#04 【武器作成/Create Weapon】
固まってまごつく三馬鹿の腹に向かって、Rは超々長柄のハエ叩きをヒュンヒュンとしならせた。
パン、パン、パンッ!
「いてっ!」「ってぇっ!」「痛っ!」
仲良く悲鳴を上げたので、ありがたく【寄生虫】達の待機を解除。ターゲット修正で細かく指示を飛ばす。
全員俺に向かって鳴いたな……。とすると、「この辺り」か。
はしっこいパラサ達を、丁寧な仕事で三馬鹿の「背中」に取り付けていく。
「おい! 何してんだよ!」
「うンっ? 取り憑かれたら死ぬまでダメージの入る奴を引っ付けただけさ。お前らの『腹』にな」
「えぇっ!? って、あれっ!? お前、なんで声が!?」
「ふっふ~ん。本気モードじゃ♪」
5mハエ叩きを構え直し、パパパーンとお茶目に腹をはたいてやると、またもや三馬鹿の不協和音が奏でられる。
「ほーらほーら、闇企業オリジナルの、謎の魔法だぞー。取り憑かれてる間は【終了】出来ないよな~ぁ? 早く取らないと、死ぬぞー。じわじわと、死ぬぞー」
「うおおぉおおぉぉーーい! いぃいま、腹に直撃したよな!? いいぃいねえぞっ!?」
「お、俺もいない! スマ虎は!?」
「こっちもいないよ! で、でも、ダメージは食らってるよね!?」
「フハハハハハハ。謎の魔法で死ぬが良い」
あー、ガキ手玉に取るの、超気持ちいい。
三馬鹿の絶叫をBGMに、Rは悠々とミラーシェードとハエ叩きを打ち棄てると、《人間変身》をやめて一介の岩に逆戻りした。
闇の範囲がスゲー広いと思ってンだろーな、コイツら。これに懲りたら、補助魔法を少しは覚えろ。
Rはゴロゴロと転がって、水玉と羊の元に凱旋した。
※ ※ ※
【武器作成/Create Weapon】
銀/レベル4/ロークラス
分類:道具
効果:武器を一つ作り出す。
二人の男がいた。一人は腕を叩いた。
「俺はどんな武器でも使いこなせる。お前の武器はなんだ?」
「僕はここだ」
もう一人は頭を指した。
64/365
収録版:QE、改訂版
※ ※ ※
(まあ、ざっとこんなモンだ)
水脈もバジリスクも、呆気にとられた顔で棒立ちしていた。手際の良さに驚嘆したのだろうが、いかな美少女達といえど、雁首揃えてポケーッと大口を開ける姿は、いささか間が抜けて見える。
「どーなってんだよ!? 俺死ぬのヤだよ!」
「俺だって死にたくなーい! うわーん!」
「お母さーん!」
ハイ、名台詞いただきました。
奴らが野太い泣き声をオンオン上げたので、Rはさくっと【夜】を解除した。半径10mのドーム上に包み込んでいた闇が消え、【寄生虫】を背中にくっつけた抜け作トリオの姿が露わになる。
ちなみに、Rの【寄生虫】だが、改訂版仕様のチビっこ悪魔で、今もカプッと噛んでチュウチュウ吸う愛らしい挙動を続けていた。Rは元々〈吸血鬼〉だったため、フレイバーにもちょっぴり拘っていたのである。
「あ、背中に【寄生虫】がいる!」
「え!?」
臥龍が最初に気付き、「おい、どこだよどこ!」と三人はぎゃあぎゃあ喚き散らした。何とかパニックの元凶を引き剥がすと、ムキになって踏みつける。
(あ~あ、そんな可愛い生き物を足蹴にするなんて、鬼畜なガキどもだぜ)
「う……うるせぇ!」
狼がRを指差した。
「やい! 卑怯だぞ、岩女!」
(ハッ、どの口が言うか)
Rが水玉と羊の方を見やると、バジリスクはRを見て未だに放心していた。対して水脈は、ガキ共に生温かい視線を向けていたが、寸劇に耐えきれなかったのだろう、クスッと吹き出す。
「すっごく恥ずかしかったわよ、『ボクちゃん』達?」
本心からの言葉は、気持ちを容易に動かすらしい。竜と虎はサッと顔を伏せた。対して、リーダー格の狼は、プルプルと震えだしたかと思うと、見る間に顔を真っ赤にする。
