホロバという名の仮想現実では、多彩なテクニックとスペルが操れる。楽しむ分には素晴らしいが、それに伴い、「力が強くなった」と勘違いして暴走する輩も多い。

 とりわけ若年層には、実力不足のくせに「見えざる手アダム・スミス」並みの力を騙るホラ吹きが掃いて捨てるほどいる。そういうロクでなしが、サイバーギャングと呼ばれていたのだった。

 奴らはたいてい徒党を組んでおり、用事もないのにマホロバをブラついている。そして、弱そうな人間を見かけるや、迷惑行為に勤しみハシャぎ回る。マホロバ全体が胡散臭く見られる要因のひとつであった。


(いいぜ、お話ししてやるよ。どこだ……っと、ああ、アレだな)

「え?」


 水脈に先んじて、Rは〈羊人〉スノーシープの少女が駆けてくるのに気が付いた。外ハネ気味のショートボブからは羊の巻き角が出ており、手首や胸、そして腰には白金のふわふわした羊毛がついている。かねてより、羊の触感には定評があったので、彼女の綿菓子みたいな毛並みなら、至福のモフモフが味わえるだろう。


「待てえっ!」


 対して、彼女を追ってきた三人は、〈狼人〉ルナウルフ〈竜人〉ドラゴニュート〈虎人〉タイガーファングという怪人どもだった。いま来た羊のように、人体に動物のつけ耳程度といったパーシャルタイプにも出来るはずだが、三匹とも獣人&爬虫人のプロトタイプにしている。有り体に言って、「そっちの方が恰好いいから」だろう。

 ――やれやれ、センスがガキだな。

 現実年齢の伏せられた三匹の歳を、Rは十代前半と推理した。


「おバカ、水脈!」


 駆けてきた羊の少女が、水脈に怒りをぶつける。


「言ったでしょ! なんで【終了】クウィットしてないの!?」

「だって、バジルが心配だったんだもの」

「もう! 大丈夫よ、私は!」


 息を弾ませたスレンダーな羊少女から、フワリと馨しい風が薫る。【芳香】フレグランスだろう、これはたしか白檀だったはずだ。

 こういう細やかな魔法ってのは、使い手の性格がもろに出るよな、クンクン。

 岩のRは、心の鼻孔から濃密な匂いを嗅いでいた。

 羊少女に注目したため、上部に吹きだしが展開する。


(こっちもリアルで15才か。名前は……、ええっと、バジリスク・メボウキ・ジェノベーゼ……? 長ぇよ)


 あと、バジリスクってたしか石化させるナマモノじゃなかったか? いいのかよ、仔羊ちゃん。

 Rは少女のネーミングセンスに若干の疑問を抱きつつも、手早く《魔力視覚マナサイト》でスキャンした。

 姿と同様の白いオーラは、魔力が減少しており如何にも弱々しい。展開していたであろう補助呪文も軒並み剥がされているため、先の余裕は水脈を安心させるための強がりで、実際は、そろそろ撤退を考えていたのだろう。


「水脈こそ、どうやって竜を倒したの?」

「Rさんに助けてもらった」

「あ、このお岩さんね」

(おい、やめろ)


 祟るぞコラ。

 Rはごろごろっと転がり、羊娘の横に回り込んだ。


(Rでいい、Rで。ところでバジリスク)

「何でしょう? もしや、一緒に戦ってくださるとか?」

(いや、ガキ共のお守りは俺だけで充分だ)

「えっ? ですが……」

友達ダチが気懸かりなんだろ? 庇ってな)


 Rはバジリスク達の前に回ると、敵三人を出迎えた。


 ※  ※  ※


【寄生虫/Parasite】

黒/レベル2/ロークラス

分類:ユニット(虫)

