#12 【花菖蒲/Iris】
Rは壁に水脈を押さえつけた。種族差に加えて体格差もあり、右手一本で容易く両手をロックできる。
(口が滑ったな、水脈。――いや、脳味噌が滑っちまった、か?)
「う、うぅっ……」
必死に身をよじって脱出を図るが、体を寄せて動きを封じる。実は素早く《人間変身》を解除されたら逃げられていたのだが、気付かなかったらしい。どこまでも素人臭い立ち回りだ。
(そういえばお前、家に来る途中でも妙な反応をしてたよな。映像を見た直後も声を上げたしよぉ)
(うぅっ、クッ……)
(てっきり俺は、「R様がお城住まいじゃないなんて、頗る意外~」とかだと思ってたが、どうやら心得違いをしてたようだ)
Rは左手で水脈の襟首を掴むと、ぐっと顔を近付けた。
(お前、この家を知ってたな!? 答えろ、水脈!)
(そ、そうよ!)
水脈はキッと見上げた。
(でも勘違いしないで! 美登里は人殺しなんかしないわ! 渚のことだって、美登里は心配してたから来たのよ! それだけだもの!)
(ほ~ぉ……? だが、俺は御園居研究所で殺された。そして、そのバッジを付けた女が自宅に上がり込んでいる。状況だけ見たら真っ黒だぜ)
(それだけじゃ、分から、な……ぃ……)
水脈の声が尻すぼみになったのは、Rがいよいよ柳眉を逆立てたからだろう。
(答えろ水脈。お前は御園居研究所の関係者か)
(違うわ。美登里の友達なだけよ!)
(ああ……、だろうな)
Rも、今までの話ぶりからして無関係だろうと考えを改めていた。水脈に迫ったのに、咄嗟に【精神感応】で出てきたのが、美登里を庇う話だったからだ。
普通、自分が疑われていると思えば、自分の弁解が真っ先に出てくる。最低でも、何か言及する。
水脈の場合、それが一切なかった。ないというのは、強烈な無実の要素だ。
また、油断させて寝首を掻くにしても、【精神感応】でバラすようなヘマをしている時点で有り得ない。バラさない方が余程やりやすいのだから。
(次だ。その「美登里」とかいう女は何者だ?)
(さっき会ったでしょ。バジルよ)
――クソッ、あいつか!
Rは歯を食い縛った。ひときわ剣呑さが増したことで、水脈がビクッと怯える。こういう反応は人並みらしい。
横目で見ると、MVでは二人の距離が極めて近付いていた。殺伐としたマホロバとは違い、現実ではいたって和やかな会話が紡がれている。
『ナギちゃんの項、白くてすごく綺麗ね』
美登里とかいう悪女が、渚の首筋に両手を這わせた。
『スベスベしてて、お人形さんみたい』
『本当に羨ましそうに言うよね、みーちゃん。すぐ日に焼けちゃうから、もっと黒い方が良かったのよ?』
不平を漏らす渚だったが、実は満更でもないのか、美登里にされるがままになっていた。少女二人によるじゃれ合いの光景など、普段のRなら大好物なのだが、一方が妹でもう一方が毒婦となれば話は別だ。両手で首を撫でるという耽美的な行為が、最早、「いつでもあなたの細首ぐらい絞められる」というサスペンスにしか映らない。
(マホロバに呼び出せ)
(え?)
Rは水脈を押さえる手にいっそう力を込めた。
(バジルを、ここに、呼べ)
(ちょ、ちょっと待ってよR。あなた、美登里をどうするつもり?)
(安心しろ、犯人かどうかの確認はしてやるさ)
(そ、それはそうだけど……)
水脈はゴクリとツバを飲み込んだ。
(もし、万一、美登里が手に掛けてたって分かったら?)