――おお、一応恥の概念はあったんだな。ケモノから迷惑人間へ一歩前進だ、えらいぞ。
「お、おおぉぉぉおおおお……!」
(良かったなあ、人を笑顔に出来て? あ、ちなみに俺は、その「格好いいRさん」とは縁もゆかりもないが、あの人は超絶凄腕の「見えざる手」だからな。断じてオマケじゃないぞ)
「お……おいっ! じゃあ、お前だろ! お前が大負けRだろ!」
(無茶苦茶な理屈だな。仮にそうだとしても、そんな奴に負けたお前は、もっと弱いじゃねえか)
「黙れ! NPCが生意気言うんじゃねえよ! 覚えてろ、クソ大負け!」
弱い犬ほどよく吠える。やっぱり犬だったらしいクソガキは、竜と虎を引き連れてダッシュで逃げていった。
ちなみに「NPC」呼ばわりには、「脇役にもなれない端役のザコ」といった侮蔑の意味があるが、コテンパンにやられた事実を全然覆せていないあたり、返す返すもガキだ。
(よし、これで片付いたろ。また来たら笑ってやれ。石ころにも勝てねえ犬ッコロだってな)
「あ、ありがとうございます」
水脈は深々とお辞儀をした。Rはついつい一部に目がいくが、今度は水際立つような強調はお預けだ。
――ん、早くもワガママボディをものにしたか。喜ばしい限りなハズなのに、何故だかお兄さん悲しいぞ。
「良かったわね、バジル。ほら、お礼しよ」
「――えっ? えぇ、そうね……」
バジリスクは、おずおずとRの前に来てしゃがみ込むと、小声で話し始めた。
「あ、あの……。さっき全身が、その……」
(ああ、やっぱ見えてたか)
そりゃあ入れてるよな。
Rは苦笑した。
〈羊人〉のユニークタレントのひとつ、《真実の眼》。本来は雪原でホワイトアウトを避けるための地味な才能だったはずだが、視界の確保が滅法重要なこのマホロバでは、【夜】を見通し【閃光】にも眩まず、さらには【霧】にも【神秘の霧】にも視界が通るということで、ターゲット呪文を操る者にとっては垂涎のタレントといえた。戦闘重視の人間からしたら、「羊を選ぶ」イコール「《真実の眼》を取る」と同義のタレントである。
(悪い、OK社には内緒にしててくれ。な?)
「――ぇ、様」
(ン、なんだ……? あぁ、可愛い羊のお目々を汚しちまったよな、すまねぇ)
Rが冗談めかして詫びた直後。
「おっ……、お姉様アァーーーーンッ!」
(ハアッ!?)
黄色い声を上げた羊が、怒濤の勢いで抱き付いてきた。Rは虚を衝かれ、でんぐり返った挙げ句にガッチリと裸締めされる。
うおぉっ!? 何だコイツ!? スゲー密着! てか、匂いもスゲーイイ! それにモコモコがっ、モコモコがあぁーっ!!
「凄かったですわ、お姉様ァンっ! まさかあんな御姿を秘めていただなんて、ワタクシ存じ上げませんでした! ァハァ~ン、今日ほど《真実の眼》を持ってて良かったと思ったことはありませんわ~っ!」
(お、おいおい……!)
――うーむ、正直この反応は予想外だった、クンクン。どうすっべ、モフモフ。
Rは白檀の匂いとふかふかの羊毛をしっかりと堪能しつつも、白磁の裸体に興奮した発情娘を如何にして鎮めたものかと、対応に苦慮していた。
くっそぉ、やっぱ【踊る自動人形】オンリーで戦った方が良かったか? でもなー、あいつだけだと、竜三匹相手にはチトしんどかったんだよなー……。
Rはぐらぐらと揺り動かす事でバジリスクを引き剥がそうとしたが、彼女のバランス感覚が秀逸なのか、はたまたRに意外と掴むところがあるせいなのか、抱き込まれた姿勢のまま全く振り解けない。
おおぅ……。バジリスクのせいで石が動けない……。実に伝承っぽいぜ。
(おいおい、バジリスク。慕ってくれるのは分かったから離れろよ)
「あンッ♪ お姉様ったら、そんな他人行儀な。バジルとお呼び下さいませ」
(言っとくが、リアルの俺は男だぞ?)
「またまた、ご冗談を」
(事実だよ!)
