第一話
グラスの中の氷を指で回すと、指先から氷の冷たさと自分の温かさが伝わってくる。自分の氷点を確認しているかのようだ。
週末ということで店内は賑わっていた。笑い声やシャンパンの栓が飛び交う音が聞こえてくる。煌びやかな店内で僕の周りだけが静寂に包まれている。隣に座るキャバ嬢はつまらなそうに、時折自分の携帯を見ている。最初は懸命に僕に笑顔で話題を振っていたが、僕が全くの無反応なので諦めたのだろう。話す気が無いならこんな店に来るな、という無言の抵抗をしている。僕としても、なぜ今さらこの店に来たのか、自分でもよく分からなかった。もう彼女がこの店に居ないことはとっくに分かっている。
何かを期待して来たわけではない。それでもこの街のネオンや喧噪、卑陋なキャバ嬢に癒されたい、という願望があったのだろう。しかしそれはかなわぬ願いであり、僕の絶望を一層鮮明にするだけだった。
一口も口を付けていないウイスキーの水割りと見つめ合いながら、僕は一言だけ「お会計」と呟いた。隣のキャバ嬢は安堵の表情を浮かべ、黒服に伝票をもってこさせる。
会計を済ませ、店を出ると深夜にもかかわらず街はまだ賑わっていた。秋も近いというのに夏の終わりを拒否するような熱気に包まれていた。
僕は冷静な足取りで地下鉄に乗り込む。無意識のうちに、ポケットの中の石を握りしめていた。