攻1/速3/生1

サイズ:小

特徴:《快速:3》《同時召喚》

能力:対象に取り付くと、対象の魔力回復量が半減する。

能力:対象に取り付いている間、本来のダメージを与える代わりに、ライフとマナに1秒で1点ずつ与えることができる。

「敵だと厄介者だが、味方でも随分ご厄介になる」  ――バロウズ、ヴェスパーの商人

234/365

収録版:DS、改訂版


 ※  ※  ※


(おい、手前ェら。3対1で攻撃たァ、恥ずかしくねーのか)

「うっせぇ、石!」


 銀ピカの胸甲をつけた狼が、【誘導爆弾スマートボム】をマナップしてきた。射撃呪文の中では随一の命中補正を誇るが、それに胡座を掻いているせいか照準が甘い。

 Rが素早く後ろに2回転すると、爆弾は眼前のアスファルトに当たり、周辺1mほどを吹き飛ばすに留まった。


(おう、最近は地面を抉るのが流行ってンのか?)

「うぉっ! ウゼェな、石のくせに! 当たって砕けろよなー!」

(何様だお前は)


 やれやれ、相当若いぞコイツ。行儀の悪い犬だし、躾けてやるか。

 Rは体をグラグラと揺すってみせた。これでも一応、ほぐしているつもりである。

 ――さてと、ここで大事なのは確認だ。いくら奴らの頭と口が悪かろうと、実際は根っこの深い問題があるのかもしれねえからな。ほいほいタコ殴りしてたら、後で平謝りするハメになっちまう。きちんと事実関係を問い質しておくのは重要だぜ。


(よォ、お前ら。なんで彼女達二人をつけ回してるんだ?)

「俺が腕試しに辻斬りしてたら、この羊が勝手に出てきやがって、邪魔だって攻撃したら不意打ち食らわされたから、一旦帰ったんだよ」


 ――どうしよう、羊の全面勝訴だった。

 Rは加害者の自白に呆れつつも、愛らしい羊にノされるヘボ狼をちょっと想像した。


(ぷ、ダセェ)

「うっせぇ! そんで、今度は臥龍がりゅうとやって来たんだよ」

(なに……?)


 自慢気に後ろの大トカゲを指し示す狼に、話の流れが読めたRはドン引きした。


(うわあ~……。お前ら、2対1かよ……。しかも、そこまでやってまた・・負けたのかよ……)

「ちっげーよ! まあ、シブとかったから、今度はスマトラも連れてきたんだ」

(は~ぁ……。スゲェな、スゴすぎるぜ……)


 どう考えても惨めったらしく負けているのに、往生際が悪く認めようとしない。それどころか、更に仲間を増やして襲い掛かる始末。

 あまりの腐りっぷりに、Rは不覚にも感動してしまった。


(お前ら、清々しいまでのクズだな。親は泣いてるぞ)

「ゥルッせえよ!」


 反応がやっぱり若い。ガタイを良くして虚勢を張る様子からしても、十才そこそこだろう。

 ――ってか、この幼稚さで俺より年上だったら、マジで引導渡す。


「臥龍、スマ虎! 作戦アルファ、『ドラゴン・トライアングル・スター』だ!!」

「「おう!!」」


 本人達は恰好いいと思ってるであろうダサい作戦名を叫ぶや、狼どもは呪文の光を放ちつつRを囲むように三方に散った。三コマ経って〈竜人〉ドラゴニュートが緑竜を召喚し、〈虎人〉タイガーファングが紫竜を召喚。そして、目の前の〈狼人〉ルナウルフが真っ赤な竜を召喚する。


(ああ、デッキ内容は把握した。狼、手前ェが銀竜を出したな?)

