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●マホロバTS ~岩の美女に転生した男、魔法カードで最強の存在となる~  作者: 葦原エイ(旧・ラボアジA)


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#12 【花菖蒲/Iris】

 Rは壁に水脈を押さえつけた。種族差に加えて体格差もあり、右手一本で容易く両手をロックできる。


(口が滑ったな、水脈。――いや、脳味噌が滑っちまった、か?)

「う、うぅっ……」


 必死に身をよじって脱出を図るが、体を寄せて動きを封じる。実は素早く《人間変身トランスフォーム》を解除されたら逃げられていたのだが、気付かなかったらしい。どこまでも素人臭い立ち回りだ。


(そういえばお前、家に来る途中でも妙な反応をしてたよな。映像を見た直後も声を上げたしよぉ)

(うぅっ、クッ……)

(てっきり俺は、「R様がお城住まいじゃないなんて、頗る意外~」とかだと思ってたが、どうやら心得違いをしてたようだ)


 Rは左手で水脈の襟首を掴むと、ぐっと顔を近付けた。


(お前、この家を知ってたな!? 答えろ、水脈!)

(そ、そうよ!)


 水脈はキッと見上げた。


(でも勘違いしないで! 美登里みどりは人殺しなんかしないわ! 渚のことだって、美登里は心配してたから来たのよ! それだけだもの!)

(ほ~ぉ……? だが、俺は御園居みぞのい研究所で殺された。そして、そのバッジを付けた女が自宅に上がり込んでいる。状況だけ見たら真っ黒だぜ)

(それだけじゃ、分から、な……ぃ……)


 水脈の声が尻すぼみになったのは、Rがいよいよ柳眉を逆立てたからだろう。


(答えろ水脈。お前は御園居研究所の関係者か)

(違うわ。美登里の友達なだけよ!)

(ああ……、だろうな)


 Rも、今までの話ぶりからして無関係だろうと考えを改めていた。水脈に迫ったのに、咄嗟に【精神感応・・・・】で出てきたのが、美登里を庇う話だったからだ。

 普通、自分が疑われていると思えば、自分の弁解が真っ先に出てくる。最低でも、何か言及する。

 水脈の場合、それが一切なかった。ないというのは、強烈な無実シロの要素だ。

 また、油断させて寝首を掻くにしても、【精神感応テレパシー】でバラすようなヘマをしている時点で有り得ない。バラさない方が余程やりやすいのだから。


(次だ。その「美登里」とかいう女は何者だ?)

(さっき会ったでしょ。バジルよ)


 ――クソッ、あいつか!

 Rは歯を食い縛った。ひときわ剣呑さが増したことで、水脈がビクッと怯える。こういう反応は人並みらしい。

 横目で見ると、MVマナビジョンでは二人の距離が極めて近付いていた。殺伐としたマホロバとは違い、現実ではいたって和やかな会話が紡がれている。


『ナギちゃんのうなじ、白くてすごく綺麗ね』


 美登里とかいう悪女が、渚の首筋に両手を這わせた。


『スベスベしてて、お人形さんみたい』

『本当に羨ましそうに言うよね、みーちゃん。すぐ日に焼けちゃうから、もっと黒い方が良かったのよ?』


 不平を漏らす渚だったが、実は満更でもないのか、美登里にされるがままになっていた。少女二人によるじゃれ合いの光景キャッキャウフフなど、普段のRなら大好物なのだが、一方が妹でもう一方が毒婦となれば話は別だ。両手で首を撫でるという耽美的な行為が、最早、「いつでもあなたの細首ぐらい絞められる」というサスペンスにしか映らない。


(マホロバに呼び出せ)

(え?)


 Rは水脈を押さえる手にいっそう力を込めた。


(バジルを、ここに、呼べ)

(ちょ、ちょっと待ってよR。あなた、美登里をどうするつもり?)

(安心しろ、犯人かどうかの確認はしてやるさ)

(そ、それはそうだけど……)


 水脈はゴクリとツバを飲み込んだ。


(もし、万一、美登里が手に掛けてたって分かったら?)