互いに呼吸が浅い。水脈は、それにくわえて体が小刻みに震えている。
Rは、襟元の拳を強く握り込んだ。首を絞られて苦しそうに呻く水脈を冷徹に見下ろす。
「呼べ」
水脈は、いやいやと首を横に振るばかりだ。Rの威嚇にすっかり怖じ気付いているくせに、目だけはこちらを見据えて逸らそうとしない。
――チッ。大した奴だよ、お前は。この期に及んでまだ突っ撥ねるとはな。
脅し付けるだけでは時間が掛かると分かったRは、拳を緩め、水脈の両手も解放した。いきなり新鮮な空気を取り込んだ水脈は、ケホッ、ケホッと噎せ込む。
(水脈、お前の気持ちを軽んじていたのは謝るぜ。済まなかった)
Rは水脈に付けていた【寄生虫】も消し、完全に自由にした。
(だが、重ねて頼む。バジルを呼んでくれ)
(そ、そう言われても……)
(妹まで死なせないでくれ!)
(――ッ!)
全力の想念で懇願するRに、水脈は激しく動揺した。
(俺は死んだ。それは愚か者が死んだだけの、過ぎたことだ。だが、俺をこれ以上の愚か者にさせないでくれ!)
(うぅっ……)
(俺のせいで家族が殺されたら、死んでも死にきれねえっ! 頼むっ! 呼んでくれっ!!)
(くっ……、ううぅっ……。わ、分かったわよ……)
渚の命と、バジルの命。命の重圧からなる板挟みに、水脈は泣きそうな表情で頭を抱えていた。
(でも……、これだけは絶対に約束して。バジルを殺さないで)
(善処する)
(いいえ、駄目よ……。あなたの言い分も痛いほど分かるけど、それでも、彼女も大切なの……)
哀切極まる瑠璃色の双眸を、Rは真正面から見つめ返した。
画面から齎される楽しげなやりとりが、ひどく遠くのものに聞こえる。意識が向いていないからなのか、それとも、もう二度と行けない世界だからなのか。
マホロバは、拡張現実のマジカルドーンが発祥ということもあり、すべてが仮想現実になった今も現実世界を模して作られている。MVを見れば現実の様子が見られるし、音声も聞こえる。なんなら会話すら出来る。
けれども、電脳の壁は越えられない。――決して。
現実世界でどれだけ家族に危害が及ぼされようとも、マホロバはあくまで異世界。データだけのRでは、傍観者になるしかないのだ。
(分かった)
Rは厳かに頷いた。
(万一の時は、無力化するに留めて、司法に任せる)
(それなら……いいわ)
すっかり憔悴した様子の水脈は、自身のインベントリから電話を出した。
(いいか、水脈。マジで呼び出すだけだぞ。余計なことしたら……)
(するわけないでしょ。渚だって友達よ。美登里と同じくね)
(――あぁ)
こめかみを手の付け根でガツガツと叩いたRは、大きく息を吐いた。
(すまん)
(大丈夫、分かってるわ)
クシャクシャになったポニーテールを解いた水脈は、手櫛で髪を梳きながらバジルを呼び出した。
※ ※ ※
【花菖蒲/Iris】
紫銀/レベル2/ミドルクラス
分類:ユニット(精霊)
攻1/速4/生1
サイズ:中
能力:準備時間を一瞬にして発動することが出来る。その場合、半径10m内にいる、自分の所有ユニット以外の1体に姿を変えられる。2秒後、スロットに使用済みの状態で戻る。
特記事項:紫と銀を1レベルずつ持つ呪文とみなす。
「すれ違う前に話を交わすの。そうすれば、心が通わせるわ」 ――イリス
53/116
収録版:EV
※ ※ ※
場違いなほど軽快なコール音が鳴り、映像の美登里が端末を操作した。
「もしもし、水脈だけど」
『あ、水脈ちゃん。どうだった、お姉様は』
どうやら、本当に美登里=バジルらしい。喋り方が若干違うが、ショコラ同様にキャラを作っているのだろう。電話と映像の音声が被ってステレオに聞こえる。
「実はね、そのお姉様だけど、今すぐバジルに会いたいって言うの」
『え、嘘!?』
