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魔王城 受付録 ~会議室には入れません~  作者: 叶詩


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3/4

世界からの苦情は受付で止まります

世界が混乱しているとき、

最初に壊れるのは秩序ではなく、窓口だ。


正義は増えた。

勇者も増えた。

だが、責任の行き先だけが定まらない。


だから今日も、

世界は魔王城の受付に並ぶ。


ここは、解決する場所ではない。

困ったという事実を、

ただ受け取る場所だ。


これは、

世界からの苦情が、

会議室に届く前に止まっていた頃の記録である。

 魔王城の受付は、静かだった。


 珍しいことではない。

 勇者が来ない日も、苦情は来る。


「本日はどのようなご用件でしょうか」


 最初の来訪者は、武器を持っていなかった。


「畑が荒らされました」


「魔物ですか」


「いえ、勇者です」


 受付係は、ペンを止めなかった。


「詳細をお願いします」


「討伐の練習だそうです」


(練習場所の選定に問題がある)


 記録用紙に、淡々と文字が並ぶ。


 次の来訪者は、商人だった。


「街道が危険でして」


「魔物ですか」


「勇者同士です」


 ここで初めて、受付係はペンを止めた。


「……理由を伺っても?」


「どちらが正しいか、話し合っているそうで」


「話し合い、ですか」


「はい」


 商人は一瞬、言葉を選ぶように視線を泳がせてから続けた。


「剣と魔法で」


 受付係は、静かに頷いた。


「被害は」


「荷馬車が三台、焼けました」


 受付係は、何も言わずに書き込む。


 ――勇者同士の話し合い(物理)。


「通行人は?」


「皆、近寄らなくなりました。遠回りしています」


「賢明ですね」


「街道は、事実上使えませんが」


「最近は、よくあります」


 声の調子は、事務的だった。


 世界は、正しさを主張するほど、

 周囲を巻き込みやすい。


 特に、それが勇者である場合は。


「以上です」


「ご報告ありがとうございます」


 商人が去ったあと、受付係は小さく息を吐いた。


 書類が、また一枚、上に重なる。


「魔王は、本当に何もしないのですか」


 そう尋ねてきたのは、名も告げない人物だった。


「はい」


「それで、世界は大丈夫なのでしょうか」


 受付係は、少しだけ考えた。


「分かりません」


 正直な答えだった。


「ですが」


「?」


「今は、皆さんが考えています」


 その人は、納得したような、困ったような顔をして帰っていった。


 受付には、返事を書かない書類が増えていく。

 解決しない問題。

 保留されたままの世界。


 それでも、記録だけは残す。


(決めない、という決定もある)


 会議室の奥から、かすかな声が聞こえた気がした。

 内容は分からない。

 結論も聞こえない。


 それでいいのだと、受付係は思った。


 受付は、止める場所ではない。

 通す場所だ。


 世界が困ったとき、

 まず立ち寄る場所があるというだけで。


 今日も受付は、

 返事を書かないまま、開いている。

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