 互いに呼吸が浅い。水脈は、それにくわえて体が小刻みに震えている。

 Rは、襟元の拳を強く握り込んだ。首を絞られて苦しそうに呻く水脈を冷徹に見下ろす。


「呼べ」


 水脈は、いやいやと首を横に振るばかりだ。Rの威嚇にすっかり怖じ気付いているくせに、目だけはこちらを見据えて逸らそうとしない。

 ――チッ。大した奴だよ、お前は。この期に及んでまだ突っ撥ねるとはな。

 脅し付けるだけでは時間が掛かると分かったRは、拳を緩め、水脈の両手も解放した。いきなり新鮮な空気を取り込んだ水脈は、ケホッ、ケホッと噎せ込む。


(水脈、お前の気持ちを軽んじていたのは謝るぜ。済まなかった)


 Rは水脈に付けていた【寄生虫パラサイト】も消し、完全に自由にした。


(だが、重ねて頼む。バジルを呼んでくれ)

(そ、そう言われても……)

(妹まで死なせないでくれ!)

(――ッ!)


 全力の想念で懇願するRに、水脈は激しく動揺した。


(俺は死んだ。それは愚か者が死んだだけの、過ぎたことだ。だが、俺をこれ以上の愚か者にさせないでくれ!)

(うぅっ……)

(俺のせいで家族が殺されたら、死んでも死にきれねえっ! 頼むっ! 呼んでくれっ!!)

(くっ……、ううぅっ……。わ、分かったわよ……)


 渚の命と、バジルの命。命の重圧からなる板挟みに、水脈は泣きそうな表情で頭を抱えていた。


(でも……、これだけは絶対に約束して。バジルを殺さないで)

(善処する)

(いいえ、駄目よ……。あなたの言い分も痛いほど分かるけど、それでも、彼女も大切なの……)


 哀切極まる瑠璃色の双眸を、Rは真正面から見つめ返した。

 画面からもたらされる楽しげなやりとりが、ひどく遠くのものに聞こえる。意識が向いていないからなのか、それとも、もう二度と行けない世界だからなのか。

 マホロバは、拡張現実のマジカルドーンが発祥ということもあり、すべてが仮想現実になった今も現実世界を模して作られている。MVマホロビジョンを見れば現実の様子が見られるし、音声も聞こえる。なんなら会話すら出来る。

 けれども、電脳の壁は越えられない。――決して。

 現実世界でどれだけ家族に危害が及ぼされようとも、マホロバはあくまで異世界。データだけのRでは、傍観者になるしかないのだ。


(分かった)


 Rは厳かに頷いた。


(万一の時は、無力化するに留めて、司法に任せる)

(それなら……いいわ)


 すっかり憔悴した様子の水脈は、自身のインベントリから電話を出した。


(いいか、水脈。マジで呼び出すだけだぞ。余計なことしたら……)

(するわけないでしょ。渚だって友達よ。美登里と同じくね)

(――あぁ)


 こめかみを手の付け根でガツガツと叩いたRは、大きく息を吐いた。


(すまん)

(大丈夫、分かってるわ)


 クシャクシャになったポニーテールを解いた水脈は、手櫛で髪を梳きながらバジルを呼び出した。


 ※  ※  ※


【花菖蒲/Iris】

紫銀/レベル2/ミドルクラス

分類:ユニット(精霊)

攻1/速4/生1

サイズ:中

能力:準備時間を一瞬にして発動することが出来る。その場合、半径10m内にいる、自分の所有ユニット以外の1体に姿を変えられる。2秒後、スロットに使用済みの状態で戻る。