美登里の声が上擦る。
『そ、そんな……本当に?』
「本当よ。そっちも用事があるでしょうけど、どう?」
『ええっと……。じゃ、じゃあ、ちょっと待っててもらって……。ナギちゃん!』
美登里はそのまま渚のほうを向いた。
『実は、さっき話してたお姉様が、今すぐ会いたいって』
『えーっ! 滅茶苦茶ラッキーじゃない! いいわよ、私の“まゆりん”を貸したげる』
『ありがとう、ナギちゃん』
美登里が電話口に戻った。
『水脈ちゃん、大丈夫だったわ』
「ええ、じゃあ待ってるわね」
『場所はさっきと同じ?』
「あ、えっとね……。実は、ナギの自宅まで来てるの」
『えぇっ!? じゃあ、本当に会いに来てくださってるのね。すぐ行くわ』
電話が切れ、Rは水脈とともに屋外へと場所を移した。1秒が1コマになり、体が軽くなる。
Rは用心のため、【衛星球】をマナップした。フヨフヨと100mほど上空に浮かべて警戒状態にさせたころ、バジルが家の前に【開始】して現れる。
「ハァ~ンッ! やっぱりお姉様にぴったりのバニーコートですわ~!!」
「ありがとよ、バジル」
《魔力視覚》を発動させたRは、白いオーラのバジルに悠然と近づいた。1秒の待機時間が明けるや、胸の羊毛をガバッとめくり上げる。
「お、お姉様……? 最前と違って情熱的なのは喜ばしいですけど、水脈ちゃんが見てますわよ?」
「見せつけてやるよ」
ひん剥いた先には、新雪のような柔肌によく似た、乳白色の全身タイツがあった。慎ましい胸の膨らみには緑のバッジが留まっている。M字に真一文字の線が通った、忌まわしきマークだ。
――なるほど、スリスリしたときに当たってたのはこいつだったって訳か。チッ。
手を離したRは、維持していた【精神感応】をスピーカーで使用した。
(バジル。そのバッジはどこの物だ)
「え?」
戸惑いながらも、バジルは【精神感応】をマナップして応じた。
(これは、わたくしの敬愛する叔父様の会社、御園居研究所のバッジですわよ)
(そうかい)
言質を取ったRは、スピーカーをオフにして【寄生虫】を出現させた。短兵急な仕事モードに、バジルは息を呑む。
(お、お姉様? いったい何を……)
(バジル。お前は二週間ほど前、御園居研究所で起きた事件を知ってるか?)
(えっ? えぇ、あらましだけは。Rとランペルという二人組がうちに忍び込んだものの、追い払ったと聞いておりますわ)
(なるほどな)
現場には居なかったか。
Rは、最悪の事態は回避できそうだと分かり、胸を撫で下ろした。
(バジル。お前が今言った「R」ってのは、俺のことだ)
(え?)
目を瞬いたバジルは、すぐさま一笑に付した。
(お姉様は、悪事を働くような方ではございませんわ。正義の味方ですもの)
(そいつは買い被りすぎだぜ)
Rは首を撫でつつ、【寄生虫】をバジルの右肩に留まらせた。
(実はな、俺の正体は「見えざる手」だ。とある会社から盗まれたパクリ呪文を摘発するために、御園居研究所へと出向いたんだよ)
(えぇっ?)
バジルの顔が強張る。
(あの、お言葉ですがお姉様。叔父様の会社は……)
(そして)
Rは構わず続けた。
(返り討ちに遭って命を落とした。二週間前の、4月19日にな)
(――まさかッ!)
口を覆ったバジルは、縋るように水脈を見た。
(う、嘘でしょ、水脈ちゃん……? 『死んだ』っていうのは、お姉様の冗句よね?)
(いいえ、バジル)
水脈はゆっくりと頭を振った。
(あなたと別れた後、Rの先生って呼ばれるOK社の人にも会ったわ。どうやら、本当みたい)
(OK社の……)
バジルの体は小刻みに震えていた。大方、「死者を蘇らせるシステム」の噂は本当だったとでも思ったのだろう。
(そ、それじゃあ……、叔父様が仰っていた、「追い払っただけで殺してない」という話は、嘘……?)
