第十話
朝見たニュースが頭から離れない。
とても仕事など出来る状態では無く、体調不良を理由に早退し、自宅でテレビを付ける。
リモコンを持つ手が震えてなかなかスイッチを押せない。汗は出ないのに、動悸だけが激しい。昼間のワイドショーでもあの事件が取り上げられていた。犯人が若く美しい女性であることや、元キャバ嬢であるということもネタとして視聴者に食いつきがいいのかもしれない。
夕方や夜のニュースでも彼女の顔が映っていた。その度に僕は画面を凝視し、記憶の中の彼女と照らし合わせる。
夢の中の彼女と、と言った方が良いかもしれない。
痴情の縺れから相手の男を滅多刺しにした犯人として彼女は画面に映っていたのだ。
あれは本当に彼女だったのか。単に似ているだけかもしれない。もはや僕には分からない。もちろんキズナなんていう名前では無い。全く違う名前だ。いや木下瑞奈というこの犯人・・略してキズナという名前にすることも出来る・・。彼女が客と恋愛をして店から消えたということすら信じられなかったが、さらにその相手を刺すとなると、僕の横でぎこちなく接客をし、お互いの学生時代の陰キャぶりで盛り上がった彼女とあまりにも一致しない。
でもそれは結局僕は彼女のことを何も知らなかっただけでは無いのか。
ただ一方的に仲良くなったと思っただけで、全ては僕の勘違いと妄想では無いのか。
本当の彼女はお金持ちでカッコいい男性に水揚げされたいと計算高く願っていたし、嫉妬や憤怒から男を刺すような人間なのだ・・・そこまで考えてから僕は思考を止めた。
仮にそうだとして、なんだというのだろう。僕が恋々としていたのは、そんなことをする人間ではない。
寝る前に、今日も日課のようにスマホを確認する。
最後に彼女に送ったラインは依然として既読になっていない。
もう永遠に既読にはならないのだろう。
しかしそれで構わない。
彼女には夢の中という現実でいつでも会うことが出来るのだから。
「先生」からもらった薬剤を過剰に飲み込む。
もう夢から醒めないかもしれない。だがそれでいい。
僕はまだ、絶望していない。