特記事項:紫と銀を1レベルずつ持つ呪文とみなす。

「すれ違う前に話を交わすの。そうすれば、心が通わせるわ」  ――イリス

53/116

収録版:EV


 ※  ※  ※


 場違いなほど軽快なコール音が鳴り、映像の美登里が端末を操作した。


「もしもし、水脈だけど」

『あ、水脈ちゃん。どうだった、お姉様は』


 どうやら、本当に美登里イコールバジルらしい。喋り方が若干違うが、ショコラ同様にキャラを作っているのだろう。電話と映像の音声が被ってステレオに聞こえる。


「実はね、そのお姉様だけど、今すぐバジルに会いたいって言うの」

『え、嘘!?』


 美登里の声が上擦る。


『そ、そんな……本当に?』

「本当よ。そっちも用事があるでしょうけど、どう?」

『ええっと……。じゃ、じゃあ、ちょっと待っててもらって……。ナギちゃん!』


 美登里はそのまま渚のほうを向いた。


『実は、さっき話してたお姉様が、今すぐ会いたいって』

『えーっ! 滅茶苦茶ラッキーじゃない! いいわよ、私の“まゆりん”を貸したげる』

『ありがとう、ナギちゃん』


 美登里が電話口に戻った。


『水脈ちゃん、大丈夫だったわ』

「ええ、じゃあ待ってるわね」

『場所はさっきと同じ?』

「あ、えっとね……。実は、ナギの自宅まで来てるの」

『えぇっ!? じゃあ、本当に会いに来てくださってるのね。すぐ行くわ』


 電話が切れ、Rは水脈とともに屋外へと場所を移した。1秒が1コマになり、体が軽くなる。

 Rは用心のため、【衛星球タクロー】をマナップした。フヨフヨと100mほど上空に浮かべて警戒状態にさせたころ、バジルが家の前に【開始スタート】して現れる。


「ハァ~ンッ! やっぱりお姉様にぴったりのバニーコートですわ~!!」

「ありがとよ、バジル」


 《魔力視覚マナサイト》を発動させたRは、白いオーラのバジルに悠然と近づいた。1秒の待機時間むてきじかんが明けるや、胸の羊毛をガバッとめくり上げる。


「お、お姉様……? 最前と違って情熱的なのは喜ばしいですけど、水脈ちゃんが見てますわよ?」

「見せつけてやるよ」


 ひん剥いた先には、新雪のような柔肌によく似た、乳白色の全身タイツがあった。慎ましい胸の膨らみには緑のバッジが留まっている。M字に真一文字の線が通った、忌まわしきマークだ。

 ――なるほど、スリスリしたときに当たってたのはこいつだったって訳か。チッ。

 手を離したRは、維持していた【精神感応テレパシー】をスピーカーで使用した。


(バジル。そのバッジはどこの物だ)

「え?」


 戸惑いながらも、バジルは【精神感応テレパシー】をマナップして応じた。


(これは、わたくしの敬愛する叔父様の会社、御園居研究所のバッジですわよ)

(そうかい)


 言質を取ったRは、スピーカーをオフにして【寄生虫パラサイト】を出現させた。短兵急な仕事ビズモードに、バジルは息を呑む。


(お、お姉様? いったい何を……)

(バジル。お前は二週間ほど前、御園居研究所で起きた事件を知ってるか?)

(えっ? えぇ、あらましだけは。Rとランペルという二人組がうちに忍び込んだものの、追い払ったと聞いておりますわ)

(なるほどな)


 現場には居なかったか。

 Rは、最悪の事態は回避できそうだと分かり、胸を撫で下ろした。


(バジル。お前が今言った「R」ってのは、俺のことだ)

(え?)


 目を瞬いたバジルは、すぐさま一笑に付した。


(お姉様は、悪事を働くような方ではございませんわ。正義の味方ですもの)

(そいつは買い被りすぎだぜ)


 Rは首を撫でつつ、【寄生虫パラサイト】をバジルの右肩に留まらせた。


(実はな、俺の正体は「見えざる手アダム・スミス」だ。とある会社から盗まれたパクリ呪文を摘発するために、御園居研究所へと出向いたんだよ)

(えぇっ?)


 バジルの顔が強張る。


(あの、お言葉ですがお姉様。叔父様の会社は……)

(そして)


 Rは構わず続けた。


(返り討ちに遭って命を落とした。二週間前の、4月19日にな)

(――まさかッ!)


 口を覆ったバジルは、縋るように水脈を見た。


(う、嘘でしょ、水脈ちゃん……? 『死んだ』っていうのは、お姉様の冗句よね?)

(いいえ、バジル)


 水脈はゆっくりと頭を振った。


(あなたと別れた後、Rの先生って呼ばれるOK社の人にも会ったわ。どうやら、本当みたい)

(OK社の……)


 バジルの体は小刻みに震えていた。大方、「死者を蘇らせるシステム」の噂は本当だったとでも思ったのだろう。


(そ、それじゃあ……、叔父様が仰っていた、「追い払っただけで殺してない」という話は、嘘……?)