覚束ない足取りで後ずさったバジルは、怯えた目でRを捉えた。浅い呼吸を繰り返しつつ、幻想的なプラチナブロンドの髪をくしゃりと押さえる。
(だとしたら……。お姉様の名前にある「R」は、叔父様の会社に侵入した「見えざる手」の一人、コッペリアマスターのR……!)
(おう、そうだ)
やれやれ、今日初めてマトモな二つ名で呼んでくれた奴が敵とはな。Rはほろ苦さを覚えつつ、かすかに笑みを滲ませた。
(お……、お待ちください、お姉様。えぇと、御園居研究所は呪文開発こそ行っておりますが、OK社に認められている範囲でだけ制作している、真っ当な会社ですわ)
(なるほど、そういう対応かい)
問答無用とばかりに、Rは【寄生虫】をバジルの背中に滑り込まそうとした。
(駄目よ、R!)
(あァ?)
水脈がいきなりRの腕を引っ張った。
(殺すのは、絶対に駄目!)
(しねえよ。魔力だけ絞るんだ。豹変されると厄介だからな)
水脈を振り払ったRは、改めて【寄生虫】に指示を飛ばした。しかし、バジルは展開した道具袋から細身の片手槍を出しており、肩の【寄生虫】を一撃で仕留める。
(ほお……なかなかやるな)
直線的だったとはいえ、動きの速い【寄生虫】を退治され、Rは指をポキポキと鳴らした。
(大人しく尋問される気はねえってことか、バジル?)
(えぇ。――恐れながら)
青褪めるを通り越して顔面蒼白となっていたバジルは、祈るように槍を持っていた。
(まだ混乱しておりますが、叔父様の会社から見た場合、お姉様こそ招かれざる客だったのですから。無論……抵抗いたします)
(そりゃそうだ)
敵の話を鵜呑みにする奴はそうそういない。Rはさして怒るでもなく頷いた。
(ところでお前、俺が三馬鹿と戦ってた時、【夜】の内側でストリップショーを堪能してたよな? そのとき、俺の呪文発動の速さにも気付いたはずだ)
(もちろん。変則呪文ですわね?)
(そうだ。お前ンとこの会社がパクッた呪文のな)
(その点は齟齬がございますわ)
(ほお。それじゃあ意見を戦わせるか。――こっちで戦ってからな)
Rが拳を振ってみせると、バジルは神妙に頷いた。
幾度も通った軒先の道を、心悲しい風が吹く。RがOKサインを作り、バジルも同じく身構えたとき。
(R!)
間抜けなタイミングで水を注した〈水玉〉に、Rは舌打ちした。
(いい加減にしろよ、水脈?)
(約束は、守ってね)
(分かってる。殺さねえよ。――お前には、ちょいと殺意が湧いたがな)
ったく、焼け石に水ってのは、本来効果ねえハズだろ? 穿ちまくってるぞ、この雨垂れ。
Rがぞんざいに頭を振ると、バジルも少し緊張が解れたのか、クスリと笑った。
(随分と仲がよろしくなられたのですね。ちょっぴり妬けますわ)
(ほざけ、余裕だろ)
(もちろんです)
哀しくも妖艶な笑みを湛えるバジルに、Rは再度OKサインを構えた。
(それじゃ、戦闘で焦ってくれや)
Rは【踊る自動人形】をマナップすると、即座に飛び掛からせた。それに呼応して、バジルも【花菖蒲】を瞬間詠唱する。Rの精悍なワンフィンガーに対し、バジルは優美なツーフィンガーだ。
(ほう、【花菖蒲】の《鏡像》か。延々と耐える算段だな?)
Rの指摘通り、《鏡像》の効果で、【花菖蒲】は【踊る自動人形】に変わった。Rは《速射》の速さを生かしてすぐさま無力化するつもりだったが、バジルは速攻の相手にもきっちり対策を講じている。
(【踊る自動人形】に化けさえしたら、別の呪文を唱えたときに『未使用で』戻るもんな。運用次第じゃ、意外と耐えられるかもしれねえぜ?)
