(3)
「もしもし……」
俺は、公衆電話に出る。
『石田竜太さんですね?』
その名前は……俺が尊敬する特撮ヒーローものの監督2人の名前を繋げた偽名。
俺は、その偽名を、取材を申し込んだ「ヒーロー」達とのやりとりの際の「コードネーム」として使っていた。
「は……はい……」
『見えていますよ。ここから……』
どうやら……ボイス・チェンジャーか何かを使っているらしい声。
多分だが……女だろう。
「えっ?」
『そこから見て、道の反対側に有る5階建ての雑居ビル……その屋上です』
「は……はい……」
『防犯カメラに写らずに済むのは……そうですね、貴方から見えている入口の反対側の入口から入って下さい。そして、非常階段で屋上まで』
「判りました」
俺は、指定された雑居ビルの……ええっと……脇道とか無いのかよ?
あと、すげ〜古いビルだ。
言われた通りにするには……ぐるっと回って……。
とりあえず、歩く。
歩く。
暑いけど歩く。
途中に自販機が有ったんで、500㏄入りの麦茶とスポーツ・ドリンクを1本づつ購入。
ようやく、ビルの裏側に到着。
中に入って、非常階段のマークが有る階段を登る。
登る。
登……だめだ……運動不足だ。
古いマンションの3階に有る自室まで帰るのにも、いつも一苦労レベルの運動不足。自慢じゃないが、それが今の俺だ。
元の勤め先で、番組製作と言う名の肉体労働をやってた頃より……体力が落ちてる。
ようやく、6階まで上がり、あとは屋上……ん? 6階?
何か変だ。
ゼイゼイ、息を切らしながら……屋上まで辿り着いたが……。
居ない。
誰も居ない。
あれ?
5階建のビルと言われてたような……。
でも、このビルは……6か……。
「馬鹿ぁッ‼ こっちだッ‼」
「西村さんッ‼ 部外者の前でマスク外しちゃ駄目ッ‼」
「お前だって、本名で呼ぶなッ‼ それも大声でッ‼」
隣の5階建のビルの屋上から……男女各1人の声が響いた。
どうやら……言うまでもないが……ぐるっと回って反対側の入口に行った時に、ビルを1つ間違えたらしい……。




