広まっている噂
「で?相談の内容は分かったけど、それを俺に話してどうしろって言うんだ?」
「普段の会話と違って話が早いですね。」
「出来ればアレクさんからクレアさんに、少しお使いを控えるように――。」
「俺が言って聞くわけないだろ。そういうのは母さんに言えよ。」
ラーシェの軽口に続いてカゴットが頼み事を話すが、言い終わるより先に俺は却下した。
「もちろんヴィクトリア様に言おうとしたさ。だけど王都に急用ができたとか言って、話す暇もなくネフィーさんと一緒に転移で消えたんだ。」
「王都に急用ね……。」
ニーシャの話では開発部の作った魔物が王都で暴れてるとか言ってたけど、まさかそれが急用なわけないよな?
「どんな用事か少し気になりますね。王都で何かあったのでしょか?」
事前に聞いた話から母さんの急用を予測していると、何も知らないシアンが少し不安そうに聞いてきた。
「……まぁ、王都には何かしらの騒動を起こす奴が大勢いるからな。むしろ何もない方が少ないだろ。」
「それはそうでしょうけど、アレク様を知ってる人が聞いたら、お前だけには言われたくない。と絶対に言われそうですよ。」
「こっちで起こる騒動の大半は、殆どアレクさんが原因ですからね。そりゃあ言われたくないでしょ。」
「完全にブーメラン発言でしたね。」
馬鹿正直に予測した内容を話すわけにもいかず適当に返事をすると、シアンだけでなくカゴットやラーシェにもツッコまれてしまった。
そんな皆のツッコミに納得できないでいると、ラーシェが話を戻す。
「とにかくヴィクトリア様がいない今、クレアに言えるのはアレク様しかいないんです。少しはお使いを控えるように言ってください。」
「もし言ってくれたら、街の温泉施設で使える牛乳引き換え券とアヒルの玩具をあげるから頼むよ。」
「そんな報酬で受けると思ってるのか?物で頼むなら、もう少し喜ぶ物を渡せよ。」
「では入浴剤一年分とか、どうですか?これを使えば日頃の溜まった疲れが取れて、肌艶もよくなりますよ。」
「それはシアンが喜ぶ物であって、俺はいらないから。なんだよ、その無駄な入浴セット推しは。」
「お使いの帰りに、カゴットさんと回した福引で当たりました。」
「本当は一等の有名温泉の宿泊券が欲しかったんだけど、二人揃って二等の入浴セットが当たったんだよな。」
「出された景品の割に等数が高いな、おい。」
「ちなみに特賞は、掘り当てるまで無料の温泉を掘る券でした。」
「そんな物が当たっても困るだけだろ。銭湯でも開業しろってか?」
「あ、それは別の特賞ですね。当たれば小さな温泉宿が貰えるみたいですよ。」
「どんな特賞だ!」
福引の範疇を超えているツッコミどころ満載の景品の数々を聞いて、とうとう俺は大きくため息を吐き出した。
「今の会話だけで、もの凄く疲れたんだけど。」
「ツッコミどころが多かったですからね。それで、どうしますか?」
「どうするもこうするも、何を言っても引き下がらないんだろ?」
「流石アレク様。」
「よく分かってる。」
肯定する二人の言葉を聞いて、再び出そうになるため息を俺は我慢した。
「という訳で、本っ当…………に不本意だけど、クレアの部屋に行くぞ。」
「本当の部分で、随分と溜めましたね。」
「それだけ嫌だという事でしょ。仕方なく行ってくれるアレク様に、ちゃんと感謝しなさいよ。」
「もちろん感謝してますよ。今度お礼に、発情効果のある薔薇の香りの入浴剤をあげますね。」
「どんな入浴剤だ!?逢引する宿屋の風呂か!」
「なら俺は、入れたら泡に変わる入浴剤をあげようかな。」
「だから入浴剤推しをやめろ!お礼で渡すなら、風呂に関する物以外にしてくれ!」
お礼と称しつつ在庫処分みたいに渡されそうになる入浴剤を断ると、俺達四人はクレアの部屋に向けて移動した。
そうして俺の部屋から数十メートル離れているクレアの部屋に行くと、ちょうど部屋の前で数人の使用人と話しているクレアを見つけた。
「皆、いつもありがとう。またお願いするかもしれないけど、その時は……あ、お兄ちゃん。」
「ではクレア様、自分達は仕事に戻ります。」
「また何か頼みたい事があったら、遠慮せずに言ってね。」
「クレアちゃんのお願いなら、なんでも聞いてあげるから。」
「なら、その時はよろしくね。」
俺達が来た事で仕事に戻って行く使用人達。それを見送ったクレアは受け取った荷物を影に入れると、トテトテと言った足取りで俺達の方に来た。
「お兄ちゃん、久しぶり。元気そうでよかったけど……その髪はどうしたの?」
俺の姿を見て嬉しそうに声を掛けてるクレアだが、髪を見ると心底不思議そうな顔で聞いてきた。
「どうしたって、これが普通だろ。他に何があるんだ。」
「えー、だって使用人の人たちが、お兄ちゃんは子供なのにハゲてしまった、って噂してたよ。」
「どんな噂だ!?そんなものガセに決まってるだろ!」
「なら、今までの行いを反省して頭を丸めたとか、女湯に忍び込んで丸坊主にされたって言う方が本当?」
「それも嘘だから!いくら怒られようとも俺は反省して頭を丸めないし、女湯に忍び込んだ事なんて一度もないからな!」
「確かに忍び込んだことはないですね。忍び込んだことは……。」
「はい、そこ!クレアに誤解を与えるような意味深発言をするな!」
「それに他にも――。」
「まだあるのかよ!?」
遠回しに、だけど私の部屋を覗いたことはありますよね?というシアンに注意する俺だったが、まだある噂を聞いて叫ぶようにツッコんだ。
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