のちのち変態扱いされるのはゴメンだと、Rはきっちり申告する。馥郁たる香りと極上の触り心地が続き、なんだか妖艶な全身マッサージを受けている錯覚に陥る。ムラムラしてきそうでヤバい。
ぬ、ぬぅ~……。あと、さっきからこいつ、胸のあたりに何やら妙なポッチがあって、スリスリするたびに当たるんだが……。ま、まさか、「アレ」じゃないよな? バージョンアップ後は何かと「リアルすぎる」から、マジでアレな可能性があって空恐ろしいんだが。
(おい水脈、コイツになんか言ってやってくれ)
「Rさん、駄目です。普段のバジルは空気も読めて凄くいい子なんですけど、気に入った女の子がいると、リアルでもこんな感じになります」
(え、マジで!? なに、男じゃなくて!?)
「はい。標的の女の子とお近付きになって、甘々ベタベタと、所構わずイチャつきます」
(ナニそれ見たい。――じゃなくて、当事者はカンベンしろぃ!)
本当にバジルが離れない。いや、魔法を使えば一発なのだが、まがりなりにも助けた相手の好意にダメージを与えるのも如何なものかと、Rは後込みしていた。断じて匂いと触感にやられたわけではない。断じてない。
「ねえ、バジル」
見かねた水脈が、助け船を出してくれた。
「そういえば、お気に入りのコと、そろそろ会う約束じゃなかった?」
「あっ!」
バジルはRの上でガバッと上半身だけ起こした。卓越したバランス感覚に、Rは内心舌を巻く。
「で、でも……、お姉様との邂逅も大事なのよ! すっごく神々しかったもの!」
「あたしは、その時のRさんが見えてないから、凄さが全然分からないんだけど……」
「あぁん、水脈ったら勿体ない! もう必見の麗しさだったわよ!? 闇の中を一糸纏わぬ姿で直立して、バシバシ技を決めるの!」
「――え?」
「あとね! 呪文発動時のワンフィンガー姿も凜々しかったのよ! 私もツーフィンガーから改宗しようかと思ったほどに……!」
「あぁウン、えーっと、ちょっと待って、バジル」
水脈はRに胡乱な目を向けた。
「あの、さっき男とか言ってましたよね?」
(そうだが)
「――変態?」
(違う! 気が付いたら裸だったんだよ!)
「服ぐらい着られるでしょ、変態! ――ちょっとバジル、離れた方がいいわ!」
「あンっ」
水脈はバジルの背中から抱き付くと、強引に引き剥がしてくれた。
(あのな水脈、バジルを離してくれたのは嬉しいが、あらぬ誤解をしてンぞ、お前)
「変態岩は黙ってて。――ねえ、バジル。こいつ男よ? あんたってば、男嫌いでしょ?」
「もう、水脈ちゃんはオッチョコチョイねぇ。あれはお姉様一流の『ゆ・う・も・あ』。だって、PLの性別が『異性』とも『不明』とも示されてないでしょ?」
「えーっ……?」
水脈が両膝を押さえてRを凝視してきた。吹き出しを表示させたいのだろうが、まだ慣れてないせいか、穴の開くほど見つめている。至近距離で前屈み。それをローアングルの相手にやるのだから、正直タマラない。
――あぁ、お前。ご自慢の「柔らか凶器」がナチュラルに悩殺してきやがって、実にケシカランぞアリガトウ。
Rは即席展開された青い山脈を、脳内の秘密倉庫へと大切に保管した。
ふうっ……。さてと、肝心のプレイヤー性別の設定だが、たしか岩に雌雄を匂わせるのも興醒めだってンで、「不明」にしてたはずだ。ひょっとしたら設定を放ってたかもしれねぇが、そンときゃ必ず「異性」になってる。これは誤魔化しが利かねぇから、今度こそ納得するだろう。
やっとの事で水脈も見えたのか、凶器攻撃を打ち止めにしたものの、しきりに首を捻っていた。
「う~ん……。棒線が一本引かれてるだけだったわ」
「でしょう? つまり同性ってことよ。フッフ~ン、私の《真実の目》は誤魔化せないのよ~ン」
(ちょっと待て、節穴ズ)
Rも手早く確認してみた。すると、たしかにプレイヤー性別の項目は「――」となっている。
ほほぉ、こいつはタマげた。俺は19年間女だったのか。いやン。
(って、違ぇよ! 男だっつーの!)
「も~う、お姉様ったら、冗句がお上手ですわ~」
(バジルうるせえ!)
「うーん……、たしかに反応は男っぽいけど……。本当に男だったら、変態よね……」
(ぐっ……!)