 覚束ない足取りで後ずさったバジルは、怯えた目でRを捉えた。浅い呼吸を繰り返しつつ、幻想的なプラチナブロンドの髪をくしゃりと押さえる。


(だとしたら……。お姉様の名前にある「R」は、叔父様の会社に侵入した「見えざる手アダム・スミス」の一人、コッペリアマスターのR……!)

(おう、そうだ)


 やれやれ、今日初めてマトモな二つ名で呼んでくれた奴が敵とはな。Rはほろ苦さを覚えつつ、かすかに笑みを滲ませた。


(お……、お待ちください、お姉様。えぇと、御園居研究所は呪文開発こそ行っておりますが、OK社に認められている範囲でだけ制作している、真っ当な会社ですわ)

(なるほど、そういう対応かい)


 問答無用とばかりに、Rは【寄生虫パラサイト】をバジルの背中に滑り込まそうとした。


(駄目よ、R!)

(あァ?)


 水脈がいきなりRの腕を引っ張った。


(殺すのは、絶対に駄目!)

(しねえよ。魔力だけ絞るんだ。豹変されると厄介だからな)


 水脈を振り払ったRは、改めて【寄生虫パラサイト】に指示を飛ばした。しかし、バジルは展開した道具袋から細身の片手槍を出しており、肩の【寄生虫パラサイト】を一撃で仕留める。


(ほお……なかなかやるな)


 直線的だったとはいえ、動きの速い【寄生虫パラサイト】を退治され、Rは指をポキポキと鳴らした。


(大人しく尋問される気はねえってことか、バジル?)

(えぇ。――恐れながら)


 青褪めるを通り越して顔面蒼白となっていたバジルは、祈るように槍を持っていた。


(まだ混乱しておりますが、叔父様の会社から見た場合、お姉様こそ招かれざる客だったのですから。無論……抵抗いたします)

(そりゃそうだ)


 敵の話を鵜呑みにする奴はそうそういない。Rはさして怒るでもなく頷いた。


(ところでお前、俺が三馬鹿と戦ってた時、【夜】ニュクスの内側でストリップショーを堪能してたよな? そのとき、俺の呪文発動の速さにも気付いたはずだ)

(もちろん。変則呪文イレギュラーですわね?)

(そうだ。お前ンとこの会社がパクッた呪文のな)

(その点は齟齬がございますわ)

(ほお。それじゃあ意見を戦わせるか。――こっちで戦ってからな)


 Rが拳を振ってみせると、バジルは神妙に頷いた。

 幾度も通った軒先の道を、心悲うらがなしい風が吹く。RがOKサインを作り、バジルも同じく身構えたとき。


(R!)


 間抜けなタイミングで水を注した〈水玉アクア〉に、Rは舌打ちした。


(いい加減にしろよ、水脈?)

(約束は、守ってね)

(分かってる。殺さねえよ。――お前には、ちょいと殺意が湧いたがな)


 ったく、焼け石に水ってのは、本来効果ねえハズだろ? 穿ちまくってるぞ、この雨垂れ。

 Rがぞんざいに頭を振ると、バジルも少し緊張が解れたのか、クスリと笑った。


(随分と仲がよろしくなられたのですね。ちょっぴり妬けますわ)

(ほざけ、余裕だろ)

(もちろんです)


 哀しくも妖艶な笑みを湛えるバジルに、Rは再度OKサインを構えた。


(それじゃ、戦闘こっちで焦ってくれや)


 Rは【踊る自動人形コッペリア】をマナップすると、即座に飛び掛からせた。それに呼応して、バジルも【花菖蒲イリス】を瞬間詠唱マナップする。Rの精悍なワンフィンガーに対し、バジルは優美なツーフィンガーだ。


(ほう、【花菖蒲イリス】の《鏡像ミラーイメージ》か。延々と耐える算段だな?)


 Rの指摘通り、《鏡像ミラーイメージ》の効果で、【花菖蒲イリス】は【踊る自ダンシング動人形オートマトン】に変わった。Rは《速射クイックファイア》の速さを生かしてすぐさま無力化するつもりだったが、バジルは速攻の相手にもきっちり対策を講じている。


(【踊る自動人形コッペリア】に化けさえしたら、別の呪文を唱えたときに『未使用で』戻るもんな。運用次第じゃ、意外と耐えられるかもしれねえぜ?)