「お、よく分かったな?」

(なーに、尖ったデザインが屑のお子様御用達クソガキホイホイだったモンでよお)

「へっ、言ってろよ!」


 大柄の三人と、さらに巨大な竜三体に囲まれ、動ける範囲が一気に狭くなる。


「そっちがベラベラ喋ってる間にこっちも魔力を回復させてたのさ! ほら、謝るなら今のうちだぞ!?」

(んー、参ったなあ)

「はははっ! だろっ!? ほら、石! もっとしっかり謝れよ!」

(いやはや……。俺に都合が良すぎて、実に参った)

「へっ?」


 自身の岩影で死角を作ったRは、黒魔法を放った。


【絶滅】イクスティンクション


 効果は覿面。呆気に取られる三馬鹿を尻目に、Rは一瞬で三体の竜ユニットを葬り去った。そのまま、紫竜を出した虎に向かって勢いよく回転する。


「う、うわぁ!」


 浮き足だった虎は、【エーテル産出イールドオブイーサー】を四連発する。魔力が瞬く間に補充されるが、思う壺だ。


(ありがとよ、鴨ネギ)


 ゴスッと派手にぶつかりざま、黒い光を発散。【魔力奪取ドレインマナ】を通す。


「うわあっ!」

「! スマ虎!?」


 発動条件が「接触」なのは厄介だが、自身の魔力を減らさずに相手のだけ削るあたり、実にR好みの呪文だ。

 ――しっかし、さっきからヤケに早く呪文が撃てるな。いつもは気怠い魔力疲労も、すぐに回復するし……。やっぱ、バージョンアップで変化したのか?

 ともあれ、一瞬で頭を戦闘モードに戻したRは、すかさず【無の領域ナルフィールド】を展開した。一切の呪文影響を排除できるレベル4の黒魔法で、範囲内では魔力が回復しないという効果も併せもつ。常に自分中心で撃つ必要があるのが欠点だが、相手がデカい呪文を唱えたあとに巻き込めば、大抵次の攻撃が止まって面白い顔を披露してくれる。早い話、R好みだ。


「え……? あっ、あれ……?」


 まさに今、取り乱した大トカゲがマナップを繰り返していた。魔力を増やそうと【生の躍動エロス】を使ったのに、あえなく不発だったためだろう。

 本来の効果は、自身が緑魔法を使った直後に、1つ分魔力を回復できるというものだ。緑の1レベルにしては破格の瞬間魔法で、きわめて優れた呪文なのだが。


(あのな、臥龍……。【生の躍動エロス】も、魔力を回復・・だろ)

「――あぁっ!」


 元々緑だったトカゲの顔がサーッと青褪める。使い手がドジだと魔法が泣く一例だ。

 ちなみに、紫6の【エーテル産出イールドオブイーサー】ならば、体外から魔素エーテルを「取り込む」という処理のためマナを増やせた。虎は4発とも使用済みなので関係ないが。

 デッキに投入できる同名魔法は基本4枚、リキャストタイムも三十秒間えいえんのため、相手の魔力を削って倒すRの「マナ・ゼロ戦法」に、滑稽なほどハマっている。


(オイ、負け犬ども。俺が相手でツイてたな。半殺しにされる前に、尻尾を巻いてとっとと失せろ)

「な、何がだよ! こんなモン、効果範囲の外に出りゃ簡単に……」

(おぉっと、戦うために出るんだな?)


 Rは念を押した。


(戦闘続行ってことは、マジで俺とやり合うって意味だな? 即刻ツブしとけってほどのクズだったから、俺としちゃァむしろ願ったりだが……。言っとくが、俺はガキにも平等だぜ? つまり、『許して、ごめんなさい』は聞かねえってこった。岩にゃあ耳なんざねえし、当たり前だよなァ? それでもいいなら、かかってこいや)

「も、もうよそうよ、フェンリル……」


 〈竜人〉が狼のソデを引っ張った。――にしても、フェンリルて、お前。ィャ、臥龍も大概だったけどよ。


「なんか、この岩の人、超強気だし、ヤバいよ……。俺、帰りたい……」

「そうだよ、それに『R』とか付いてるし、多分、『虎馬コンビぐらい強い』って言われてる、あのRじゃないかな」


 お、スマ虎ちゃんは電脳のウワサ話もちったァ知ってるらしいな。ハァ、やれやれ。こんなガキんちょどもにまで知られてるとは、有名人はツラいぜ。


「バッカ、お前ら。Rってたしか、『オマケのR』で有名な奴だろ?」

(あン?)