何、この「行くも地獄、戻るも地獄」みたいな状況。
これはアレか、人助けはするなって教訓か?
「さぁさ、お姉様。水脈ちゃんも納得したことですし、今こそ勇姿を御披露目すべきですわ! いざ、《人間変身》で仁王立ちを!」
(しねえよ!)
それこそ変態だろーが!
(ったくよぉ……、どうせお前が見たいだけなんだろ?)
「――エッ!?」
バジルが口元に両手を当てた。
「お姉様、なぜそれを!? ――ハッ! まさか、心を読む変則魔法が!?」
(ねえよ! ってか、そもそも【精神感応】だよ!!)
オンオフの切り替えをミスって秘密がダダ漏れとかな。テンション上がると俺でもヤベーよ。――って、今だよ!
バジルは、先ほど息急き切った時よりも顔を上気させていた。
「じゃ、じゃあ……。助けてもらったことですし、お姉様に何か、お礼の品を……」
胸元で手を合わせ、恥じらうようにモジモジするバジル。床に視線を落とし、チラッ、チラッと露骨に秋波も送ってくる。
「えぇっとぉ、そのぉ……。ワ、ワタクシ、とか……」
(服かな! 服が欲しいかな!)
コイツ今「ワタクシ」とか言ったぞ。すげーな、恋する乙女は無敵か、オイ。
(水脈。お前、友達選べよ)
「だから、恋愛が絡まなければイイ子なんです」
(それが絡んだせいで、俺いまコイツに絡まれてるけどな)
Rは波止場で汽笛を聞きつつ、茜色の海を前に体育座りをしたい気分だった。
(なあ、安物の服でいいんだよ。ねえか?)
「ご安心召されませ、お姉様。不肖、ワタクシめが一肌脱ぎましょう! 何を隠そう、ワタクシの毛が編み込まれた、ウール100%のセーターを……!」
(だから、ねえよ!)
そもそも羊人のモフモフも服だろうが! システム的にありえねーことを言うな!
「ァ~ン、いけずなお姉様ぁ~ン。あ、ではでは仕方ないですわね。今のワタクシの服だと、お姉様のお胸がつっかえてしまいますから、水脈ちゃんの服を進呈しますわ」
「はぁ!?」
思わぬ飛び火に、水玉までもが大炎上だ。
「なんであたしが!?」
「大丈夫、また見繕ってあげるわ」
肩をポンと叩くバジル。
「だから水脈ちゃん。いま着てる服、脱いで」
(ブホッ!)
やべえ、こいつ頭おかしい。
(着てるやつじゃなくていいんだよ!)
「そうよバジル! それこそ変態じゃない!」
「あらン? だって、古着って安物よ? 水脈ちゃんの服って、これ以外全部新品でしょ?」
(――あぁ、うん。正しいけど激しく間違ってる)
こういう商売って裏社会であるよな。古着だけど高く売るやつな。バジルの中では俺が女扱いだから着回しとか問題ないんだろうが、俺は結構気にするタチだ。
(いや、もう気持ちだけもらっとくわ。じゃあな)
「あ~ン、待ってお姉様~」
バジルはRにズリズリと縋りつつ、そのまま水脈のほうを向いた。
「あ、じゃあ水脈ちゃん、貴女用に選んだあのスペシャルな服はどう? あれなら体型も補正されるはずよ」
「えっ、アレ? ――まあ、着てないから、いいけど」
渋い顔をした水脈は、中空に自分の道具リストを展開すると、中から紐つきの紙袋を取り出し、Rに投げやりに差し出した。
「はい、どうぞ」
(サンキュー。あ、俺いま手が出せないから、突っ込んどいてくれ)
「はいはい」
Rは自分のスッカラカンの道具リストを広げようとした。しかし、どういうワケか一向に展開しない。
(あはははは……、まーた不具合かよ。【終了】できねえわ、タンスは開かねえわ、挙げ句にゃ道具リストまでサボタージュってか? 嫌われてンなぁ、俺)
「なんか大変ね」
(オッケー、じゃあもう袋ごと持ってくから、それを引っ掛けてくれ)
「分かったわ」
Rは岩の表面のごつごつした部分に、うまく袋の紐を掛けてもらった。
(よし、助かった。じゃあな)
やれやれ、オカしな奴らだぜ。とっとと去って忘れよう。
別れの挨拶もそこそこに、Rは手近な洋服店へとズリズリ移動したのだった。




