7、誘拐
エリアリバティなどのセキュリティが厳しい地域を避け、フェラデルフィアから内陸部
に入り希望の丘の海側とは反対方向からラボ・クリブに近づいている。この周囲には気象センサー以外に我々を感知する物は無いはずだ。地形に合わせ地面すれすれをスカイクルザーはゆっくりとそして静かにラボ・クリブを目指している。上空の厚い雲は月明かりを隠している。あれ以来我々に付きまとっている偵察衛星もまだ戦艦リバティを見張っているはず、我々の急な訪問に感づく者は誰もいない。
まもなくラボ・クリブに到達する。
「いいですか手順を確認します。非常脱出口の前に到着したら、私は緊急事態を宣言し、ラボ・クリブのシステムコンピューターを直接制御して非常脱出口と各部屋のドアを開けます。タモツは戦艦リバティから持ってきたその鉄の棒を非常脱出口のドアに突っ込んで二度と閉まらないようにしてください。その後一斉に中に入り、一気に貯蔵庫まで駆け降ります。モモコはここで注射を集めてください。途中エアーロックがあります。非常脱出口が開き、内圧のバランスが崩れているので自動的に閉まっていますが、鍵はかかっていません。みんなで力いっぱい押せば開ける事が出来ます。ドアは全開するとその状態でロックがかかり閉まらなくなります。それから機械室の横の階段を三階まで登ります。ジュンイチとタモツは子供たちを誘導してください。モモコは注射を打ってください。脱出に反対する子育てロボットが居るかも知れません。私が説得しますから、その間に子供を連れ出してください。子供たちを連れ出したらすぐに僕らの家に逃げ込んでください。マスターにより電力の供給が止められると思いますが、それ以上の危害は加える事は出来ません。いいですね」
「ねえねえ、電気が止まったらダイスケの充電はどうするの。死んじゃうよ」
「そんな事考えている場合ではありません」
「でも、ダイスケが……」
「私より君たちの仲間の方が大切です。そうじゃありませんか?」
「でも……、ダイスケ」
「ジュンイチ。泣いてはいけません。君たちは人間として生きなければならないのですから。前進あるのみです。いいですね。さあ、もう着きますよ」
三人は大きくうなづいた。
スカイクルザーがラボ・クリブの非常脱出口の横に降りたつと、タモツが大きな鉄の棒を担いで飛び出した。続いてジュンイチ、モモコ。ポチと仔豚たちがそれに続いた。全員が非常脱出口のドアの前で両足でしっかりと大地を踏みしめて並んだ。
スカイクルーザーのプロペラが止まると希望の丘は静けさに包まれた。今夜は月も無く周囲は暗黒の世界である。ただ、スカイクルーザーのライトに照らされた非常脱出口のドアだけが明るく浮き上がっている。
「さあ始めますよ」
私は右耳のカバーをあけ通信ユニットを差し込んだ。即座に緊急事態宣言を発令しようとした瞬間……。
「ダイスケ? ダイスケどうしたの? ダイスケ!」
「……」
「ダイスケ 大丈夫?」
私はあまりの驚きに思考回路が一時停止した。まさか。あり得ない事だ。だが、これは事実。私は思い直りその言葉を告げた。
「マスターから君たちに緊急入電です」
「えっ!」
「スピーカーにつなぎます」
私に内蔵されているスピーカーから優しい女性の声が流れた。
「ジュンイチ、モモコ、タモツ。よくここまで頑張ってくれました。あなた達の成長が嬉しくてたまりません。これからもダイスケの言う事をよく聞いて立派な大人になってください」
「おい、マスターって女かよ?」
タモツが驚いたように小さな声で言った。
「ダイスケ、お疲れ様でした。あなたのおかげで私もようやく母になれました。母親っていいものですね。ありがとう。でも、もう少し働いてもらわなければなりません。あなたに二十七人の子供たちを預けます。三人の子供のように明るく立派な子供に育ててやってください。頼みましたよ。困った事があったらいつでも言ってください。私はいつでもあなたたちを見守っていますから」
しばらく沈黙が続いた。
非常脱出口のドアがゆっくり開き、中から二十七人の子供とその子育てロボット、それにタモツとモモコの子育てロボットが出てきた。