 Rはクソ狼の方にごろりと方向転換した。


「死んだって噂だぜ? いるわけねーじゃん」

(おい待てコラ)

「えーっ? 違うってばフェンリル。それに、オマケじゃないって」


 そうだそうだ、頑張れスマ虎。

 頭を捻って思い出そうとする愛らしい虎小僧を、Rはごろっ、ごろっと頷いて応援した。


「えっと、たしか……」

(うん、うん)

「そうだ! 『大負けのR』だったよ!」

(ウオーーイ!!)


 スマ虎ちゃーん!?

 無かったけどーっ!? そんなアダ名、無かったハズだよねー!?


「あっ、そーだそーだ! 大負けのRだ!」


 合点がいったと言わんばかりに馬鹿笑いをする狼に、竜と虎も追従した。

 そのハシャギっぷりを、Rは上の空で聞いていた。ごろ~りと、体全体を傾ける。あまりにも傾けすぎたため、ついには一周してしまったほどだ。

 ――ブチリ。

 へへっ……。人が殺意を覚えるのに、あんまり理由っていらねェよな……。


(おいガキ、気が変わった。今すぐブチのめすから歯ァ食い縛れ)

「はぁ!? なんで!?」

(うるせえ! ワガママはガキの特権じゃねえぞ!!)


 即座に【無の領域ナルフィールド】を解除したRは、続いて【夜】ニュクスを展開した。ガキ三人を中心とした半径10mが、濃密な墨色に覆われる。

 くけけけけ……。ガキどもめ、【闇】ダークネスを消すには【ライト】と分かっても、コイツには対処できねぇだろ。なんせガキってのは巨大ユニット大好きで、補助魔法なんざ目もくれねぇもんなァ。

 案の定、三人は【夜】ニュクスを消せずにギャーギャー喚き散らしている。

 Rは内心舌なめずりをしながら、少し距離を取って《人間変身トランスフォーム》を使用した。先程は火照りを覚えさせてくれた美女の裸体だが、今は屋外活動のためか若干肌寒い。

 さーてと、やっちまったぜ公序良俗違反スッポンポン。まあ、見そうな奴は羊娘バジリスクだけだし、問題ねえよな? うん、OK。

 Rは自分への承認用にOKサインを作ると、銀のマナップで【カルイザグラスィズオワの眼鏡ブカルイザワ】を唱えた。ミラーシェードを手元に出すとすかさず装着し、赤外線視覚インフラビジョンのモードで三馬鹿を捉える。マヌケな三匹は、何やら揉めているようだ。

 おーおー、お前ら仲違いか? 余裕だな、オイ。

 Rは【寄生虫パラサイト】を三匹召喚して、素早くガキどもの背後に陣取らせた。人型だとマナップが出来ることもあり、ターゲット指定が格段に早い。

 なんだぁ、全然疲れねえ? 絶好調だぜ……と。

 Rは、狼が繰り出した赤竜を【狙撃スナイプ】で瞬殺した。

 ――へっ、虎が【魔力譲渡わたした】か……。ヌルいぜ。

 Rは【武器作成クリエイトウェポン】で全長5mのハエ叩きをこしらえた。名称は「ベルゼブブバスター」。柄の部分だけが異様に長い造型で、鞭より圧倒的に取り回しが容易なうえに長槍よりも遥かに軽量という、珠玉の逸品だ。

 いやぁ~、コイツを初っ端に考えた匠には惚れ惚れするな~、くはははは……。

 Rはハエ叩きを持ってスナップを利かせると、唇を湿らせた。

 さ~て、ハエども? いい声で鳴けや~。

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