案の定、コッペリア同士が切り結んだ直後、Rは【放棄】を使って逃がし、バジルもレベル「0」の【強欲の宝石】をマナップして逃がした。バジル側の瞬間詠唱は、呪文自体の効果こそ全くないが、「唱えた」ことによるコッペリアのデメリットは発動する。これで、互いに前線のユニットはゼロだ。
――動揺は見られるが、詠唱タイミングは万全か。流石はナギのライバル、【花菖蒲】の運用もお手の物ってわけかい。
Rはコッペリアを本気でぶつけたが、【花菖蒲】に遮られた。ならばと、使用済みになるギリギリの時分を見計らって襲撃したが、手堅くブロックされてスロットに戻される。バジルはつかず離れずの距離を絶妙に保っているため、おそらく、百回繰り返したところで結果は同じだろう。
ちっ、うまい位置取りだ。いい師匠に教わったな。
生中な相手ならフェイントを仕掛けてゴリ押しを図ったのだが、正確な対応をされると徒に時間が掛かる。そして、バジルはそれが出来る敵だ。襲撃を少し遅らせても、バジル側が攻撃を当てにくれば、今度はRの方がスロットに戻さざるを得ない。すぐにRが反撃しても、バジル本人は距離を取る。まさにつかず離れずだ。
――白いオーラに、紫銀の【花菖蒲】か。青紫銀白型「2×4」だな。
バジルのデッキレシピを一考したRは、堅守だがロクな攻撃手段がないことを確信すると、コッペリアを呼んで堂々と前進した。
対するバジルは、【無敵の盾】を張ってじりじりと後退する。
(お姉様……、後生ですから、忍び込んだことを叔父様に謝罪してくださいませ)
(おいおい、よりによって俺に後生かよ。死後に生まれ変わっちまったこの俺に。殺されちまってゴメンナサイってか?)
Rは失笑した。時折【衛星球】の視界にも気を配るが、周囲に怪しい人影はない。
(あとな、オジサマオジサマと言うが、それはお前とどういう関係だ?)
(幼少の砌に定められた、わたくしの許嫁ですわ)
やたらと時代がかった言い回しに、Rは口笛を吹いた。
(お前、いいトコの嬢ちゃんだったのか。なら差し詰め、悪役令嬢ってやつだな)
(お姉様から見ると、まさしくそうですわね)
バジルは顔を綻ばせた。つられて微笑するRだが、すぐに鋭い眼光を湛えるとコッペリアで切り掛かる。バジルは、再度メタルヴァイオレットのマナップと共に【花菖蒲】を呼び、【踊る自動人形】に変えて応戦した。
双方共に、同型のユニットを切り付け合うばかりで千日手に見えるが、Rは自身に【敏速】をつけると、バジルとの距離を急速に詰めていった。
――頃合いだな。
コッペリアの勝負が引き分けに終わること数合、Rは【武器作成】でレイピアを作った。すかさず踏み込んでバジルの手を突き刺す。
パリィンッ!
【無敵の盾】をカチ割った直後、最大限の【魔力奪取】を叩き込む。
「えっ!?」
まさかの呪文に目を瞠るバジルだが、いくら見ようと自身の魔力は空っぽだ。
――これで【花菖蒲】は出せねえぜ、バジル。
慌てて槍を構え直そうとするも、背中に【寄生虫】を張り付ける。
「クッ!」
苦し紛れに目を突いてきたので、【無敵の盾】を張ってワザと前に出てやった。衝撃タイミングをズラされたバジルは、束の間体勢を崩す。
――お返しだ。
Rはバジルの両手を速やかにぶった切った。10秒間使えなくなった手から槍が吹き飛ぶや、【無の領域】で魔力の回復も絞る。
マホロバからの脱出も許さず、魔力はカラ。あとはじわじわライフを奪って詰みである。
(さて尋問だ)
遠くで槍の柄が乾いた音を立てるなか、Rはバジルの心臓にレイピアを向けた。