 案の定、コッペリア同士が切り結んだ直後、Rは【放棄】を使って逃がし、バジルもレベル「0」の【強欲の宝石ジュエルオブグリード】をマナップして逃がした。バジル側の瞬間詠唱は、呪文自体の効果こそ全くないが、「唱えた」ことによるコッペリアのデメリットは発動する。これで、互いに前線のユニットはゼロだ。

 ――動揺は見られるが、詠唱タイミングは万全か。流石はナギのライバル、【花菖蒲イリス】の運用もお手の物ってわけかい。

 Rはコッペリアを本気でぶつけたが、【花菖蒲イリス】に遮られた。ならばと、使用済みになるギリギリの時分を見計らって襲撃したが、手堅くブロックされてスロットに戻される。バジルはつかず離れずの距離を絶妙に保っているため、おそらく、百回繰り返したところで結果は同じだろう。

 ちっ、うまい位置取りだ。いい師匠に教わったな。

 生中なまなかな相手ならフェイントを仕掛けてゴリ押しを図ったのだが、正確な対応をされるといたずらに時間が掛かる。そして、バジルはそれが出来る敵だ。襲撃を少し遅らせても、バジル側が攻撃を当てにくれば、今度はRの方がスロットに戻さざるを得ない。すぐにRが反撃しても、バジル本人は距離を取る。まさにつかず離れずだ。

 ――白いオーラに、紫銀の【花菖蒲イリス】か。青紫銀白ぼうぎょ「2×4」ツーバイフォーだな。

 バジルのデッキレシピを一考したRは、堅守だがロクな攻撃手段がないことを確信すると、コッペリアを呼んで堂々と前進した。

 対するバジルは、【無敵の盾イージス】を張ってじりじりと後退する。


(お姉様……、後生ですから、忍び込んだことを叔父様に謝罪してくださいませ)

(おいおい、よりによって俺に後生・・かよ。死後に生まれ変わっちまったこの俺に。殺されちまってゴメンナサイってか?)


 Rは失笑した。時折【衛星球タクロー】の視界にも気を配るが、周囲に怪しい人影はない。


(あとな、オジサマオジサマと言うが、それはお前とどういう関係だ?)

(幼少のみぎりに定められた、わたくしの許嫁いいなずけですわ)


 やたらと時代がかった言い回しに、Rは口笛を吹いた。


(お前、いいトコの嬢ちゃんだったのか。なら差し詰め、悪役令嬢ってやつだな)

(お姉様から見ると、まさしくそうですわね)


 バジルは顔を綻ばせた。つられて微笑するRだが、すぐに鋭い眼光を湛えるとコッペリアで切り掛かる。バジルは、再度メタルヴァイオレットのマナップと共に【花菖蒲イリス】を呼び、【踊る自動人形コッペリア】に変えて応戦した。

 双方共に、同型のユニットを切り付け合うばかりで千日手に見えるが、Rは自身に【敏速】クイックネスをつけると、バジルとの距離を急速に詰めていった。

 ――頃合いだな。

 コッペリアの勝負が引き分けに終わること数合、Rは【武器作成クリエイトウェポン】でレイピアを作った。すかさず踏み込んでバジルの手を突き刺す。

 パリィンッ!

 【無敵の盾たて】をカチ割った直後、最大限の【魔力奪取ドレインマナ】を叩き込む。


「えっ!?」


 まさかの呪文に目を瞠るバジルだが、いくら見ようと自身の魔力は空っぽだ。

 ――これで【花菖蒲イリス】は出せねえぜ、バジル。

 慌てて槍を構え直そうとするも、背中に【寄生虫パラサ】を張り付ける。


「クッ!」


 苦し紛れに目を突いてきたので、【無敵の盾イージス】を張ってワザと前に出てやった。衝撃タイミングをズラされたバジルは、束の間体勢を崩す。

 ――お返しだ。

 Rはバジルの両手を速やかにぶった切った。10秒間使えなくなった手から槍が吹き飛ぶや、【無の領域ナルフィールド】で魔力の回復も絞る。

 マホロバからの脱出も許さず、魔力はカラ。あとはじわじわライフを奪って詰みである。


(さて尋問だ)


 遠くで槍の柄が乾いた音を立てるなか、Rはバジルの心臓にレイピアを向けた。


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